万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ヨーロッパ極右の不可思議-反イスラム主義と反ユダヤ主義

2023年11月28日 12時28分58秒 | 国際政治
 先日、オランダで行なわれた議会下院総選挙では、反移民・反イスラム・反EUを訴えてきたヘルト・ウィルダース氏率いる自由党(PVV)が議席数を大幅に増やし、ヨーロッパ諸国の右傾化を印象づけることとなりました。自由党の獲得議席数は全150議席中37議席に過ぎませんが、議席数を17から37まで20も増やしたのですから躍進です。その背景には、イスラム諸国からの移民の増加というヨーロッパ諸国が共に抱える問題が指摘されていますが、この現象、どこか不可思議なのです。

 今日のヨーロッパにおける極右政党は、民族主義あるいは国家主義においては戦前のナチスやファシスタ党と共通し、かつ、それ故に‘極右’と表現されながらも、両者、とりわけ、ナチスとの間には決定的な違いがあります。それは、現代の極右は、何れも反イスラム主義を掲げ、親ユダヤの姿勢を鮮明にしている点です。ドイツのネオ・ナチさえ必ずしも反ユダヤではなく、フランスの極右として知られるマリーヌ・ルペン氏も同様です。もちろん、極右の反イスラム主義の背景には、上述したイスラム系移民の増加とその社会問題化があり、おそらく、身近な問題として移民問題に敏感になっている一般の国民を自らの支持層として取り込みたい思惑があるのでしょう。

 その一方で、同党の躍進は、イスラエル・ハマス戦争とは無縁ではないように思えます。もちろん、ハマスのイスラエル奇襲に際しての蛮行が報じられたことにより、ヨーロッパの人々がイスラム過激派によるテロを恐れるようになった、とする説明もあり得ましょう。イスラエル国民のように自らもテロの被害者になるかもしれない、という恐怖心が、極右勢力を政界に押し上げたのかもしれません。もっとも、ヨーロッパにおけるイスラム過激派によるテロ事件が頻発したのは、2001年にアメリカにて9.11事件が発生してからの十数年ですし、フランスのパリのように社会的分断による暴動が起きつつも、イスラムホビアは今に始まったことではありません。

 ‘今’というこの時期に反イスラム主義を掲げた政党がオランダで台頭した点を考えますと、この現象は、ヨーロッパの人々のイスラムに対する恐怖心や一般的な反イスラム感情、あるいは、残忍なハマスに対する怒りに起因しているのではないのでしょう。むしろ、反ユダヤ主義の広がりを抑えるための、ユダヤ系勢力による高等戦術である可能性も否定できないように思えます。

 反ユダヤ主義で知られる戦前のナチスを見ましても、その幹部の多くはユダヤ系でした。18世紀にユダヤの宗教家として一世を風靡したヤコブ・フランクの思想では偽装や偽旗作戦は許されており、ユダヤ系勢力の行動を理解するには、その思想の系譜まで遡って理解する必要があります。今日のヨーロッパの極右も、その言行やメディアを介したプロパガンダなど、表面だけを見たのではすぐに騙されてしまうのです。しかも、他者を分断して相互に戦わせる作戦はお手のものなのです。

 そして、ヨーロッパにおいて反イスラム主義を招いた移民の増加も、その原因を突き詰めてゆきますと、特定の金融・経済財閥、イエズス会、そして東インド会社等が合流したグローバリストに行き着きます。世界権力とも称すべきグローバリストの多くはユダヤ系ですので、反移民を政策に掲げるならば、こうしたユダヤ勢力を批判するのが筋であり、かつ、合理的な判断なはずです。イスラム教徒と対立しても根本的な問題解決に至るわけではなく、各国政府の政策にも多大な影響を与えている世界経済フォーラムが掲げる移民推進策こそ止めさせないことには、移民の増加は止まるはずもないのです。因みに、オランダ東インド会社の会員には、オランダがかつてスペイン・ハプスブルク領であった歴史を背景に、多数のセファルディ系のユダヤ商人が見られます。

 また、イスラエル・ハマス戦争では、イスラエルによるパレスチナ国に対する侵略、並びに、パレスチナ人に対する虐殺が問題視されるに至ると、イスラエルに対して逆風が吹くようにもなりました。この逆風は、必ずしもイスラム系移民のみではなく、イスラエルの攻撃が国際法違反の戦争犯罪である以上、一般国民からも吹いてくるのです。ホロコーストによる同情すべき被害者というユダヤ人のイメージは崩れ、加害者としての側面が露わとなったのですから、ユダヤ人は、目下、反ユダヤ主義の亡霊を恐れる事態に直面しているのです。

 オランダの自由党は、ウィルダース党首のみが党員であり、他の人々は同氏に賛同するサポーターといういわば‘独裁政党’なところもユダヤ勢力好みでもあります。オランダにおける同党の躍進は、ヨーロッパにおける反イスラム主義の拡大と言うよりも、反ユダヤ主義の再燃を恐れた、潤沢な資金力並びにメディア操作に長けたユダヤ勢力による防御的なリアクションなのかもしれません。反ユダヤ主義が国民一般に広がる前に先手を打ち、保守層を親ユダヤ主義に誘導するという・・・。この作戦では、基本的な対立構図もオランダの一般国民対イスラム系移民となり、ユダヤ勢力は‘自らは安全な場所に身を置く’ということになるのですが(他者二分して両者を戦わせる・・・)、果たして、オランダ、否、ヨーロッパ諸国は、どちらの方向に向かってゆくのでしょうか。

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