ーキャタビラーー
2010年 日本
監督=若松孝二 キャスト=寺島しのぶ(黒川シゲ子)大西信満(黒川久蔵)吉澤健(黒川健蔵)粕谷佳五(黒川忠)増田恵美(黒川千代)河原さぶ(村長)石川真希(村長夫人)飯島大介(司令部軍人)地曵豪(軍人1)ARATA(軍人2)篠原勝之(クマ)
【解説】
映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』など独特の視点で問題作を発表し続ける若松孝二監督が、戦争の愚かさと悲しみを描いた反戦ドラマ。太平洋戦争のさなかに手足を失って帰還した傷病兵とその妻の姿を描く。四肢を失い、顔は焼けただれた姿となって戦場から戻る久蔵に大西信満。その久蔵を看病するシゲ子を寺島しのぶが演じ、第60回ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した。正義のための戦争などないという若松監督の痛切な思いが、過激な描写で語られていく。
【あらすじ】
勇ましく戦場へと出征していったシゲ子の夫、久蔵。しかし戦地からシゲ子(寺島しのぶ)の元に帰ってきた久蔵(大西信満)は、顔面が焼けただれ、四肢を失った姿だった。多くの勲章を胸に、「生ける軍神」と祭り上げられる久蔵。シゲ子は戸惑いつつも軍神の妻として自らを奮い立たせ、久蔵に尽くしていくが……。(シネマトゥデイ)
【感想】
若松孝二監督作品は、いままで避けているかのように見たことがありませんでした。
私が初めて監督の名前を聞いたのは、40年ほども前にポルノ映画で評判だということでした。
それから、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』も評判は良かったようですが、見る気にはなれず…。
でも、この作品はベルリン国際映画祭で寺島しのぶが最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞したので、良い機会だと思って見に行きました。
梅田の映画館テアトル梅田は、3日前から売り出す指定席券がよく売れていました。
そこで、シネリーブル神戸まで行きましたが、ここでは7割程度のお客さんでした。
確かに、問題作でした。
☆ネタバレ
中国で女性を暴行して残虐に殺していた久蔵(大西信満)は、事故に遭い、四肢をを根元からなくし、顔も無惨焼けただれた姿で、妻シゲ子(寺島しのぶ)の元へ帰って来た。
おまけに、耳も聞こえない。
しかし、食欲と性欲は旺盛で、シゲ子にそれを求める。
シゲ子は夫を見たときには動揺するが、やがて軍神として村人に崇められる夫の世話をする。
1年もたつと、シゲ子は夫が村の人から崇められる姿に陶酔するようになり、家では、過去の夫の暴力を恨み夫をいたぶるようになった。
やがて、敗戦。
久蔵は中国で犯して殺した悪夢に苛まれ、自らの命を断つー。
なんと言っても、女優賞に輝いた寺島しのぶさんの演技力に圧倒された作品でした。
久蔵役の大西信満さんもすごかった。
この作品は、この二人の二人芝居と言ってもいいと思いました。
こういう夫婦の形もあるのかと、考えさせられましたが、久蔵の心の変化が、結局は表現されなかったので、シゲ子に何も伝わらないラストシーンに少しがっかりしました。
観客には伝わったのかなあ?
中国でのシーンが、(たぶん低予算で)ちゃちかったこと、背景の村もいつも夏だったこと。
臨場感に欠けて、ちょっと残念でした。
舞台化したらいいかもしれませんね。
個人的な意見としては、戦争が終わって、軍神ではなく、むしろ戦争犯罪人となった夫とその妻が、どう生きていくのか、そっちの方に話を持って行って欲しかったなあ。
軍神さんと崇められても、本人もつらいだろうし世話する方も大変。
耳も聞こえなくなり、話せなくなったから、リヤカーに乗せられて出かける時、必死に抵抗してもしシゲ子の思うようにされていたけど、話せたら怒鳴りまくっていたでしょうね。
「生まず女」「役立たず」と言われ続けていたシゲ子の仕返し、気持ちとてもよくわかりました。
でも、もしあの状態で妊娠なんてしたら近所の人達の好奇の目にさらされてもっと辛かったでしょうねー
東住吉の望まぬ妊娠の末の乳児殺害事件が頭をよぎりました。
終戦になって自ら這い出して命を絶つなら、もっと早く見切りをつけられなかったのかなーなんて考えてしまいました。
過激過ぎる問題作ばかりを作って世に問うてきた監督。
まだまだ、作りたい作品がたくさんおありだったと思います。
亡くしてみれば、とても惜しい監督でした。
冥福をお祈りします。