毎年この季節に「川津桜を見に行った」という話を聞くことがある。河津桜と言っても、伊豆の河津町まで出かけてきたという話ではない。近くに植樹されている所があり、このシーズンに一般の人に解放されているのを見に行ったという話である。
この年になるまで、ソメイヨシノの下では毎年花見をしてきたが、ついぞ河津桜のお世話になったことはない。ネットで調べてみると、近くの周防大島町の小積(おつみ)、下松市の笠戸島、上関町の城山歴史公園などで見ることが出来ることを知り、小積に行ってみることにした。
その前に河津桜についても少し調べてみた。「河津桜とは、日本固有種のオオシマザクラとカンヒザクラの自然交雑から生まれた日本原産の栽培品種の桜のこと。一重咲きで4cmから5cmの大輪の花を咲かせ、花弁の色は紫紅。早咲きが大きな特徴で、2月から3月上旬に開花し花期は1ヶ月と長い。1955年に伊豆の河津川沿いの雑草の中で1mほどの原木を偶然発見し、庭先に植えたことが由来である」。
これくらいの予備知識を携えて、周防大島にわたり時計回りに走って、まずは我が家から60kmのところにある片添ガ浜を目指す。ここまでくれば小積まではあと3kmである。11時に着いたが、すでに30人ばかりの観光客が来ている。私有地の山の斜面に50~60本の河津桜が満開に近い状態で咲いている。
ソメイヨシノが淡いピンクであるのに比べると、紫がかった濃い赤色で、花の大きさも2回りほど大きい。今が満開のようであるが、この状態はまだしばらく続くという。
もう少し先にも同じように植樹してあるところがあり、訪れた客で賑わっている。伊豆の河津で見つけられた桜が、こんな遠くまでやってきて、多くの人を楽しませてくれている。これならわざわざ河津まで出かけなくてもいいようだ。
春の瀬戸内海は、あたかもガラスの破片を散りばめたようにきらきらと光っている。デジカメを取り出して海をバックに河津桜を写した後、奥さんを撮っているとき、後ろから「お二人お揃いで撮りましょうか」という声がかかってきた。
同年配の見知らぬご夫婦であったが、お言葉に甘えて久しぶりにツーショットで収まってみた。河津桜の長い花期にあやかって、末永く仲良く過ごしたいと思いながら、お返しに撮って上げましょうと言うと、やんわりと断られた。ひょっとすると、訳ありの2人だったかも?と、ゲスの勘繰りをしてみた。