この映画が劇場未公開が不思議でならない。監督ショーン・ペン キャストシャーリーズ・セロン、ハビエル・バルデムというアカデミー賞主演男優賞や助演賞、主演女優賞受賞のメンバーだ。ピチピチとした若さはないが成熟した大人としての愛の物語を重厚に描く。
オープニングのシーンは、2014年の南アフリカ共和国ケープタウンで行われる国連の「世界の医師団資金調達イベント」でスピーチをするレン・ピーターセン(シャーリーズ・セロン)が恋人のミゲル(ハビエル・バルデム)に同行してくれと頼むが「行く必要はないよ。君のスピーチ原稿は読んだから」それを聞いたレンは、ひとしずく涙を流す。オープニングで観客にアピールする手法だろう。
ご丁寧に次の字幕のサービスもある。「2003年に終結したリベリア内戦でも、それから10年を経た南スーダンの紛争でも少年兵が残虐な行為に関与、世界が痛ましい現実にやっと気付き始めたその陰でひとつの叶わぬ愛が消えていった。ある男と女によるひとつの愛」
レンは子供のころから家族と離れて人の命を救うために奮闘して80歳で亡くなった医師の父と行動を共にした。国連人権高等弁務官事務所に籍を置き、内部の改革にも提言していた。
「抗レトロウィルス薬の供給は800万人増加とかサハラ以南80カ国でマラリアでの死亡が75%減少というようなものばかりの声明ではその度に信頼を失っている。もう少し正直になっては?」などと言う。
国連人権理事会といえば、日本にとって腹立たしい記憶がある。ボコバという中国寄りの理事長の偏向ぶりだ。この映画もハッキリ言わないが批判的と言える。
南スーダン・マラカル国連基地。ここでレンとミゲルの運命的な出会いがある。「国境なき医師団」の一員として働くミゲル医師は、運び込まれる無残な体、不足する医薬品、この医薬品などは車で運搬すると途中で武装勢力の強奪にあう。厳しい環境での医療活動。スペイン出身のミゲルはとにかく献身的。その姿はかつてのレンの父を連想させるほどだ。
あまりにも悲惨な現場は、レンの意思もくじけがち。現場を離れて帰国したレン。追ってきたミゲルと将来を語るが、レンの未来への想像は、ミゲルがやっぱり現場に戻るということ。
「世界の医師団資金調達イベント」でスピーチをするレン。
「私たちは難民を難民としか見ていません。自分とは違うと。でも同じなのです。仕事を持っている。会計士や教員や建設業者や農民。愛する家族がいて希望を抱いている。明日への希望。世界の多くの人々が希望を奪われています。
戦争は希望を奪う。貧困は希望を奪う。天災は希望を奪う。病気は希望を奪う。皆さんのお金よりも信じる力に支えられて、彼らは希望を叶えることができる。その理由は、希望を抱くのは特別なことじゃない。難民は私たちと何の違いもありません。まさに私たち自身なのです。私たちと同じく彼らにとって希望を生きるための糧となるなによりも大切なものなのです」
ミゲルはこのころすでに南スーダンに旅立っていた。スピーチが終わってミゲルの手紙を読むレン。「レンへ。どうしても君に伝えたかった。きっとまた会える。僕には分かる。この広い砂漠を見渡して名前を呼べば、君の顔が見える。誰よりも僕を愛してくれたひとの顔。僕に生きる希望を与えてくれた」
レンは国連人権高等弁務官事務所で秘書の報告を受ける。「南スーダンでヘリコプター事故、6人死亡。その中にミゲルが……」一点を見つめるレン。
「彼のことを思うと自分の胃を感じた。皮膚の内側にある肋骨も。私はそこにいた。さもなければ失われていた自分。彼と出会う前は、頭で理想を追うだけで存在していなかった。彼を思い出すことで本当の私でいられた」かつての父の姿をも重ねているのかもしれない。
すばらしい男女の出会いと別離。愛を優先しないで仕事を選んだ二人。結婚だけが人生ではない。結婚しなくても愛し合うことはできる。しかし、もうミゲルはいない。やっぱり切ない気分になるなあ。
カンヌ国際映画祭で上映されて酷評されたという。主人公を白人として前面に出したことで、「難民を対象化する」という批判を受けたという。これもよく分からない理屈だ。
ショーン・ペンは並みの映画監督ではない。本作が5作目で過去の何れも高い評価を得ている。
1991年「インディアン・ランナー」実直な警官の兄とベトナム帰りで精神を病んだ弟との葛藤を重々しく。
1995年「クロッシング・ガード」幼い娘を交通事故で失った男が、犯人の刑期満了を待って報復しようとする。まるで人生の交差点が赤信号も青信号もなく、自ら切り開いていかなければならないという直喩。
2001年「プレッジ」刑事の定年間近に起きた少女強姦殺人事件の犯人追跡に執念を燃やす男。
2002年「セプテンバー・イレブン」2001年9月11日について一編を担当。
2007年「イントゥ・ザ・ワイルド」貯金も裕福な実家も捨ててアラスカの大自然に立ち向かい餓死した青年を描く。
ただし、捕鯨反対運動のシーシェパードを支援しているのが気に食わない。
監督
ショーン・ペン1960年8月カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。2003年「ミスティック・リバー」、2008年「ミルク」でアカデミー主演男優賞受賞。
キャスト
シャーリーズ・セロン1975年8月南アフリカ生まれ。2003年「モンスター」でアカデミー主演女優賞受賞。
ハビエル・バルデム1969年3月スペイン、カナリア諸島ラスパルマス生まれ。2007年「ノーカントリー」でアカデミー助演男優賞受賞。
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