ミャオの家より

今はいないネコの飼い主だった男の日常

ワタシはネコである(53)

2008-06-21 14:22:40 | Weblog
6月21日 朝のうちは雨が上がっていたが、午後になって、また強い雨が降り出した。このところ、まるで梅雨末期のような大雨の日が続いている。人間だけでなく、ワタシたち外で活動するネコにとっても、嫌な季節だ。
 ところで、前回(18日)、ポンプ小屋に戻っていたワタシは、帰るにも帰られない状態にあったのだ。真夜中に家を出て、その日は一日中、ポンプ小屋周辺にいて、次の日の朝に、何とか帰ろうとしたのだが、大雨に降られて、途中から引き返し、ずぶぬれのまま震えていた。
 昼前になって、ようやく雨が小止みになったところで、飼い主の声が聞こえた。迎えにくるのが遅い。ワタシは大きな声でミギャーミギャーと鳴いた。飼い主にぬれた体を触られて、一安心して、一緒に歩いて家に向かう。
 ところが途中で、また雨が降り出し、よその家の軒先で雨宿りしていた。なかなかやまない雨に、飼い主は、小脇に挟んでいた棒状のものをサット差出して、大きく広げた。
 ワタシは突然現れた大きな物体に驚いた。思わず軒先から飛び出して、雨の降りしきる中、離れたところにある大きな木の下へと走った。
 飼い主は、すぐにその大きな物体を折りたたんで、見えないところに隠すと、戻ってくるようにと、しきりにワタシの名を呼んだ。
 木の下では、雨宿りにはならない。ワタシは恐る恐る、飼い主の近くへ歩いて行った。飼い主は何かを言いながら、ワタシの濡れた体をなでた。
 ようやく落ち着いてきたところで、飼い主は、突然ワタシを抱えあげて、走り出した。雨の振る中、タタタタタッと、飼い主はわき目も振らず走って行く。
 ワタシは暴れることもできず、抱えられた体を揺れるのに任せていた。飼い主の激しい息遣いが聞こえる。もしこの雨の中、滑りやすい道で、飼い主が足を取られて滑ったら、と思うと気が気ではなかった。
 家が見えてきた。ああ、よかった。肩で息をする飼い主と一緒になって、家に入って行った。飼い主は、「オレの200m走の新記録だ」と、あの鬼瓦の顔を引きつらせて、ワタシに言った。
 バッカじゃないのと思いながらも、ワタシは飼い主の顔を見上げて、ニャーと鳴いた。すると、早速、飼い主はサカナを出してくれた。やはり、これはウマイ。バリバリと音を立てて食べる。
 そして、その日は、夕方にもサカナをもらい、そのまま寝る。次の日(昨日)の朝、部屋に入ってきた飼い主が、叫び声をあげた。
 濡れた座布団を、ワタシの目の前に出して、なにかを言ったが、それは決してひどく怒っている声ではなかった。
 少しは悪いと、ワタシも思っていた。昨夜、トイレに出るのが嫌だった。雨は降っているし、他のネコが来ていないかと、不安だったし。そこで、この居心地のいい場所に自分の臭いをつけるためにもと、思わず出してしまったのだ。
 断っておくが、確かにワタシは、14歳にもなる老ネコ(見た目は若い)だが、体が弱ってきてもらしたワケではない。自分の意思でそこにしたのだ。
 その後、飼い主が洗濯するために、座布団とコタツ布団とを持っていった後に、押入れの中から、見慣れないクッションをワタシのために出してくれたが、ワタシはそれにも軽くスプレーをかけてやった。飼い主は悲しそうな顔をして、そのクッションも洗濯するために持っていった。
 ワタシは、コドモのころから今まで一度たりとも、自分の家の中で、シッコを撒き散らしたりしたことはない。それは、あのシャム猫、母さん(12月29日の項)から、ちゃんとしつけられていたからだ。
 飼い主も、そのことを知っているからこそ、そうまでして臭いをつけようとした、ワタシを叱らなかったのだ。つまり、この家は、マイケルなど他のネコの臭いだらけで、ミャオの家ではなくなっていたのだ。
 しかし、その200m走の後は、ずっとこの家にいる。昨夜も、外に出たが、朝早く帰ってきた。やはり、ポンプ小屋ではなく、この家が自分の家だと思っているからだ。そのことに気づくのに、飼い主が帰ってきて、二週間以上もたっていた。

 飼い主の声・・・「ようやくのことで、家のミャオになってきたのに、もう北海道へ戻らなければならない。すべては私が悪い。ごめんねミャオ。」