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ジョイス・キャロル・オーツ「生ける屍」

2009-01-13 06:23:50 | 読書

           
 Q・P(クウェンティン)は、自分の支配下に置きたいゾンビを探していた。医学書からその方法を学んだ。
 “患者の麻酔が効いたところで、親指と人差し指で患者の上まぶたをはさみ、眼球からじゅうぶん離す。次に、皮膚やまつげに触れないようにしながら、白質切断用メスを結膜に差し、そのまま先端が眼窩の底に当たるまで突き進める。
 それから手術台の脇に片ひざをつき、メスの向きを鼻梁の骨に対して平行を保ちながらわずかに中線のほうに変える。五センチの印のところまで来たら、眼窩の幅いっぱいにメスの取っ手を横に動かし、前頭葉の底の繊維組織を破壊する。
 それが終わるとメスを元の位置の途中まで戻し、やはりメスの動きに細心の注意を払いながら、上まぶたのふちから七センチの深さまで突き刺す。そうして片ひざをついた状態で患者の横顔を撮影する。この手術については、これ以上に精密なやり方はない。
 次に視神経のある部分に移る。動脈がすぐそばにある。メスを全額面に入れたまま、顔の中央に向けて十五度から二十度、横方向に約三十度動かして、中央位置に戻す。最後に、まぶたに相応の圧迫を加えて出血を防ぎつつ、ねじりながらメスを引き出す。次はもう一方の目だ。新たに殺菌してから同じメスを用いる”
 Q・Pは、ページを切り取りながら勃起するほど興奮した。Q・Pは三十一歳の白人で精神異常者ではあるが、大学に通う目立たない一人の男だ。同性の若い男が性的嗜好の対象になり、ゾンビの候補者だ。
 巻末解説には、異常な心の闇について書いてあるが、わたしにはよく分からない。この小説にはモデルがいる。ジェフリー・ダーマー1960年生まれ。白人の同性愛者。逮捕される1991年まで十七人の男性を殺害し遺体を切り刻んでは食べていたという。楽しい読み物ではない。
 著者は、1938年ニューヨーク州生まれ。別名義のサスペンス小説も含め、多数の著作でアメリカ社会のダークな側面を描きつづけてきた。全米図書賞、O・ヘンリー賞をはじめ、数多くの文学賞に輝き、ノーベル文学賞の候補にもあげられた。本書はブラム・ストーカー賞を受賞
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