二つの事件を追うボッシュ。お馴染みのハリー・ボッシュ・シリーズ。サンフェルナンド市警で働くボッシュに30年前に逮捕し死刑判決で収監中の死刑囚に冤罪の可能性が浮上。これが確定すればボッシュはすべてを失い死刑囚の代わりに捕らわれの身となる運命の崖っぷちに立っていた。
そして直近の事件捜査は、薬局経営者とその息子射殺事件だった。その背景にはアメリカの麻薬および向精神薬取締法における麻薬で劇薬でもある鎮痛剤オキシコドンをめぐる利害の衝突が原因だった。
それにはある組織が関与していて、影の支配者サントスを追っている麻薬取締局(DEA)の助言に従ってボッシュが潜入捜査を行うことになる。
この作品をベースにテレビドラマ・シリーズ「BOSCH/ボッシュ」シーズン5としてアマゾンプライムで放映されている。こちらも結構面白い。
著者のマイクル・コナリーが描くロサンジェルスは、現実に即しているので実在のレストランやカフェ、ナイトクラブ、すし店まで網羅されている。それも読みどころだと思っている。
さらに作品からアメリカ社会が垣間見えるのも魅力。下記にピックアップしてみよう。
●カリフォルニア州の死刑囚房では、注射を打たれて死ぬよりも自殺で死ぬ死刑囚のほうが多い。
●腹違いの弟、弁護士のミッキー・ハラーとの会話
「どれくらいの頻度で警官が間違っていて、無実の人間を刑務所に送っていると思う?」とハラー。
「ほとんどないんじゃないか」と言うのはボッシュ。
「1パーセント? つまり、誰も完ぺきではありえない、そうだろう?」
「どうだろう、ひょっとしたらそうかもな」
「この国では200万人の人間が刑務所に入っている。200万人だ。もし司法制度が1パーセン ト間違っているのなら、2万人の無実の人間が刑務所に入っている計算になる。半分の0.5パーセ ントに下げたところで、1万人になる。その数字がおれを夜眠らせないんだ。いつも言っているんだが、最も恐ろしい依頼人は無実の依頼人だ。なぜなら、かかっているものが大きすぎる」
●ビヴァリーヒルズやウェストハリウッドから見て北にあるサンフェルナンドのトルーマン・ストリートを南下しサンフェルナンド・ロードと合流する地点まで進むと、間もなくして市境を横断し、パコイマに入った。
どこにも「ロサンジェルスにようこそ」の看板はなかったが、二つの自治体の違いは明白だった。通りにはゴミが散乱し、壁は落書きだらけだった。中央分離帯は茶色で、雑草で埋まっていた。ビニール袋が道路と並行しているメトロ線路を保護するフェンスに絡まっている。ボッシュの目には、陰鬱な光景に映った」
●死刑囚の面会リストには刑務所グルーピーと言われる女性たちの名前がある。危険が檻の中に閉じこもられている限り、危険な男に惹かれる女性たちなのだ。
●それに貰い物のバーボンウイスキーの話もある。値段が高いということなのだ。そのウィスキーは、ケンタッキー産の「パピー・ヴァン・ウィンクル」でネットでの値段は約30万円とある。

もう一つマイクル・コナリーで忘れてはならないのがジャズだ。1934年生まれのサキソフォーン奏者で音楽プロデューサーのヒューストン・パーソン。彼は小粋な音色と豊かな表現力を持っている。
1934年生まれのベース奏者ロン・カーター。個性的な音色と音の運びに特徴があると言われている。来日も多く親日家とも。
詳細不明なフランク・モーガンも紹介されている。
ボッシュは、高台にある自宅リビングの大きな窓からロサンジェルスの夜景を眺めながら、ジャズとバーボンに酔いしれる。
それではヒューストン・パーソンとロン・カーターの「On the Sunny Side of the Street」を、バーボンがなければビールでもワインでも片手にどうぞ! 曲が終わるころにはアルコール効果で、首を振りながらリズムに乗っているでしょう。