万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国企業の日本市場参入-グローバル市場はアンフェアな競争を強いる

2019年09月02日 13時59分20秒 | 国際政治
本日の日経新聞朝刊の一面には、BYDやCATLといった中国の蓄電池事業者が、近々日本市場に上陸するとする記事が掲載されておりました。蓄電池の開発当初においてはグローバル市場のシェアの大半を占めていた日本企業勢でしたが、今日では、低価格を武器とした中国企業にシェアを奪われています。遂に国内市場においても強力なライバルが現れたこととなります。

 実のところ、蓄電池分野に起きている流れは、既にパターン化されたグローバル移行モデルを辿ったに過ぎません。それは、技術力に優る先進国が先端的な製品を開発し、一時的に世界市場を席巻するものの、時間の経過と共に安価な生産が可能な新興国企業のシェアを拡大し、最後は、新興国企業によって先進国企業が淘汰されてしまうモデルです。半導体然り、太陽光発電パネル然りです。何故、このような逆転が起きるのかと申しますと、それは、グローバル市場における競争とは、極めてアンフェアであるからです。

 一般のゲームでは、参加者全員に対して競争条件を等しくします。例えば、オフェンス側とディフェンス側の両者に対して、双方のコートやフィールドの面積が違うといったことはあり得ません。一方が他方の10倍の面積を有すれば、全く以って勝負にならないからです。また、一チームの選手の数が双方で違っていても、戦わなくとも勝負の結果は凡そ分かります。桶狭間の戦いのように相手の隙を突く奇襲策、即ち、ルール違反でもしない限り、少人数となった側には勝ち目はありません。そこで、しばしば、ゴルフや囲碁のように弱い側に下駄を履かせて競争条件を等しくするケースも見られるようになります。

 こうした一般のゲームに照らしてグローバル市場での競争を見ますと、同ゲームが、如何にアンフェアであるのか理解されます。国によって国内市場の規模が違いますし、当然に人口にも開きがあるからです。グローバリズムは、全世界の市場が統合されて一つとなることでフェアな競争が実現するかのような幻想を振りまいていますが、現実には、その逆です。唯一の共通ルールは、関税や数量制限、並びに、非関税障壁といった貿易障壁ですが、こうした国境規制の撤廃は、グローバル市場の形成に関わるルール(必要措置)に過ぎず、その後のゲームについては凡そ‘ノン・ルール’なのです。そして、今日のグローバル市場において最強となるのが、市場と人口規模において他国を圧倒する中国企業であることは言うまでもありません。

 それでは、何故、日本国政府も日本企業もグローバル化を歓迎し、より一層の市場開放を望むのでしょうか。その理由は、最初に説明したグローバル移行モデルにあります。その第一段階においては技術力のある先進国企業が一時的には優位となりますので、その先の展開を考えないとしますと、自国や自企業が有利な条件にあると信じ込むからです(オフェンス面に熱中するあまりにディフェンス面を疎かに…)。先のゲームに喩えれば、一方のチームだけがハイテク器具を装備した状態です。しかしながら、現実には、グローバル市場の競争条件は歪があり、かつ、他のチームがハイテク器具を用いるようになれば、当初の優位性は時間が経つにつれて消滅してしまいます。気が付いた時には、自国のフィールドは規模を武器とした大国の企業に席巻されてしまうのです。

 グローバル市場がアンフェアな競争を強いる弱肉強食の世界であるとしますと、このままこの路線を走り続けるべきなのか、という疑問が生じます。そして、上述したようにゲームによってはハンディキャップを付ける場合がある点を考慮しますと、案外、保護主義とは、弱者に対するハンディキャップに当たるとする考え方もあるように思えるのです。しかも、中国政府は、国家戦略である「中国製造2025」に基づき、手厚い補助金を支給するなど、自国企業を国家ぐるみで支援しています(自国企業への政府補助はWTOでもルール違反…)。この状態は、一つのチーム、しかも最強チームが特別の支援を受けている等しく、これでは、他のチームは瞬く間に市場から追い出されてしまいましょう。

 グローバル市場のアンフェアな側面に対する認識が広がれば、各国政府の対応も違ってきます。香港問題で揺れる中、中国企業もまた全体主義の尖兵である点を考慮しますと、日本国政府は、アメリカと同様に対中政策を転換するべきではないかと思うのです。

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コメント (10)
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