Wind Socks

気軽に発信します。

読書「卍」谷崎潤一郎

2013-01-10 13:14:01 | 読書

                 
 男女四人のまんじどもえの愛憎が繰り広げられる。弁護士の夫柿内幸太郎と夫婦仲のあまりよくない柿内園子。
 大阪天王寺にある女子技芸学校の絵画教室で、園子の描く薄物をまとったモデルの顔がどうしても徳光光子の顔になってしまう。この女子技芸学校は、絵画、音楽、裁縫、刺繍その他の教科がある。一言で言えば、いわゆる花嫁学校だ。したがって生徒は、お金持ちの女の子ということになる。徳光光子の父も何十億円もの資産家でないと娘を嫁にやらないと豪語する家庭だった。

 光子は白い肌の稀に見る魅惑的な女性だった。その光子に惚れたのが園子だった。当時は、世間から忌避される同性愛関係に落ちた。浮いた噂の一切ない夫幸太郎は面白くない。

 そして現れたのが光子にぞっこんの綿貫栄次郎という男。この男、光子と園子の関係が気に入らず、自分が睾丸炎による無精子になっていることを知られ、ねちねちと嫌味をいい悪巧みまで画策する。
 ある時点で光子と幸太郎が深い仲になって、幸太郎は綿貫を排除することに成功する。それらを知った園子は、いつ離婚を告げられるかと考えるものの、園子自身も過去の男関係が浮ついたものでもあったから文句がいえないとも思う。

 光子は幸太郎、園子とも関係を保ちたい一心が奇妙なことを行わせる。光子は睡眠剤とぶどう酒を持ってきて言う「二人ともこれ飲んで寝なさい。あてあんた等の寝ついたん見てから行(い)ぬ」そして更に「二人ともあてに対して忠実誓うねんやったら、その証拠にこれ飲みなさい」(注あて(わたしの意)、行ぬ(帰るという意味))
 光子にとって自分抜きの性愛を嫌った結果で、これが毎日続けられ薬漬けの体は食欲減退のため生気を失っていった。

 そんな時、綿貫が逆襲してきた。柿内夫妻と光子の変態性欲関係が新聞に暴露された。幸太郎は弁護士の仕事を失うし、光子も生きる希望を失った。三人が相談して死を選ぶ。睡眠薬を飲んだが園子一人が蘇生する。結果的に光子と幸太郎は情死。

 この顛末を先生と呼ぶ人に告白する。心理的マゾヒズムを描いた傑作と言われ、すべて関西弁で改行のないべったりとした文章が並ぶ。それでも巧みな心理描写に興趣が尽きない。
 わたしは大阪生まれの大阪育ちだから、巻末の注解を参照しなくてもいいが、関西人以外は面倒だろう。

 一体この光子という女はどんな女なのか。美人であるが故に自己陶酔と気位の高さがうかがえる。「異性の人に崇拝しられるよりも同性の人に崇拝しられる時が、自分は一番誇り感じる。何でや云うたら、男の人が女の姿見て綺麗思うのん当たり前や、女で女を迷わすこと出来る思うと、自分がそないまで綺麗のんかいなあ云う気イして、嬉してたまらん」

 男から見れば嫌味は女だなあ。しかし、そういう同性とも異性とも性愛を好む女であっても、迫られたらどうなるのかな。心と体は別だから罠にはまってしまうかもしれない。園子の夫がその例かも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする