かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

謎の東京観光・京王路線バス「渋谷~新橋」に乗ってみた

2022-07-31 04:06:46 | * 東京とその周辺の散策
 四谷在住の友人が、「このまえ、四谷から新橋に行くのに不思議なバスに乗った」と言ってきた。
 「最近できた渋谷から新橋に行く路線バスだけど、これがちょっと変わっているの。それに、路線バスなのに1日3便しかないし」と。
 都心の路線バスで1日3便とは少ない。私の田舎の佐賀のバスでさえ、それよりは確実に多い。それに、確かに何か不思議な匂いがする。
 それで、何が不思議なのか試しに乗ってみることにした。

 そのバスとは、昨年(2021年)10月、京王バスが運行開始した、「052系統・渋谷駅~新橋駅」の路線バスである。
 1日3往復のみ。渋谷駅発(10 時20分/13時 10分/17時 10分)、新橋駅発(11 時50分/15時 50分/18時 40分)。運賃、大人210円(現金・ICとも)。

 *渋谷から、新宿、四谷、大手町、銀座を周り新橋へ

 6月1日、渋谷駅13時10分発、新橋駅行の京王バスに乗車。
 これから、謎の路線バスの経路をたどっていくが、興味のある方は東京の地図を見ながら読まれた方がいい。

 ➀・渋谷駅→・代々木公園駅→・参宮橋駅→・西参道
 渋谷駅の発着は2番乗り場で、「渋谷マークシティEAST」の真ん前である。(写真)
 この日、渋谷からバスに乗ったのは、私たち試乗探索隊3人と、早くから来て停車しているバスの写真を撮っていたマニアとおぼしき男性1人、一般サラリーマン風男性1人の5人である。
 「渋谷駅」を出発したバスは、いきなり例のスクランブル交差点を突っ切って進んでいく。
 「神南一丁目」を左折してパルコを左に見ながら公園通りを進み「渋谷区役所」へ。そこを左折して、さらに右折し、NHK放送センターを右に見ながら「放送センター西口」を経て、「代々木公園駅」へ。この間、3組4人が乗車。
 バスは、右に代々木公園を見ながら「参宮橋駅」へ。そこで小田急線を跨いで進み、「西参道」で甲州街道を横切って直進する。
 ここから、渋谷区から新宿区へ入る。

 ②・十二社池の上→・十二社池の下
 バスは、西新宿の高層ビル街に入った。
 まず、最初の停留所の名前は「十二社池の上」で、次が「十二社池の下」。

 *「十二社」が誘う、西新宿の古い地名の記憶
 この名前を見たとき、眠っていた記憶が呼び戻されたような気がした。私が東京に出てきたときの記憶で、もう何十年も埋もれていたものだ。「十二社」と書いて「じゅうにそう」と読む。今は地名から消えている。
 1960年代、私が学生の頃は、新宿の東口は若者の街として賑わっていたが、西口の奥は未開の地だった。
 「十二社」は、名前は聞くが大人の場所だったとの思いだ。
 池がないのに池が付いているのは、かつて池があったのだ。そう、今はまったく姿は変わったが、ここは元花街だったところなのだ。「十二社」と、今もバス停で名前が残っているとは思いもよらなかった。
 バスの通りの右手には巨大な都庁のビルが聳えているが、かつては「淀橋浄水場」が広がっていた。
 当時、その近くの「柏木」(現・西新宿、北新宿)に、同級生が住んでいて、彼のアパートに行ったことがある。当然今のようなビルはなく、平屋や2階建てのアパートが並んでいた。田舎から出てきたばかりの私には、地方にはない大人の臭いのする街だった。
 「この辺りには水商売の女が多いんだよ。歌舞伎町にも近いしね」と、一浪していて少しませた同級生の彼は言った。その彼も、あまり授業には出てこず、歌舞伎町でボーイのバイトをやっていた。
 その頃、田舎出の私には何となく「ボーイ」というアルバイトが格好よく見えた。
 「ボーイ」は、ウェイター、ホールスタッフのことで、現在はほとんど使われていない。フランスの「ギャルソン」も使われなくなっているそうだ。
 早く大人の世界に染まりたかった私は、その冬、新宿でボーイのアルバイトをやったのだった。歌舞伎町にあるヨーロッパの古城のような造りの豪華な喫茶店「王城」の姉妹店で、新宿東口の武蔵野館の近くに開店した喫茶「西武」である。
 当時のその店は、喫茶店なのだがシャンデリアで飾り付けたクラブのような派手な店構えで、きらきら光るガラスのシャンデリアが私には眩しかった。1階がパチンコ店、2、3階が喫茶、4階が同伴喫茶、その上がキャパレー「メトロ」だったと記憶している。
 今も老舗の喫茶店として、地道に残っているのには嬉しいかぎりである。

 ③・十二社池の下→・新宿駅西口
 バスは、新宿西口高層ビル群を進む。
 渋谷の「放送センター西口」で乗車したリクルートスーツを着た若い男女の2人が、「十二社池の下」で降りた。NHK関連の人が都庁に行くのだろうかと思った。都庁の人がNHKから戻ってきたという、逆の場合もありうるだろう。あるいは、両方に全く関係ない人だというのもないわけではない。どちらにせよ時間さえ合えば、効率のいい利用法だ。
 バスは西口高層ビル街の「新宿住友ビル」、「新宿センタービル」を過ぎ、東京モード学園のコクーンタワーを横切って、地階の車道を回りながら地上の西口へ。
 小田急百貨店前の「新宿駅西口」に着いた。この辺りは見なれていたのに、駅前の通りに面してバス停があるとは知らなかった。ここで2人下車。
 時刻は13時40分だから、出発からちょうど30分である。
 渋谷駅から新宿駅までの間、停留所は15か所。路線バスとしてはノーマルだ。

 ④・新宿駅西口→・新宿御苑→・四谷一丁目
 「新宿駅西口」からは甲州街道に出て、左折する。
 新宿駅南口前を通って、新宿御苑を右に見ながら、「新宿御苑」を過ぎる。
 新宿御苑を過ぎ去ったら、新宿通りを四ツ谷駅手前の停留所「四谷一丁目」まで一直線である。
 時刻は13時52分。

 ⑤・四谷一丁目→・大手町
 「四谷一丁目」からの進み方、走り方が変わっている。路線バスとは思えないコースを走る。それも、終点の新橋まで、大手町で一度停まるだけである。
 つまり、四谷から大手町までかなりの距離だがノンストップなのである。人家のない山里を走るのではない。う~む、凄い!といえる。

 「四谷一丁目」から新宿通りの四ツ谷駅に架かる四谷見附橋を通り、新宿区から千代田区に入る。
 新宿通りを、麹町、番町を突っ切ると「半蔵門」にぶつかる。
 半蔵門で「内堀通り」を右に南下して日比谷方面に向かうと思ったら、内堀通りを左(北)に進む。左手に英国大使館が、右手は内堀と皇居が広がっている。
 このまま真っすぐ九段方面に行くと思いきや、桜の名所の千鳥ヶ淵の手前になる「千鳥ヶ淵」の交差点信号で、急に皇居側の東の方に、内堀を突っ切るように右折する。
 突き進んだこの道は花木も植えてあり、とてもきれいな通りだ。毎年千鳥ヶ淵で花見をしてきたのに、この道は初めてである。「代官町通り」という。
 通りの右は皇居に隣接している。左に見える、赤煉瓦の旧東京国立近代美術館工芸館を過ぎると、右手に「北詰橋門」。さらにその左先に、国立公文書館、国立近代美術館が並ぶ。その奥は「北の丸公園」である。

 皇居に沿って進んだ道の正面に毎日新聞社が見えると「竹橋」である。
 竹橋で内堀通りを皇居に沿って右に曲がり、大手門方面に南下すると思いきや、今度も意外や反対に北の方に左折した。すぐの共立女子大学が見えたところで右(東)へ曲がる。
 左手に、古い正面建物を復元した広告代理店「博報堂」の神田錦町の旧本館が見える。出版社勤務時代に何度か通ったところで懐かしい。
 「美土代町」の交差点で南へ右折して、そのまま本郷通りの「大手町」へ。バスの停留所は、高層ビルの大手町フィナンシャルシティ「グランキューブ」の1階にある。
 時刻は14時10分。四谷から、ノンストップで皇居半周した形だ。

 ⑥・大手町→・新橋
 大手町のビル街をそのまま日比谷通りを南下すると、右手は皇居の「和田倉門」が、左手に「東京駅」が見られる。
 左手は、皇居に向かって帝国劇場、戦後GHQにより接収された旧第一生命館など、由緒ある建物が並ぶのを見ながら過ぎる。その奥一帯は、日本最上級のビジネス街の「丸の内」だ。
 「日比谷」に出たところの「晴海通り」で左折する。左手の「有楽町」の駅を過ぎると、右手に「数寄屋橋」を見ながら、「銀座」の中心街の中へ突入だ。
 和光、三越、三愛に囲まれた「銀座4丁目」の交差点を、バスは抜ける。銀座の中心をバスで通ったのは初めてだ。
 銀座4丁目の先の「歌舞伎座」のある「三原橋」の交差点で、右折して昭和通りを南下すると、もう終点「新橋駅」だ。
 新橋駅で降りた乗客は、始発の渋谷から乗った4人と、途中数人の乗り降りがあったが、途中から乗った中年の女性1人の計5人であった。
 降りるとき、運転手の人が言った。
 「普段はこの路線バスは、燃料電池バスSORAなんですが、たまたま今日は車両の点検のため普通の車両なんです。こんなこと、滅多にないんですけどね」と、申し訳なげだった。

 「渋谷駅」から「新宿駅」までは普通の路線バス。「四ツ谷」から皇居を迂回し「大手町」までノンストップ、「大手町」から銀座を周って「新橋駅」までノンストップ、である。
 不思議といえる路線バスだ。
 何のため、誰が利用するのか?もう、「はとバス」より格安の観光バスといっていい。
 時刻は14時30分。渋谷駅から新橋駅まで全長17.8km、所要時間1時間20分のバス遊覧旅であった。

 *実は、復路の「新橋駅→渋谷駅」によって、皇居一周の循環バスだった

 復路の、新橋駅~渋谷駅間も路線バスとして通っている。
 これが、往路の渋谷駅~新橋駅とは、進むコースが全く違うのだ。
 「新橋駅」から、次はいきなり「四ツ谷一丁目」である。「大手町」には寄らない、というより、大手町とは違った反対の方向へ行くのだ。
 復路の「新橋駅」を出たバスが、往路に従って大手町方面に戻るとなれば、どこかでUターンしなければならない。
 しかし、復路の渋谷駅行のバスは、往路の進行方向のまま南下し、右(西)へ曲がり「環二通り」を「虎ノ門」方面へ進む。地下に潜る、いわゆる俗称「マッカーサー道路」を通り、「外堀通り」に合流して「赤坂見附」へ出る。
 「赤坂見附」からは、右手の外濠「弁慶堀」の向こうは「紀尾井町」で、左手の「赤坂迎賓館」を過ぎたら、もう目の前は「四ツ谷駅」である。
 四ツ谷駅から新宿通りに入れば、すぐに「四ツ谷一丁目」の停留所である。出発の新橋駅から、ここまでノンストップという意外さ。
 「四ツ谷一丁目」からは、「新宿駅西口」、「渋谷駅」へと、ほゞ往路と同じ逆コースで進む。
 新橋駅から澁谷駅の間、14.2km、所要時間1時間10分の旅。

 地図を照らしあわせたらお分かりであろう。
 この路線は、渋谷から新宿という東京の繁華街の双璧をくぐり抜けた後、四谷から江戸城の外濠と内壕をなぞりながら、ビジネス街と洒落た銀座を睥睨しながら、ぐるりと皇居を右(時計回り)に、周回するのである。
 まさに、「東京観光循環路線バス」といえよう。

 *新橋の「旧新橋停車場駅舎」から、奥銀座へ

 実は新橋から渋谷の往路は、私は残念なことに、その日乗っていない。
 その日は、バスで停留所「新橋駅」を出たあと、新橋駅近くにある鉄道発祥の地に建った「旧新橋停車場駅舎」を見て、銀座のビルの路地中にある「豊岩稲荷神社」と「三原小路」を散策し、東銀座の奥の「新富町」に出てフレンチを食べて帰ったのだった。
 だから往路の記事は、京王バスの路線案内図と、何度か新橋駅から四谷一丁目間を乗った四谷在住の友人による情報によった。
 今度は、渋谷駅~新橋駅~渋谷駅の、東京循環を遂行するつもりである。
 そのときは、燃料電池バスSORAに乗ろう。

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