Wind Socks

気軽に発信します。

読書「砕かれた街Small Town」ローレンス・ブロック著2004年二見書房刊

2023-01-13 16:56:12 | 読書
 2001年9月11日は、日本人の私にとっても忘れようとしても忘れられない日になった。アメリカ人にとっては、屈辱を味わう日になったのだろう。過去にアメリカ本土が攻撃されたことがなく、直接危害を受けたのが初めてだったからだ。しかもビッグアップルといわれる世界に冠たるニューヨークに。

 世界に衝撃を与えたこの事件を北海道旅行の途中、国民宿舎「雪秩父」(ちなみにこの宿舎は、2015年9月19日に建て替えられ日帰り温泉施設として「ニセコ交流促進センター雪秩父」の名称でオープンした)に宿泊したとき部屋のテレビで観たのだ。

 はじめに……としてある文章を引用してみよう。「2001年9月11日、日の出時刻、午前6時33分。天気予報は快晴。午前8時45分、ボストン発ロスアンジェルス行きアメリカン航空11便が世界貿易センターのノース・タワーに衝突。午前9時5分、ボストン発ロスアンジェルス行きユナイテッド航空175便がサウス・タワーに衝突。午前9時50分、衝突から45分後、サウス・タワーが倒壊。午前10時30分、衝突から1時間45分後、ノース・タワーが倒壊。  
 2002年5月30日午前10時39分、グラウンド・ゼロでの撤去作業終了。もう二度と戻らないと、街中が思った」二度と戻らないと思ったし、アメリカ中、いや世界中が怒りに包まれた。

 しかし、残された人は前に進まなくてはならない。どのように進むかは、人それぞれ。ここに異形の人物たちが登場する。病的なセックス依存症かと思える画廊経営の円熟期の美人オーナー スーザン・ポメランス。

 このスーザンのセックス指導で人生を恵まれた環境で、二度生きたような感覚を味わう元市警本部長フランシス・バックラム。

 数冊の小説を世に送り出しているジョン・ブレア・クレイトン。クレイトンの文芸エージェント、ロズ・オルブライトの発案で、これから書くクレイトンの作品についてオークション方式をとると言う。結果300万ドル(約3億9千万円)でクラウンという出版社に決まる。この噂は素早く周辺に広まる。

 ジェリー・パンコー、同性愛者で請け負ったアパートの部屋や商店の掃除を生業としている。時には思いもよらない、事物に遭遇することがある。マリリン・フェアチャイルドがベッドで死んでいるとか。そして売春宿で三人の死体も発見する。

 マリリン事件で容疑者として、一時拘束されたのが作家のジョン・ブレア・クレイトンなのだ。

 家族四人がこのテロリストたちの犠牲になり、狂ってしまった広告会社の元調査課長ウィリアム・ボイス・ハービンジャー。この男が凶行を重ねていく。地元紙の呼び名は、カーペンター。ノミやカナズチ、キリが殺傷の道具だからだ。

 この本をたった一言で表現するとすれば、「金庫に仕舞っとけ」。なぜか? それは無造作にページを開けば、スーザンのセックスライフの詳細な記述を目にすることができる。それほど頻繁に現れてくる。
 思春期の子供を持っていればこの本を閉じ込めたくなるのは必定だろう。ローレンス・ブロックにしてはポルノまがいの珍しい表現だ。何故だろうと考えるがいまいちはっきり分からない。訳者あとがきでは、セックス描写は生と死を表していると言うが。賛否が分かれた作品であったようだ。

 ローレンス・ブロックは、ニューヨークを心から愛する一人に間違いはない。例えばこんな記述はどうだろうか。カーペンターがボートの持ち主を殺して、自ら操縦してハドソン川からイースト・リバーに向かい「偉大な三つの橋の下を順々にくぐった。ブルックリン・ブリッジ、マンハッタン・ブリッジ、ウィリアムバーグ・ブリッジと。その昔、いっとき仕事を休業したジャズ・ミュージシャンがいた。そのミュージシャンはほかのミュージシャンとセッションするのをやめ、ジャズクラブやコンサートホールで演奏するのをやめ、レコーディングするのもやめてしまった。そのかわり、ウィリアムバーグ・ブリッジの真ん中まで歩いて、そこでただ一人何時間も演奏したと言われている。これがどこか別な場所の話だったら、次の二つのうちどちらかになっていただろう。そんなことはしてはいけないと言われるか、あるいは、演奏を聞きに人々が続々と集まり、そのうちそのミュージシャンはうんざりしてうちに帰ってしまうか。
ミュージシャンはいつまでも演奏できた。それがニューヨークだ」

 次は音楽の話に移ろう。スーザンとクレイトンがセックスフレンドになって交わした会話。「ニューヨークには、カントリー・ミュージック専門局がない」とスーザン。「一局あるけどトップ40しかかけない」 とクレイトン。

 そして、ボビー・ベアの「ロザリーズ・グッド・イーツ・カフェ」という8分にも及ぶストーリー・ソングをLPでかける。この曲、YouTubeで聴いたが心を動かされることはなかった。

 それよりもニューヨークといえば、フランク・シナトラをおいてほかにあるかな。ヤンキー・スタジアムで試合終了後、必ず流れるのはフランク・シナトラの「ニューヨーク ニューヨーク」なのだ。それをお届けする。
 私が今日旅立つことを広めてくれ
 ニューヨークの一部になりたい
 ニューヨーク ニューヨーク

 放浪者の靴は迷い子になりたがっている
 ニューヨークの真ん中を通り抜けたいが
 ニューヨーク ニューヨーク

    眠らない街で目覚め
 そして丘の王、お山の大将になる

 故郷の小さな町の憂鬱は、溶けていく
 再出発するよ、古いニューヨークで
 もしそれができるのなら、どこでもできるよね
 あなたなら出来るよ、ニューヨーク ニューヨーク

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする