かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

◇ 伯爵夫人

2009-04-14 16:15:31 | 映画:外国映画
 チャールズ・チャップリン監督・脚本 マーロン・ブランド ソフィア・ローレン シドニー・チャップリン ティッビ・ヘドレン 1966年米

 「伯爵夫人」という響きは、なんとなく優雅で上品で、それでいて決して高圧的でなく、憧れから恋の対称として考えられる女性というイメージがある。公爵夫人でも男爵夫人でもなく、伯爵夫人である。
 貴族の階級は、公、侯、伯、子、男爵という序列になっている。これは、明治以降、華族をはじめとする士族(武士大名)を含めて、階級を一新した結果生まれたもので、中国の五経の一つの礼記に倣ったものである。この爵位を、西洋の貴族にも当てはめて応用している。
 この序列でも分かるように、伯爵は中位である。この、中頃というのがいいのだろう。
 
 映画のタイトルは、「A countess from Hongkong」である。つまり、「香港からの伯爵夫人」ということである。
 香港には、元来伯爵がいないから、どういうことかと思う。
 それは、すぐに分かる。
 冒頭、香港の街が映しだされる。その中の一つの店がクローズアップされる。その店先には、英語で「伯爵夫人と踊れます、料金50c(セント)」と看板が掲げられている。
 つまり、ダンスホールであり、やんごとなき夫人もしくは令嬢と踊れると、男心をくすぐる誘惑文である。なにやら、話によっては売春も可能のようである。
 伯爵夫人は、ほとんどが上海からきたロシアの没落貴族の夫人(未亡人)で、やはり様々な階級の貴族がいる。しかし、ここでも店の看板は、伯爵夫人(countess)なのである。
 やはり、どこの国でも伯爵夫人が最も魅力的なのであろうか。

 船で世界を廻って香港に着いたアメリカの高級外交官オグデン(マーロン・ブランド)は、船内でのダンスパーティーの色添えという趣向もあって、この伯爵夫人たちを紹介される。その中の一人が伯爵夫人ナターシャ(ソフィア・ローレン)で、彼女は香港を脱出しようと、彼が飲み過ぎて寝込んでいるうちに彼の船内の部屋に潜り込む。
 翌日目が覚めた彼は、自分の立場もあるので追い出そうとするが、船は香港を出ていって、彼女は船内の彼の部屋に隠れとどまることになる。
 最初は二人は言い争いの繰り返しだが、次第に恋心が芽ばえるというお決まりのコースとなる。
 
 チャールズ・チャップリンの最後の監督作品である。
 主演のマーロン・ブランドが42歳、ソフィア・ローレンが32歳と、脂ののりきった頃の作品で、二人を見ているような映画である。
 この後、円熟期に入ったブランドは「ゴッドファーザー」で男の存在感を見せつけるし、既に女としての円熟期に入っていたローレンは、「ひまわり」を撮ることになる。
 イタリア人の野性的で肉感的で身長170cmあるローレンの相手役となると、同じイタリア人の大柄なマルチェロ・マストロヤンニが多かった。彼女のインパクトの強さに太刀打ちできる男は、ハリウッドでも当時そういない。その点、ブランドはまったく見劣りしてなく、周囲を圧倒していた。
 映画の中で、ローレンの脱ぎすてたブラジャーがブランドの部屋から見つかり、それを広げる場面が出てくるが、いやはや大きい。西瓜がくるめそうである。
 
 映画全体は、あのチャップリンの監督作品にしては風刺も乏しく笑える場面も少なく、もの足りない。この手のラブ・コメディーは、マリリン・モンロー主演で多く作られたと思った。
 映画の中で、ブランドの友人で彼の片腕の渋く演技もうまい男(シドニー・チャップリン)が出てくるが、彼がチャップリンの息子だということをあとで知った。チャップリン本人も、ちらりと画面に顔を出している。
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