中州の繁華街を通る国体道路からちょっと脇道に入った路地にひっそりと佇む、おでんが名物の居酒屋「安兵衛」。のれんをくぐりながらガラスの入った引戸を開けると、土間の左側にカウンターと右側にテーブル席。入ったとたんに、あぁ、これ多分いい店だと実感できる、年月を経て落ちついた渋い店内。それでも創業は昭和36年だから思ったほど古くはないみたい。そこに法被を着た主人と女将、それに厨房に入った方(息子さん?)の3人が切り盛りしている。大きな鍋に入った色の濃いつゆとおでんダネ。このおでんと酒の給仕は主人の担当らしい。
閉店までもう少しという時間だったからか、「おでんのタネで無くなっている物もありますが、よろしいですか?」と高齢の主人の丁寧でよく通る張りのある声。かくしゃくとしていらっしゃる。お酒は司牡丹をぬる燗でお願いした。一緒に運ばれてきたお通しは綺麗に形の揃った目刺し5本。渋いです。主人の丁寧な燗のつけ方も、酒の口当たりも絶妙で旨い。
それから主人におでんをいくつか注文。大根は濃い色のつゆがしっかり浸み込んで旨い。それでも見ためほど味は濃くない。つみれはよく見る小さなお団子状ではなく、大きい肉だんごといった感じ。挽いた鶏肉の食感と細かく刻まれた具とつゆが相まって旨い。これも見た目ほどではなく口当たりは軽い。どちらも日本酒以外は考えられないという感じのいい塩梅の味付けで、閉店間際でなかったらもう少しゆっくりして色々試してみたいところ。本当に残念。
お客さんはカップルで来ている若い人も居れば、もう何十年も通っていそうな地元の方もいて様々だが、ただ古くて居心地がいいだけでなく、主人をはじめ店の人が、そういった常連の方々にも、慣れ合いでなく、しっかりわきまえた言動をするのが見ていてとても気持ちいい。(勘定は¥1,700程)
安兵衛 (やすべえ)
福岡県福岡市中央区西中洲2-17