万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日韓慰安婦合意の国際的波紋-”条約・協定外救済”の問題

2016年01月30日 15時04分08秒 | 国際政治
 年末の日韓慰安婦合意を受けて、海外メディアの多くは、日本国政府が、戦時下の慰安所を組織的な”性奴隷制度”と認め、韓国に対して謝罪と補償を約束したする論調の報道を行いました。普遍的な人道問題を起した日本国に非があり、今般の措置は遅すぎるとする批判的なニュアンスを含んでいます。

 しかしながら、日韓慰安婦合意は、日韓の二国間のみならず、国際社会全体に波紋を広げる可能性があります。国際的な波紋とは、普遍的な人道問題であるならば、”講和、あるいは、請求権問題の解決のために締結された条約の枠外における被害者に対する補償はあり得るのか”という問題です。実際に、日本国政府は、1995年のアジア女性基金に続いて、今般の合意でも、支援財団に対して10億円の基金の拠出を約していますので、日本国は、国際社会において”条約外救済”の前例を作っています。慰安婦問題は、”併合期の朝鮮半島で発生した事業者による人身売買の犯罪被害問題”、並びに、”占領地における将兵による軍規違反の犯罪”なのですが、世界大に散見されるこの種の犯罪であっても、今日の政府に被害者を救済すべき道義的責任が存在するとしますと、その救済対象の範囲は飛躍的に拡大します。韓国もまた、朝鮮戦争では、政府直営の慰安所が設置されていましたし、ベトナム戦争においては、村民虐殺やライダイハン問題を起こしておりますので、救済問題は他人事ではないはずです。

 同時に、人道問題としての普遍化は、戦勝国と敗戦国との立場や人種、民族、宗教といった属性の違いをも消し去ります。第二次世界大戦時の国際軍事法廷では、戦勝国による戦争犯罪は不問に付されましたが、非人道的行為の被害者の救済が、戦争の勝敗に拘わらず、しかも、講和条約や請求権協定外で可能であるとしますと、欧米諸国をはじめ、多くの国々が自らが、人道問題の加害当事国となる問題として認めざるを得なくなります。さらに”奴隷制”そのものが問題ともなれば、国によっては国内問題に飛び火する可能性さえあるのですから、事は重大です。海外メディアの報道ぶりでは、歓迎ムードが漂っておりましたが、何故、”条約・協定外救済”の前例が、パンドラの箱を開けることになると考えないのか、不思議でならないのです。

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コメント (4)
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