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アンソニー・ボーデインにとっても他の人間にとっても、なにがきっかけで決断するのか誰にも分からない。
「1973年、失恋したうえ、一年早く高校を卒業した私は、(飛び級で卒業、頭がいいんだ)欲求のはけ口をヴァッサー大学へと移した.この時期十八歳を前にした私はしつけのなっていない無分別な若造で、大学でも落ちこぼれ寸前だった。自分自身と他の人間すべてに腹を立てていた。起きている時間のほとんどは酒を飲むかマリファナを吸うかで、自分と同類のバカな連中とつるんでは笑ったり怒ったりしていた」
そしてある夏、ケープコッドのプロヴィンスタウンの部屋でごろごろしていた。このプロヴィンスタウンは、1620年メイフラワー号が上陸した場所であり、ユージン・オニールやテネシー・ウィリアムズなどの劇作家や作家が集まったことで知られ、現在ホエールウォッチング観光の拠点になっている。
しかし、アンソニーはすかんぴんだった。ガールフレンドの紹介で得た皿洗いの職が、アンソニーの未来を決定づけるとは本人も思ってもいなかったに違いない。ところが、世の中なにが起こるかわからない。
結婚披露宴がやかましく行われていた。その最中、真っ白なウェディングドレスを着た金髪美女は、シェフの耳元に何事か囁いた。「トニー(アンソニーのこと)、しばらくここを頼む」というシェフの言葉。皿洗いのトニーからすれば驚天動地の出来事。
ところが好奇心の方が勝利を収めた。窓からそっと覗いて見た光景は、花嫁はドラム缶を抱いてうつぶせになり、ウェディングドレスのスカートは尻までめくれ上がり、シェフの激しいピストン運動に、若い花嫁は白目をむいて「いいわ……そこよ……すごくいいわ」と喘いだ。
それを見たアンソニーは、本気でシェフになろうと思った。どうも解せないのは、花嫁ももうすぐ初夜で、思う存分楽しめるのにどうしてシェフと? 世の中には不思議なことがあるものだ。
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