万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

女性初のローマ市長-広がる既成政治への不満

2016年06月20日 15時39分52秒 | ヨーロッパ
伊地方選決選投票、ローマ市長選は五つ星運動が勝利 首相に痛手
 アメリカでは、共和党の指名候補の座を手にしたトランプ氏に対して、しばしば”大衆迎合”とする批判の声が寄せられています。一方、イギリスのEU離脱をめぐる国民投票でも、残留派は、離脱派を”大衆迎合”として罵っています。

 こうした中、イタリアの首都ローマでは、初の女性市長が誕生したと報じられています。新興政党である五つ星運動のビルジニア・ラッジ候補が67%もの票を獲得したというのですから圧勝です。五つ星運動とは、左右両派の既成政党に対する批判から7年前に誕生した政党であり、公約としては、腐敗撲滅や公共サービスの向上などを掲げ、EUに対しても批判的な立場とされています。既成政党の立場からすれば、五つ星運動も”大衆迎合”なのでしょうが、果たして、世界各地、しかも、先進国で散見される反既成政治の動きは、”大衆迎合”という否定的表現、批判の一言で済まされるのでしょうか。

 少なくとも民主主義国家では、”大衆迎合”を否定することは、民主主義の否定をも意味しかねません。”大衆迎合”と民意は、表裏一体であるからです。逆から見ますと、既成政治側の主張は、大衆無視の’既得権益政治’、あるいは、少数エリート支配の容認となり、既成政治側が”大衆迎合”として批判すればするほど、言われた側は見下された感覚を抱くと共に、反発を感じます。しかも、移民・難民問題の深刻化、政治腐敗、劣悪な公共サービスといった問題への対応は、一般の国民にとりましては、常識的な政治に対する要求です。”大衆”は、必ずしも、無知で野蛮な存在ではありません。”大衆迎合”は、意見を同じくする人々が多い、ということだけであり、必ずしも反知性的で反道徳的でもないのです(もちろん、実現不可能な解決方法を示すことで、国民を騙すケースもありますが…)。

 一般の国民の常識的な要求を”大衆迎合”という言葉で冷たくあしらってきた既成政党の高慢な態度、あるいは、その背後にある既得権への執着こそが、今般の地殻変動を生んでいるのではないでしょうか。既成政治であれ、何であれ、独断や独善に陥らず、政治家である限り、国民の声に真摯に耳を傾けるべきなのではないかと思うのです。

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