大学生の歌と涙 ――若者が求めているもの――
◎15回の講義から歌が誕生
いじめ事件で日本中が騒然としている。いったいあれは、若者のどんなサインなのだろうか。背景には何があるのか、ていねいに探っていく必要がある。
大学の「教職論」の受講生の中にシンガーソングライターをめざしている学生がいる。彼は、200人を超える講義室の一番前にいつも座っていて、私の言葉を一言ももらすまいと真剣に聞き、メモをとり続けている。
尋ねると毎回、今日の講義の中で一番胸に落ちた言葉を拾い上げ、そこに自分の思いを重ねて書いていると言う。15回の講義が終わったら、それを詞にして歌にしてあげると言う。
「それじゃ、ぜひみんなの前でギター片手に歌ってよ」とはっぱをかけた。
彼は言う。「この講義って200人以上いるのに、なぜかみんなつながってるような雰囲気になり、素直に涙を流したり、心開いて自分のことを語ったり書いたりしてるでしょ。ぼくは、それが何かを歌いたい」と。
蝉が鳴き出した暑い日、彼は歌ってくれたのだ。
◆ ◆ ◆
スナオニナレルバショ
作詞作曲 サブロー
素直になれずに君が もしどこかでため息つくなら
ここへ来て 心のままに その想い 吐き出せば
また同じセリフだ 君の口から出たのは 色の付いた「ありがとう」じゃなく 色の落ちた「すいません」
そんな君の胸に 落ちたいくつもの詩は
君の心 彩り その胸の中 一つ優しさ刻む
「うまく話そう」そんな事じゃなく 大切なことは 語りたい事があるかどうかさ
魔法のような言葉に 君すら忘れていた自分が 顔を出す。そしていつかの 思い出が 解けてく
そこに流れる涙は あの時 君が堪えていたもの
素直になれるよ きっとこの場所で
子供の頃なんて 鉛筆と紙があれば
真っ直ぐな心 そのまま ありのまま 何も曲げずに描けたのに
そう、例えなくても この世の全てがドラマさ
主人公は君で 誰を責めるも 何かに気付くも 君次第
自分の中の ホンマモンだけを ぶつけ合えたら
ニセモノの自分を 砕けるのに
魔法のような言葉に 君すら知らなかった自分が顔を出す。そしていつかの 過ちも 糧になる
たとえ 描いてたものと 今眺める景色は違っても やさしくなれるよ きっとこの場所で
「人は、信じ合えない」と誰かは言うが 魔法使いは僕にこうつぶやいた 「一番大切な事は 見捨てない眼差しを忘れない事 それがはじまり」
素直になれずに君が もしどこかでため息つくなら
ここへ来て 心のままに その想い 吐き出せば
魔法のような言葉に 君の心が音を鳴らして 生まれるよ 新しい歌 君はその 歌い手さ
気付いてるはずさ 君も そこには理屈なんていらない
素直になれるよ きっとこの場所で 繋がる 響きあう スナオニナレルバショ
◆ ◆ ◆
自分に素直になれる場所を、心の中を吐き出せる人を求めている若者たち。人を信じ人とつながり響き合いたい、そして、ありのままを受け入れ、人生の主人公になって生きていきたい、過ちも不充分さもそっくり受け止め、どこかで折り合いをつけて、明日の風景に心ときめかせて生きていきたい、新しい歌をうたいながらと。
心のかぎり声のかぎり歌ってくれた孝文くん、大きな部屋に歌が響き、涙を流して聞いていた学生たち。またドラマが生まれた。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)