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読書 ハリー・ビンガム「マネー・メイカーズ」

2007-09-02 14:13:39 | 読書

              
 七月中旬のある日、バーナード・グラッドリーは車を運転中軽い心臓発作を起こし一時的に意識を失った。ちょうどカーブに差し掛かっていた車はそのまま直進し、石壁にぶつかってはねかえり樹木に激突して死亡する。
 バーナードは、建設機械のリース業で英国屈指の大企業となり、推定資産は約四千万ポンド(約九十三億円)と言われる男だった。
 後に残るのは、離婚した妻へレン、長男ジョージ、次男ザック、三男マシューそれに末娘ジョセフィンだった。バーナードは遺書を残していた。遺産管財人の弁護士オーガスタエス・アールは読み上げた。
 ヘレンには生涯年五千ポンド(約百十六万円)、末娘ジョセフィンには、秘書専門学校への入学金と商品券五百ポンド分(約十一万六千円)。残る息子たち、怠け者のジョージ、霞ばっかり食ってる哲学者ザック、最後まで何かをやり遂げたことがないマシューには、期間三年で自分名義の銀行口座に百万ポンド(約二億三千三百万円)の残高を記録すればすべての財産を与える。但し借金した金はだめだ。百万ポンドが複数いた場合は、金額の多いほうがその権利を得る。
 なお、“利益は金の別名だと、お前たちは思い込んでいるだろう。だが、それは間違いだ。利益とはすなわち健康、ばら色の頬と幸せな笑顔だ”と言い添えることも忘れなかった。

 さて、こんな巨額な金をためられるのか。息子たちは一斉にスタートを切った。ジョージは借金で苦しんでいる家具メーカーをただ同然で手に入れ、それの再建に傾注していく。ザックは企業買収の分野で成長し、マシューはトレーダーから企業金融に移り資金繰りに困っている企業を安値で買取り企業を立て直して高く売るという仕事で頭角を現す。
 その間、息子たちは美女とめぐり合い喜び悩んだりしながら百万ポンドの残高を残す。ところが、三年後意外な結末が待っているという人間ドラマに時間を忘れる。そして、父バーナードの言う健康、ばら色の頬と幸せな笑顔が本当の利益だという意味を息子たちは理解する。

 こういう馴染みの少ない金融界を舞台に娯楽性を持たせるのはなかなか難しいことだが、著者が10年にわたりアメリカ、ヨーロッパ、日本の投資銀行に勤務していたことを見れば納得できる。

 この本から連想するのは、現在の世界の株式市場の低迷だ。アメリカのサブプライムローンの不良債権化が発覚して株価の暴落を招き、これが格付け会社への批判や実体経済に与える影響にも及びおまけにかつてのFRB議長グリーンスパンに対する見直しまで、小説以上にドラマ性に富んでいるといいたくなる。若干の株式を保有する身なれば、こんな冗談は言いたくないが、やややけくそ気味は致し方ない。
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