昨年の大晦日、教え子からこんな便りが届きました。糖尿病から目を悪くされたお義母さんの世話をしながら、広汎性発達障害の息子の子育て奮闘中の絵美ちゃんからです。
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今年も残りわずかですね。先生、相変わらず忙しく、そして充実した毎日をお過ごしのことと思います。
優一は、二年生の時、ほぼクラス全員からイジメられていたんです。私は「学校に行きたくなかったら、別に無理して行かなくてもいいよ。勉強はどこでもできるよ」と言ったこともあります。でも、優一は「三年生になって、理科の勉強がしたいねん」とよく言っていました。
小学校の読み聞かせ活動に参加し、頻繁に学校に行っている私に、ある日突然、一人の児童が「オレ、今まで優一のことイジメてたけど、もうせえへんから、ごめんな」と言ってきたのでした。この児童の中でも、いろいろな葛藤があったのでしょう。それから後、この言葉をきっかけに、担任の先生がクラスで話し合いを持ち、イジメをしていた児童の各家族へ連絡をし、イジメはなくなりました。二年生が終わる直前の2月でした。
本当にイジメは解決したのか、と不安なまま春休みに…。
春休み中はずっと優一のそばにいたくて、3月20日で仕事を辞めました。春休み中、クラスメイトでイジメをしていた子らを何回もわが家に招いて、私も一緒に遊びました。「優ちゃんの母ちゃんは一緒に遊んでくれていいなあ」と言ってくれていました。
優一には、何か自信を持てるものや、自信が持てるきっかけを作ってあげたくて、今やってみたいことを聞くと、その当時テレビで再ブームになっていたルービックキューブを全面揃えたいとのことでした。30年前、私も今の優一と同じ年の頃、よく遊んでいました。私は1面しか揃えられませんでしたが、優一はわずか1週間で猛特訓の末、6面全面を5分程度で揃えられるようになったのです。
4月に入ると、私宛に合格通知が届きました。2ヵ月前に介護福祉士の国家試験を受験したのです。息子のイジメ問題、読み聞かせの役員の引継ぎ、同居しているお義母さんの入院など、いろんなことが重なった時期の試験でした。
三年生になると、急に学校の話を沢山するようになりました。担任の若い男の先生が大好きなようです。
優一は、三年生になり、通常学級のみで授業を受けていますが、授業中に発言ができるようになりました。大好きな理科の時間は、クラスの誰よりも核心を捉えた視点で物事を見ることができるとか。また、自分で文章を作る問題や作文の中に、友だちが出てくるようになったのです。
あの時、イジメがあった時、何人かの保護者の方が子どもと一緒に私と優一に謝りに来てくれました。私の方が「正直に言ってくれてありがとう」と頭を下げました。許すか許さないかは、優一が決めることだし、優一は誰も憎んでいませんでしたから。
あれから春、夏、秋と季節が過ぎて、今年1年、優一はいろんなことにチャレンジしました。漢検8級も合格したんですよ。
昨日24日はクリスマス・イヴでした。サンタさんへの手紙には、欲しいおもちゃと「もしおなかがすいていたり、のどがかわいていたら、れいぞうこをあけてください」とのメッセージがありました。この暖かい言葉は、優一から私たち両親への贈り物だと思っています。優しい子に育ってくれてありがとう。
私の方は、介護福祉士としての仕事が決まり、がんばっています。今年1年は、あっという間に過ぎました。先生と会いたいと思いながら会えないままでした。来年はお会いして、ゆっくり話がしたいですね。そして時々、あの二年生のとき好きになった作文のように、お手紙を送ります。
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次回は、この便りへの私の返事を書きたいと思います。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)