Fish On The Boat

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『思想地図β vol.2』

2013-09-27 00:34:27 | 読書。
読書。
『思想地図β vol.2』 編集長:東浩紀
を読んだ。

東日本大震災を特集した、
思想家である東浩紀さんが編集長を務める思想地図βシリーズの第二冊目。
2011年9月発行ではありますが、4月や6月ころの議論や鼎談などが
おもに収録されています。
すなわち、原発事故の行く先がわからない時期にあたるころの
いろいろな言論人の様子がわかる本です。
さすがに、一線で活躍する人たちなので、震災の衝撃を受けながらも、
各自のヴィジョンというものと、言葉で表した独自の震災観を持っています。

僕なんかは、当時、震災復興に力になれない自分の無力さを感じながら、
新しい職場でいろいろ覚え、働いていた時期。
この本に載っているような、行く末への考えなどは、
ほとんど持っていなかったんじゃないだろうか。
放射能と原発の今後、日本の今後へ不安を募らせていて、
復興にどういう動きがあるのかなども知らなかったと思う。
そのあたりは、良くも(?)悪くも、東北と北海道の温度差だったのでしょう。

本書は読みやすいのですが、骨太な震災特集で、おもに思想や言葉というものに
スポットライトを当てて、いろいろな人の意見を収録しています。
しかし、脱原発、原発推進の議論はありません。そういう本ではない。

この本で知ったことは数多くありましたが、なかでも、
避難所において、…たとえば500人収容の避難所に400人分の弁当しか届かなかったら、
すべて廃棄してしまうという、公平を重んじた措置が取られていたことに
驚きを覚えました。誰かが我慢して、次の機会に優先的に扱ってもらえるとか、
そういう処置をしているのかなぁと勝手に思っていたのですが、
現実はもっとシビアで、それでなくても苦しい避難所生活なのに、そこで不公平が
生じたら、空気が殺伐とし、収拾のつかないことになりかねない、という
判断からそうされたようです。
このあたりについては、もう、当事者じゃない者がえらそうなことをいっても
始まらないようなことです。

また、ツイッターでも書いたのですが、
この本をもとに考えたことがありました。
以下がそうです。

___


本を読んでいて導き出された考えなんだけれど、
今の日本人の心の荒みようっていうのは、
戦後の経済成長メインの復興とその方向性での社会の進み方が、
戦争によって失われた命に対する気持ちだとかトラウマだとかを浄化する喪の仕事を軽んじてきたこと、
無視したことに因るんじゃないだろうか。

日本人は(というか海外の人はどうだかわからないけれど)デフォルトっていうか、
標準に近いでしょ、心が荒んでいる状態っていうのは。
標準みたいものだから、心が荒んでいることにも気付かなかったりする、みんなそうだから。

喪の仕事もそうだけれど、気持ちの処理をきちんとやっていくことって合理性とは反対のものだから、
そこらを踏まえていない社会は(つまり今の世の中は)進歩のスピードが速すぎるようになるのです。

合理的にどんどん成長していくことだけを目的にする社会は、その社会の構成員の情緒だとか、
内面を食いつぶしていくんだと思う。そういう、内面を食いつぶされた人間が、
まともに、成熟した思慮深く管理能力に長けた政治を行えるか、
家庭でふるまえるか、というと、難しいでしょう。

合理的に、どんどん速い速度で成長しようとする
日本人の限界がそこにあるんじゃないだろうか。

商売で大もうけしようとする気持ちが大本なのかもしれない。
経済的に豊かであればすべてが幸せになれるという、
モノのなかった時代の夢や憧れが社会のスピードを速くしてしまう。
一億総中流社会は幸せだったのかもしれないけれど、
あれはあれでキープできないもので、無知さもからんでいて。

___


東浩紀さんは、本書の初めでも、本の中での発言でも、
震災よって「みんなでがんばろう」というように、日本人は一致団結したようでいて、
実はばらばらになった。震災でみんなばらばらになった、と言っています。
その説明を読むと、なるほどそうも考えられるかな、と思いました。
興味のある方は、本書を手に取ってみてください。

また、猪瀬直樹さん、村上隆さん、東浩紀さんの鼎談では、
家長的な文学者と放蕩息子的な文学者の2タイプがあるという話がありました。
それで、森鴎外的な家長タイプは弱くて、夏目漱石や太宰、村上春樹などの放蕩息子タイプの
文学ばかりが生き残ってしまったと、猪瀬さんは嘆くのですが、
なるほど、そういう家長的なタイプの文学の仕事と言うのも、
もう少し認められても良いのかなとは思いましたが、
読んでいて面白いほうに人は流れるものだから、村上春樹さんなんかは売れるんだろうなぁと
考えたりしました。猪瀬さんらは、村上春樹はいびつだとか言っていましたが、
僕にはそうばかりには思えない。高等な精神作業であるのがわかるからかもしれません。
と、まぁ、そういう面白味も本書にはあります。

震災を近視眼的に見る論考ではなく、マクロにとらえたりする部分も多くあるので、
読んでみると、きっと視野が広がるでしょう。
そして、あの当時の空気を思い出すことでしょう。




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