万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の台湾領有権主張は法廷で判断を

2024年05月28日 13時12分23秒 | 国際政治
 中国の習近平国家主席は、1949年10月10日の中華人民共和国建国以来、国是としてきた‘一つの中国’を実現すべく、台湾に対する武力併合を試みようとしています。同方針は、全加盟国に平和的解決を義務付けている国連憲章に違反することは明白です。他国からの攻撃に対する正当防衛のための武力行使でもありませんので、‘自衛’を根拠に正当化することも不可能です。現代にあっては、圧倒的に多数の人が国際法上の違法行為と見なすのですが、中国のみが、台湾の武力併合に対して犯罪の自覚も罪悪感もなく、自らを貶めるような不名誉な行為を実行に移そうとしているのです。

 中国という国家は、それが世界権力からの指令であれ、道徳心も倫理観も欠けている‘サイコパス国家’ということになるのですが、仮に、中国が、自らの台湾併合が正当な行為であると信じているとしますと、その唯一の拠り所は、‘過去にあって自国が領域とした時期があった’という点に尽きます。中国は、“大清国の時代に台湾が直轄領であった”ことを根拠に、台湾併合を‘取られたものを取り返す正当な行為’と見なしているのです。目的は手段を正当化せず、人民解放軍による台湾侵攻は、何れであれ国際法違反となるのですが、そもそも、中国の主張は、台湾併合の正当な根拠となり得るのでしょうか。台湾問題を平和的に解決するためには、先ずもって、中国の主張を、国際法に照らし、客観的な立場から厳正に吟味する必要がありましょう。

 同問題については、凡そ二つのアプローチがあります。第一のアプローチは、中国側の領有権の正当性を判断するものであり、第二のアプローチは、台湾側の独立的な国家としての地位を審査するというものです。これらの両アプローチは表裏一体なのですが、おそらく、何れのアプローチでも、国民国家の承認要件である国民、領域、主権の何れから検討しても、中国側の主張が否定されるものと推測されます(台湾の法的地位の確定については、本ブログ2022年12月26日の記事を参照・・・)。

 まず国民を見ますと、台湾の住民は、中国(現中国政府)の国籍を有する中国人ではありません。最初に同島に住むこととなった人々は、オーストロシア語系の諸部族の人々であり、‘華人’ではないのです。17世紀以降は、同島のオランダ支配を背景に現在の福建省当たりの南方系華人の人々が移住し、多数派となりましたが、これらの人々も‘中国籍’の人々、即ち中国(現中華人民共和国)の国民ではありません(因みに、大清国でさえ初めての近代国籍法である「大清国籍事例」を制定したのは、1909年3月28日に過ぎない・・・)。台湾国民の形成の過程からしますと、所謂‘新大陸’における諸国家の移民国家の形態に近く、‘中国人の国家’とは言えないのです。この側面は、第一のアプローチからしますと、中国が、台湾の国民をもって中国の国家とは言えない根拠となりますし、第二のアプローチからしますと、台湾が、台湾人という固有の国民、すなわち、民族(国民)自決の原則の下で、集団としての台湾人が、独立国家を有する政治的権利をもつ国であることとなります。

 次に領域から調べてみますと、台湾は、上述したようにオーストロシア語系の諸部族の居住地であった時期が長期に亘っています(1732年まで西南部には大肚王国が存在しており、日本国の史料には、‘高山国’の名もある・・・)。大航海時代以降は、植民地支配を合法行為と見なした未熟な近代国際法の下で、一部であれオランダやスペインが領有した時期もありました。その後は、鄭成功が反清復明の拠点として支配下に置いたことが呼び水となって、大清国の直轄地となるのです。大清国の直轄地となった台湾は、日清戦争の講和条約として締結された下関条約によって日本国に割譲されることとなりますが、少なくとも、清領であった時期は、1683年から1895年までの凡そ200年間に過ぎないのです。国民国家体系が成立している現代にあって。過去の‘帝国’の版図を根拠とした領有権主張が認められるはずもありません。このことは、第一のアプローチからしますと、中国には領有権を主張する根拠はなく、第二のアプローチからしますと、台湾国民にとりましては、‘固有の領土’を主張し得ることを意味します。

 それでは、主権はどうでしょうか。上述したように、大清国が台湾島を直轄地としたのは僅か200年足らずであり、また、今日、中華人民共和国の主権が及んでいないことは明白です。国共内戦に敗れた国民党の蒋介石相当が台湾島に中華民国の首都を移した行為も、同島に対する正当なる自国の主権主張の法的根拠ともなりません。何故ならば、たとえ台湾の中華民国を亡命政府と捉えたとしても、新国家(中華人民共和国)の主権は、亡命先の国民や領域には及ばないからです。主権に関しても、その歴史的並びに法的根拠を調べれば、中国側に分がないことは明白です(第一のアプローチ)。そして、第二のアプローからしますと、台湾の国家主権は既に確立していると言えましょう(詳しくは、本ブログ2022年12月26日付け記事を参照)。

 台湾問題を平和的に解決し、台湾有事を未然に防ぐためには、中国に対しては台湾に関する領有権主張は、国際司法裁判所(ICJ)に対して行なうべき旨を伝えると共に、台湾も、一刻も早く、自らの独立国家としての法的地位を確認すべく、いずれかの国際司法機関であれ、訴訟を起こす意向を内外に向けて表明すべきと言えましょう。台湾については、習近平国家主席が軍事力の行使を公言していますので、国際刑事裁判所(ICC)に対して‘犯罪未遂’で訴えるという選択肢もあります。台湾有事は日本国のみならず、全世界を第三次世界大戦に巻き込むリスクがあるのですから、具体的な未然防止策の実行に着手すべきであると思うのです。

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