かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

◇ Rey/レイ

2008-02-10 01:37:40 | 映画:外国映画
 テーラー・ハックフォード監督 ジェーミー・フォックス ケリー・ワシントン 04年米

 盲目の天才歌手、レイ・チャールズの自伝映画である。
 R・チャールズを演じられる者がやっと出てきたとして作成された映画で、企画から15年がたっていた。それだけに、アカデミー主演賞を受賞しただけあって、J・フォックスが実にうまく本人を演じている。
 この映画の完成を見ることなくチャールズは2004年亡くなったが、主役決定のオーディションには彼も参加して、J・フォックスには彼以外にないとばかり文句なく喜んだという。

 少年時代に失明したレイ・チャールズは、ハンディを負いながらも成長するや音楽の才能を遺憾なく発揮して、R&Bとゴスペルを融合した音楽を生み出し、全米きってのソウル・ミュージシャンとなる。
 貧困、失明、自立、下積み、結婚、成功、薬、セックス……
 彼の人生には、人間の歴史が凝縮されている。愛も金も手に入れるが、薬とセックスに溺れていく。それでも彼は薬の依存から立ち直り、その後も歌い続けた。
 映画は、ミュージシャンになったチャールズの現在進行形に、原点となった少年時代の出来事がフラッシュバックされる。実に無理なく、過去と現在が折り合いながら映画は進んでいく。そして、彼の人間としての欠点も美化されることなくさらけ出され、音楽が生まれていく過程が描き出される。

 少年の時、緑内障で失明した彼に母はこう言う。
 「悲しんでいる暇はない。誰も同情しないわ。何かするときは2度までは手を貸すが、3度目はしない」
 転んで母に泣いて助けを求めるチャールズに、母は黙って見ている。母が手を貸さず誰も助けに来ないと知ったチャールズは、自分で立っておそるおそる足と手を伸ばし、耳を澄ませて動き出す。目が見えなくても、自分で何とかしなければと感じた瞬間だ。
 のちに結婚することになる女性と初めてデイトしたとき、喫茶店で彼はこう言う。
 「目は見えないが、窓の外にはハチドリがいる」
 この時から、彼女はミツバチ(ハニー・ビー)と呼ばれる。
 彼女のことを思って彼は歌を作る。
 「遠い町にいる彼女、俺に優しい…」
 妻以外にも彼は女を愛した。成功し、近づいてくる女性に、彼は手(腕)を触ることでいい女かどうか見分けた。
 人種差別には正面切って反対闘争はしなかった彼だが、歌に心を表わした。「アンチェンマイハート」は、しみじみと、それでいて力強く歌う。
 故郷のジョージア州に帰ったとき、人種差別に反対して公演をキャンセルする。それで、その後ジョージア州での公演を禁止される。その時できたのが、「わが心のジョージア」で、18年後に解禁されるやジョージア州の州歌に選定される。

 レイ・チャールズの人生も歌も知ることができる、自伝映画としては秀逸の出来である。
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