万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

”警察官”がいない世界とは?-オバマ大統領の”警察嫌い”の行くへ

2016年01月27日 15時04分35秒 | 国際政治
米中外相が会談、北の実験は「世界安保への重大な挑戦」
 アメリカのオバマ大統領は、今年の一般教書演説において、再度、”アメリカは世界の警察官ではない”とする見解度示したそうです。オバマ大統領の”警察官放棄宣言”はこれが初めてではないのですが、国際社会は、第二次世界大戦後の国際秩序を根底から覆される深刻なリスクに直面しています。

 国際連合は、常任理事国五カ国による国際の平和と安全の維持を柱とした、”5人の警察官構想”に基づいて設立されました。もっとも、この構想通りに平和が訪れたわけではなく、実際には、覇権を追求したソ連邦もその後継のロシアも警察官役には不適任であり、中国に至っては、警察どころか、数々の国際法の違反の行為を繰り返しています。このため、事実上、”5人の警察官”は米英仏の3人に減り、取締能力=軍事力からしますと、アメリカがいわば”主任警察官”を務めてきたのです。そのアメリカが、”警察官の職から降りる”というのですから、国連を中心とした国際社会の平和構想は風前の灯となります。戦前にあって機能不全に陥った国際聯盟の常任理事国も、最後は、英仏二カ国を残すのみとなりました。おそらく、この背景には、弁護士出身のオバマ大統領の”警察嫌い”とも言うべき”取締側(権力側)”に対する不信感があるように思われます。アメリカ大統領として、自らがその”取締側”にありながら、警察権の行使を嫌悪しているのです。しかしながら、警察官がいない世界を想像してみますと、誰もが、国際社会の安全の低下、即ち、暴力主義国家の台頭を予測せざるを得ません。”警察官”がいない世界とは、無法者国家が跋扈する世界なのですから。

 そして、今日の国際社会の警察権力が、国際法の執行権であることを想起しますと、国際社会の”法の支配”を壊したい中国にとりましては、執行者がいない好都合の状況が出現します。近代以降、国際社会が、二度の世界大戦をはじめ、甚大なる犠牲を払いながら構築してきた法秩序もまた、崩壊のリスクに晒されるのです。せめて、オバマ大統領には、警察官の役割否定で人々に不安を与えるのではなく、国際社会に対して、警察機能のシェア、あるいは、再構築を訴えていただきたいと思うのです。

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