万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ハマスの人質解放は和平への道を意味するのか?

2023年11月27日 11時52分54秒 | 国際政治
 かねてよりイスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスによる人質の解放がハマスとの停戦の条件であると明言してきました。この言葉通り双方による停戦が合意され、今月24日からハマスは人質の解放を始めたのですが、同解放は、イスラエル・ハマス戦争に恒久的な和平をもたらすのでしょうか。

 ハマスとイスラエルによる停戦の合意は、11月22日にカタール政府によって発表されました。カタールやエジプトと言ったアラブ諸国の仲介が功を奏したと報じられていますが、その背後では、アメリカが水面下で働きかけを行なったとされています。何れにしましても、少なくとも外交の表舞台では、仲介者の登場によってイスラエルとハマスとの間に交渉ルートが開かれたこととなったのです。

 今般の停戦条件とは、ハマス側が10月7日の奇襲攻撃に際して奪った人質240人のうち50人を解放する一方で、イスラエル側も自国に拘留していたパレスチナ人150人を釈放するこという交換条件です。この結果、24日から四日間の停戦が開始されています。なお、ハマス側が、ガザ北部に対する支援物資の搬入をイスラエルが妨害していると批難していますので、同停戦条件には、ガザ地区住民への水、食料品、緊急医療品などの人道的支援も含まれているのでしょう(自由な通行の保障・・・)。

 かくして、24日からハマス、イスラエル双方による停戦条件の履行が始まり、イスラエルによるパレスチナ人大量虐殺を伴うガザ地区壊滅作戦を前にした緊迫感も、一先ずは和らぐこととなりました。初日の24日には、ハマスは24人の人質を解放し、その後、第二回目ではタイ人4人を含む17人を、第三回目ではアメリカ人やロシア人など外国籍4人を加えた17人を解放しています(アメリカのバイデン大統領は、アメリカ人少女の解放を自らの外交的成果としてアピール・・・)。赤十字国際委員会(ICRC)に引き渡す形ではありますが、人質の一部は無事に解放されたのです。

 停戦期間は、四日間、即ち、11月28日までを予定していますが、その後については未定です。もっとも、ハマス側が一日に10人の人質を解放する代わりにイスラエル側も30人のパレスチナ人を釈放する条件の下で、1日づつ停戦を延長するとする案も検討されていると報じられています。しかしながら、同停戦延長が実現したとしても、それが恒久的な和平に繋がるとは限りません。何故ならば、人質の人数には限りがあるからです。

 ハマスは、三日間で58人の人質を解放しており、残りの人質の数は、単純計算で182人です(もっとも、条件の対象がイスラエル人人質とすれば、解放人数は50人丁度・・・)。つまり、一日10人の人質解放で停戦を延長したとしても、最大で19日しか停戦期間を設けることができないのです。むしろ、ハマス側は、人質の解放によって停戦交渉の材料を失うのですから、その後は、交渉の余地なくイスラエルから攻撃される可能性が高まると推測されます。

 実際に、ガザ地区を訪問したネタニヤフ首相は、「勝利まで続ける。誰も止めることはできない」と述べて、四日間の停戦期間が終了した後に、ガザ地区に対する攻撃を再開する方針を示しています。また、ガザ南部に対する攻撃姿勢も強まっており、ガザ地区第二の都市とされるハンユニスに対する地上作戦も進行中との指摘もあります。さらには、イスラエル軍は、ヨルダン川西岸地区に対しても攻撃を加えており、一夜にして6人のパレスチナ人がイスラエル軍によって射殺されたと報じられています。ネタニヤフ首相の戦争目的の第一は、‘ハマスの壊滅’ですので、遅かれ早かれ、あるいは、人質の解放が一部であれ全員であれ、矛を収めるつもりはないのでしょう。

 以上に、簡単に停戦の経緯を述べてきましたが、ネタニヤフ首相がガザ地区を訪問し、かつ、戦争継続を宣言したところからしますと、今般の停戦は、やはりイスラエルにとりまして有利に働いているように思えます。これまで、イスラエルが停戦に応じなかったのは、ハマスに体勢を整え直す余地を与えないためと説明されてきました。しかしながら、今般の停戦後の様子からしますと、同停戦は、逆に、イスラエルにこそガザ地区南部を含めた地上作戦の準備期間を与えているように見えるのです。否、‘ハマス居るとこと全て攻撃対象’というイスラエルの基本的な立場からしますと、西岸地区をも継続的な攻撃の対象として視野に入れているのかもしれないのです。

 さらに、今般の停戦が、イスラエルに対する国際社会における人道上の批判を和らげたとしますと、イスラエルにとりましては、一層好都合であったと言えましょう。また、ハマスとの交渉ルートを一先ずは確保する一方で、イスラエル批判の高まりや国際世論の反発等を受けて計画を断念せざるを得なくなった場合にも、和平の演出、すなわち、体の良い幕引きという選択肢を手にすることもできました。そして、このイスラエル側に見られるこれらの有利性こそ、同戦争がハマスとの共謀であり、全世界を巻き込む世界権力による‘茶番’である疑いを強めているように思えるのです。

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