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映画「ローマンという名の男」人権派弁護士の挫折

2018-11-10 15:43:58 | 映画

        
 原題「ROMAN J. ISRAEL, Esq.」ローマン・J・イズラエル エスクワイアとして名刺にも書いてある。Esqは手紙などの相手の姓名の後に用いるとある。ローマン・J・イズラエル殿なんだが、自分の名刺に書くのはどうなんだとも思うが。劇中でも依頼人が尋ねた。ローマンは「ジェントルマンより上で、ナイトより下です」と答えた。まあ、日本でもふざけて「おれ様は……」なんて言うし、自分の名前を「安倍様だよ」と言ったりするブラックジョークの類かな。

 ローマン・イズラエル(デンゼル・ワシントン)は、家族経営のウィリアム・ジャクソン法律事務所に勤める弁護士。こまごまとした犯罪の弁護をして有能だった。司法の堕落「公正な裁判を受ける権利は刑事事件では無視され裁判は行われない。検察は被告を脅し公正な裁判を受けさせず強制的に過剰な量刑を押しつけて有罪を認めさせる」と真剣に思っている。

 ローマンはまるで弁護士らしくない。ぶかぶかとした上着とズボンの色違いを着てヘッドホーンで音楽を聴きながら大きなカバンを持ち歩く。彼の持ち味は刑法や刑事訴訟法など関連する法律の条文が全て頭に入っていることだ。法廷で相手を攻撃するときには有力な武器になる。

 ところが事務所代表のジャクソンが心臓発作で倒れる。病状は思わしくない。ジャクソンの孫娘が、これを機会に赤字を出す事務所を整理するという。不服ながらそれに従うことにしたローマン。

 整理するのはピアス法律事務所。その代表がジョージ・ピアス(コリン・ファレル)で、ローマンに「うちで働かないか?」と誘う。一匹狼的なローマンは断って自分で探し始める。しかし、求職活動は不首尾に終わり、ピアス法律事務所で働き始める。

 取り扱う案件の中に「コンビニ店員殺害事件」があった。二人の若者が襲い一人が逃げ、一人が逮捕された。殺された店員がアルメニア人だったため、アルメニア協会が懸賞金10万ドルをつけて殺人犯を追っていた。

 逮捕されたデレル(デロン・ホートン)と面会した時、「俺は殺していない。殺したのはカーター・ジョンソン(アマーリ・チートム)だ。保護拘置と刑期の短縮を引き換えにカーターの住所を言うよ」

 このカーター・ジョンソンは、ギャングの幹部で4件の事件のうち2件で発砲しているというワルだった。ローマンは検事局に司法取引の電話をした。
女性検事が「異議申し立てと上訴の権利を放棄に協力すれば、暴行・誘拐罪を取り下げ故意の殺人で10年」
ローマン「非故意で3-5年」
検事「21歳の店員が殺されたのよ。無理だわ」
ローマン「こっちも命を預けて有罪を認めてるんです。減刑を」
検事「譲れないわ。故意で10年。いい取引よ」
ローマン「クソ取引だ」
検事「時間のムダね」

 翌日、ジョージの部屋に呼び出され「ローマン、なぜ検察と交渉を? 誰が許可した? あれほど言ったのに。今朝デレルが刺殺された。保護拘置は認められなかった。君が取引を蹴ったからだ。しかも依頼人に相談せず。過誤訴訟を起こされたら、うちは完全に負ける。君にも理解できるようハッキリ言うよ。不始末を認めることになるから、今はクビにしない。いずれクビだ。勝手に辞めたら損害賠償と弁護士資格剥奪だぞ。以上だ」

 己の信念のためにやって来たローマンだが、組織の中で仕事をするのは初めてで一匹狼的体質がアダとなった。これを機会に、ローマンは信念を放棄した。

 そして何をしたかと言えば、コンビニ店員殺害事件の殺害犯カーター・ジョンソンの住所を担当刑事に告げることだった。身分を明かさない方法として路地に置いてある大型のごみ容器にナップザックに入った懸賞金の10万ドルを受け取った。誰にも見られず濡れての泡の大金。パリッとしたスーツや靴、やっと一流弁護士になった気分を味わう。札束を握りしめ好みの食べ物と飲み物を持って海岸で寸暇を楽しむ。こんな楽しい時間がすぐに終わるのは世の常。

 ジョージからカーター・ジョンソンの弁護を引き受けたから拘置所に行くと告げられた時、心底どきっとしたローマン。拘置所で面会したローマンは、まともにカーターの目が見られない。ジョージが担当の弁護士ローマンを紹介して先に退出した。

 残されたローマンとカーター。カーターの目がぎらぎらと光っている。
「お前がチクッたな」
「いや俺じゃない」
「ふざけるな! デレルはお前にしか住所を言ってないと言っていたぞ。お前をヤルよう手配したぞ」

 なんと言う皮肉。世の中悪事は、バレるように出来ている。そしてローマンは自分を告発する文書を下書きした。「被告の弁護士資格及び人間の資格の永久剥奪を求む。被告は俗物的で自分の人生を否定する背信行為を行った」この文書が最高裁判所ロサンゼルス支部に提出されることはなかった。

 10万ドルの残金が警察に返還され、ローマンは何者かの手によって銃撃され死亡した。そしてジョージ・ピアスは、かねてローマンが熱く語っていた「公正な裁判を受ける権利を守るために集団訴訟を起こす膨大な弁論趣意書」を持って最高裁判所ロサンゼルス支部に提出し、女性の係員がその処理をするのをじっと見守っていた。

 この映画の見所は、デンゼル・ワシントンの演技力だ。表情に注目。2017年制作 劇場未公開
     
  
  
  
監督
ダン・ギルロイ1959年6月カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。

キャスト
デンゼル・ワシントン1954年12月ニューヨーク州マウント・バーノン生まれ。2001年「トレーニング・デイ」でアカデミー賞主演男優賞受賞。本作では、アカデミー賞主演男優賞にノミネート。
コリン・ファレル1976年5月アイルランド、ダブリン生まれ。
カーメン・イジョゴ1973年10月イギリス、ロンドン生まれ。
デロン・ホートンテキサス州生まれ。
アマーリ・チートム出自未詳

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