万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

最善の制度設計を求めて

2024年04月03日 11時22分42秒 | 統治制度論
 戦争であれ、政治腐敗であれ、貧困化であれ、世の中で何か良からぬ出来事が発生した際には、常々、その原因を当事者個人に求める見解とその出来事が起きた外部環境を問題にする見解とに分かれがちです。もちろん、原因が複合的であるケースも少なくないのですが、特に何らの罪もない人々が被害者となってしまう場合には、後者、すなわち、制度や仕組みに何らかの欠陥があるケースの方が多いように思います。

 ところが、制度設計の善し悪しがこの世の不幸の大方の原因となっているにも拘わらず、善き制度や組織の在り方が真剣に探求されてきたわけではありません。政治の世界では、むしろ、現状に対する人々の不満は、平等を掲げる共産主義といったイデオロギーが吸い寄せてきましたし、その反対に、国家主義や民族主義の高揚によって解消させようとする傾向もありました。伝統宗教、あるは、新興宗教を含めた思想による不満の解消方法は、得てして権力者に利用されがちであり、たとえその主張に傾倒して活動に協力し、革命やクーデタ等によってその‘理想’を実現したとしても、そこで直面するのは自らが目指していた理想とは逆の現実です。騙されたことに気がついても、‘後の祭り’となるのが常なのです。

 思想や宗教による解決の末路を知ればこそ、これらを歴史の教訓として、人類は、別の道を探るべきです。そして、その別な道こそ、力学的な視点を含めた構造全体のメカニズムを見据えた上での善き制度設計の探求ではないかと思うのです。そこで、ここに試案として、制度設計に際して役立つものと期待される基本モデルを作成してみました。決して難しいものではありません。

 同モデルは、組織の健全性並びに発展性を備えた組織に必要とされる諸機能によって構成されています。具体的な制度として実現可能であり、かつ、多くの人々が納得し得る合理性を追求している点において、上記の思想やイデオロギー等による解決方法とは大きく違っています。そして、こうした基本モデルがあれば、誰もが、同モデルに照らして制度の‘善し悪し’を判定できるようになるのです。

 ‘善き組織’にとりまして必要となる諸機能とは、およそ、(1)提案、(2)決定、(3)実行、(4)制御、(5)人事、(6)評価となります。掲載した図で示されますように、これらは一つのフローなシステムを構成しています。何れが欠けても組織は機能不全に陥ったり、何らかの問題を抱えることになるのですが、ここで強調すべきは、同モデルは、権力分立の必然性をも説明していることです。何故ならば、一人の人物、あるいは、一つの機関がこれらの機能に関する権限を独占した場合、同組織のメカニズムが働かなくなるからです。つまり、これらの機能に関わる諸権限は、諸機能間の相互作用が効果的に発揮できるようにバランスを考慮しつつ、それぞれ別の機関に配置する必要があるのです。

 組織上の機能が複数存在することは、今日にあって定式化されている‘三権分立’に拘る必要はないことを意味するのですが、これらの権限は、‘一機関一権限’を原則とする必要もありません。組織の目的や決定事項の内容、あるいは、組織のメンバーや利害関係者によって権限を複数の機関やポストで分有させることもできます。基本モデルとは、あくまでも組織上の諸機能の流れと各々の役割を抽象化して図として表したものであり、具体的な制度の詳細については、基本を押さえさえすれば、それぞれの組織の個別的な状況や条件に合わせて、如何様にも設計できるのです。

 この基本モデルは、政治分野における国家や国際機関等の制度設計のみならず、企業の組織形態を含めてあらゆる組織に適用できます。そして、今日における諸問題の解決に際しても、万能ではないにせよ、大いに役立つのではないかと思うのです。

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