かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

列車で、慶州へ--韓国の旅③

2008-05-23 14:41:51 | * 韓国への旅
 韓国の鉄道は、高速鉄道のKTXのほかに、KOREIL(旧韓国鉄道公社)がある。日本でいえば、新幹線以外の在来線がKOREILといえよう。
 今日5月16日(金)は、ソウルを発って、慶州へ向かうことにした。
 高速列車やセマウル号で釜山まで行き、釜山から慶州へ行くのが速いのだが、今度は別ルートでゆっくり行くことにした。
 ソウルから半島の南の方を周る中央線といわれるもので、提川、栄州、安東、氷川を経て慶州へ行くコースである。
 ソウルのターミナル駅は4つあり、中央線の発着駅はソウル駅でなく清涼里駅である。時刻表を見てみると、この中央線で慶州まで行くのは、朝と夜の2本しかな かったので、朝9時清涼里発の列車に乗ることにした。
 韓国の乗車券は、普通列車でも座席指定となっている。だから、普通列車だからといって飛び乗りはできない。予め窓口で行き先を言うと、座席指定の切符をくれる。
 僕は、福岡―釜山の船の往復と韓国鉄道パス5日間のセットを買ったので、釜山駅の窓口でもらった鉄道パス(日本での指定券と韓国の鉄道窓口でパスを交換するシステムになっている)を見せて、目的地までを言えば切符をもらえることになっている。

 *

 ソウルの清涼里駅から慶州までの切符を受け取って、列車に乗った。
座席は、通路を挟んで2席ずつである。
 僕は運よく窓側であった。
 ところが、僕の隣り横と、通路を挟んだ2人が一緒の3人グループのおばちゃんだった。おばちゃんのグループは苦手だなと思って座った。案の定、べちゃべちゃとしたおしゃべりが始まった。
 列車が、静かに動き出した。
 すると、隣りに座っているおばちゃんが、僕にいきなり「コーヒー飲むかい?」と言った。韓国語で言ったので、おそらくそう言ったのだ。僕は、思わずうなずいた。すると、紙コップに、ポットから注いで、僕に渡したのだ。
実は、朝のコーヒーが飲みたかったのだ。
僕は嬉しくなって、覚えたばかりの「カムサ・ハムニダ」(ありがとう)を連発した。
 お返しに、昨日南大門の市場で買った干しフルーツを配った。
 本当に、韓国人は見ず知らずの人間にも親切だ。おばちゃんであろうと、だ。
僕はおばちゃんに、時刻表を見せながら、どこへ行くのか訊いてみた。ヨ○△□ジュと言っているようだが、どこだかさっぱり分からない。僕が、栄州(ヨンジュ)を指差して、ここですかと訊くと、うんうんと頷いている。
 そうか、4時間ぐらいかかるところなので結構遠くまで行くのだなと思っていると、意外と1時間ぐらいで、「さよなら」と言って降りていった。時刻表を見てみると、楊平(ヤンピョン)であった。う~ん、韓国の地名、発音は分からん。
 それからは、隣りに座る人もなくずっと一人旅だったので、昨晩買っておいたリンゴや干しフルーツをかじりながら、気楽に車窓を楽しんだ。
 僕の後ろの席には、韓国の古式豊かな服を着たご老人が座っていた。渋い。
 韓国の中央部は、高層ビルもなくのどかな風景が続いた。時折、古くても門構えがしっかりした家に出くわした。

 この列車は、慶州が終着駅だと思っていた。というのは、このページの最初(始発駅)はソウルの清涼里で、最後は慶州になっていたからだ。しかしよく見ると、最後が慶州だが、その先は○ページを見よとなっている。そのページを開いてみると、慶州の先に続いていて釜山の釜田駅まで行く列車だった。
 慶州の次が仏国寺である。慶州で降りて、すぐに仏国寺に行く予定だったので、車掌をつかまえて、切符を見せて、仏国寺まで行きたいので変更してくれと申し出た。
 棟方志功を若くしたようなまじめそうな車掌は、はいはいと言って、電子手帳みたいなものを出して、なにやら打ち込んでいた。しかし、なかなかうまくいかなかったのか、ちょっと待ってくれと言って、奥へ引っ込んだ。
そして、30分ぐらいして、やって来た。
 そして、僕の隣りに座って、また電子手帳に打ち込み始めた。少し要領は悪いが、まじめな人なのだ。
 悪戦苦闘して、僕に電子手帳に写った仏国寺の文字を見せ、これでいいのだなというようなことを言った。僕がうなずくと、印字した紙(レシート)が出てきた。それには、ハングルに交じって慶州、仏国寺という文字が見え、700W(約70数円)と書かれていた。
 僕に、追加料金の700Wを払えと言っているようだ。
僕のパスは、韓国鉄道はどこでも乗れるフリーパスだから、仏国寺まで延長しても払わなくてもいいはずだと言い張った。車掌は、いや、そうではないと熱心に唾を飛ばさんばかりに、彼も言い張った。
 彼は韓国語オンリーだから、何を言っているのか詳しくは分からない。だけど、両手でバッテンを繰りかえし、700Wは正当だというジェスチャーを繰り返すのだった。
 このままではにっちもさっちもいかないし、大きな額ではないので、僕は千W札を出した。といっても、額の問題ではないと思っていたので、頭を傾げながらであった。
 彼は、それを受け取って300Wの釣りを渡した。
 それでも納得していない僕は、これはフリーパスなのにおかしいと頭を傾げ、納得はしていないといった態度を彼に示した。すると、彼は少し眉をひそめ、僕に千W札を戻し、300Wを返すように言った。
 今度は、僕が驚いて、いや、いいですよと言った。彼の態度を見ても、彼は納得して戻そうとしているのではないと分かったからだ。彼は僕に千Wを手渡し、僕の手から300Wを取って、その紙(レシート)を仏国寺で見せればOKだからと言った。 そして、彼は去っていった。
 少し、気まずい思いが残った。
 彼が正しいのかもしれない。わけの分からない頑固な日本人旅行者のために、彼が身を引いたのかもしれなかった。
 あの電子手帳に残った700Wは、どう処理されるのだろうか、と考えた。

 慶州を過ぎて、列車は15時42分、仏国寺駅に着いた。
コメント (1)
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