52編のエッセー集、各編4ページの読みやすさで読んでしまった。難解ではないが軽くもない。生死、人生、仕事を鮮やかにひと匙すくってみせる手業が何とも。簡潔な各編の題名と表紙で手にした。うつぶせの日曜読書の一冊。
文末に味が。エッセーは事実から生まれる言葉の編み物で、最後の一針で読ませるものだと再確認。 「…還暦目前まで生き延びて成らなかったことは縁がなかったとあきらめる図太さだけが身についた。」「この身が生きのびるために為してきたことへのうしろめたさがつのる。」「過去は、書き始めたいま、そして、書き終えつつあるいま、自分に都合良く刻々と制作続ける」「 もう、無理、だな。」「今年も、まだみっともない夏が終わる」「得るものと失うものは酷なまでに等価なのだと知った秋の木曜日」「そこをもっと知りたいときに『わたし』はそこにいない」…適当に選んでさえこれ、プロだ。
著者、南木佳士(なぎけいし)、1951年生、現在長野県佐久市の医師・小説家。