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土佐いく子の教育つれづれ~またあしたね〈45〉

2016年05月12日 | 土佐いく子の教育つれづれ

作文が好きになる魔法の本出版

◎自由に自分の言葉で

この十年間に大阪で生まれた子どもたちの詩や作文が本になりました。『教室でいっしょに読みたい綴方』(なにわ作文の会編、フォーラム・A発行)という本です。

 先生が子どもに読んであげるだけではなく、子ども自らが手にとって読める本です。読むと、子どもたちは「あっおもしろい!ぼくも同じことあったわ」と思わず話し始めます。そうかそうかと聞いてあげると、そのうちに子どもの方から「ぼくも作文書いてみたい」と言い出すから、やっぱり魔法なのです。

 なぜなのか、それは大人の目から見た立派で整った文章や「上手い作文」ではなく、等身大の子どもの姿そのままが、子どもらしい文章で生き生きと綴られているからなのです。大人にほめられようと書いたのではなく、自分の書きたいことを書きたいように、書きたいだけ実に自由に自分の言葉で表現しているからです。だからこそ、一人ひとりが個性的で、読めばその子の顔が浮かび、生きぶりが鮮やかに見えてくるから面白いのです。

   ◆   ◆  ◆

  しごと  二年  そうた

 大きくなったら何のしごとをしようかな しょうぼうしになろうかな やけどするからやめとこう けいさつかんになろうかな わるいやつにやっつけられるからやめとこう 学校の先生になろうかな 勉強すきじゃないからやめとこう いしゃになろうかな かしこくないからやめとこう

 かしゅになろうかな はずかしいからやめとこうって そんなんばっかり言ってたらママに「あんたしごとないで。よしもともむずかしいやろうな。」って言われた。

 こまったな やっぱべんきょうせなあかんちゅうこっちゃ~
 
  ◆   ◆  ◆

 笑ってしまいますよね。

 ところで、作文集が発行されたと言うと「こんなふうに書きなさい」とお手本にされたりすることがよくあります。厳にいましめたいものです。

 大学生の8割ぐらいが子ども時代、作文は嫌いだったといいます。書く内容、書き方、枚数などを先生に決められ、自由に書いた作文などめったになかったと言うのですから、それは当然でしょう。しかも作文を教室で読んでくれることもなく、返却された作文は添削の赤ペンで傷だらけ。こんな作文教育のあり方を私たちは批判してきました。

◎生きている証として
 
 子どもたちは、どの子も自分を表現したがっていて、それを両手で大切に受け止めてほしいと強く願っています。そして、どの子の文章も、どんなに幼くても生きている証であり、貴重な自己表現なのです。 文章を書くことは、単なる文のおけいこではなく、自分を見つめ、人間を理解し、生きていく希望を灯す営みだと考えてきました。そして主権者として、自分の言葉を持てる人間に育ってほしいと願っているのです。
 
 こんな思いで取り組んだ中で生まれてきた作文や詩が満載の本が出版されたのです。
 
「どうしたら書くことが好きになりますか」とよく聞かれます。そうなのです。先生が、ときには親や祖父母が「あら面白いね」と楽しく読んであげてほしいのです。「こんなふうに書きなさいよ」は禁句です。

 また、教室や家庭にこの本を一冊、子どもが手を伸ばせば届くところに置いてやってください。手にとって子ども自らが読み始めます。好きになる一歩になることまちがいありません。

 大人のあなたが第一、子どもってやっぱりかわいいなあと子どもを発見することでしょう。

「きんえんのこと」という三年生の昌也くんの作文が載っています。父親が禁煙を始めたのですが、さて続くのだろうか、タバコをやめた分を「タバコ貯金」にしてみんなでハワイへ行こうよ、とあったかい家族が描かれています。この本が出版されたのでお送りしたら早速お父さんからのメールです。

「禁煙、あれから10年続いています。作文を読んで子どもの考えがわかり、子どもの目線で話をしようと心がけるようになり、親自身が変わった」と言います。「息子が結婚して、孫ができたら是非この本を読んであげたいと思います」

作文、このよきもの、生きている証としての文章は生き続けるのです。あらためて実感です。

(とさ・いくこ 和歌山大学講師)

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