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読書「草花たちの静かな誓い」宮本 輝

2021-01-19 20:52:04 | 読書
 このタイトルから何を想像するだろうか。まさかアクションを中心とする物語とは思わないだろう。酸いも甘いもかみ分けた大人のラブ・ストーリーだろうか、人生を彩るあらゆる事象の物語か、実は酸いも甘いもかみ分けた大人のミステリーなのだ。

 伊豆・修善寺温泉で小畑弦矢(おばた げんや)の叔母の菊枝・オルコット63歳がヒノキのお風呂で狭心症を起こし急逝した、その弦矢が事務手続きをするところから始まる。

 菊枝・オルコットは、ロサンゼルスのランチョ・パロス・ヴァーデス(実在する)という高級住宅地に住んでいた。夫のイアン・オルコットを去年に亡くし、広い家に一人暮らしだった。
 遺品の旅行保険契約書の緊急連絡先に、弦矢のほかに「モーリー&スタントン法律事務」の所在地と電話番号もあった。その法律事務所に連絡の上、ロサンゼルスに飛び事務所でスーザン弁護士から聞かされたのは、莫大な遺産があるということだった。

 弦矢にとって青天のへきれき(霹靂)のサッカー場四つほどの1万坪になる土地・建物を含めて約42億円の遺産だった。しかし、弦矢は莫大な遺産に舞い上がることもなく、もし生きていれば彼女が受け取るべきものという思いが強い。

 その彼女とは、菊枝・オルコットの一人娘レイラ・ヨーコ・オルコットのことだ。27年前のレイラ6歳のとき、近所のスーパーで行方不明になっているのだ。地元警察では、コールドケースとして扱われている。弦矢の心の片隅には、レイラのことが剥がれないペンキのように貼りついている。

 花と樹木に覆われた広大な敷地に建つオルコット邸は、一人で滞在する弦矢にとって少々厄介なものに見えてきたりする。ここ南カリフォルニアの気候は、真昼の暑さから夜の寒さまで気温差が激しい。
 夜はかなり冷え込む。窓は全部閉めなくてはならない。朝起きると窓を開け放つが、ちょっと出かけるときでも2階の窓から1階まで全部閉めなくてはならない。大きな家も住みづらいなあと思い始める。

 そんな中、菊枝叔母さんの愛車トヨタのSUVを駆って買い物に出かけたおり、何気なく目にした「私立探偵ニコライ・ベロセキスキー」の看板。レイラを探してみようかという気になる。莫大な遺産が弦矢にのしかかりレイラへと流されてゆく。

 菊枝叔母さんの幾種類ものスープのストックや知り合ったジェシカに気を取られたりしながらニコライとレイラ探しのミステリーが始まる。

 意外な結末をみた後、南カリフォルニア大学(USC)で経営学修士(MBA)を習得した弦矢が、実力を発揮するであろう未来が予見できるエンディングになっている。
 ジェシカと話し合いニコライの同意を得て菊枝叔母さんのスープを事業として展開することだった。

 著者の調査は行き届きていて、弦矢が心を寄せるジェシカについても、アジア人の男性が白人の女性を恋人に持つと嫌がらせがひどい、反面白人男性とアジア人女性の組み合わせには無視するという傾向があるという。偏見ではあるが、それを事実として作品に反映されている。感動作でもないが、ロサンゼルスの風景を楽しむには良書と言える。
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