マダムようの映画日記

毎日せっせと映画を見ているので、日記形式で記録していきたいと思います。ネタバレありです。コメントは事前承認が必要です。

キリマンジャロの雪

2013-02-14 15:45:02 | 映画ーDVD

ーキリマンジャロの雪ーLES NEIGES DU KILIMANDJARO/THE SNOWS OF KILIMANJARO

2011年 フランス

ロベール・ゲディギャン監督 アリアンヌ・アスカリッド(マリ=クレール)ジャン=ピエール・ダルッサン(ミシェル)ジェラール・メイラン(ラウル)マリリン・カント(ドゥニーズ)グレゴワール・ルプランス=ランゲ(クリストフ)アナイス・ドゥムースティエ(フロ)アドリアン・ジョリヴェ(ジル)ロバンソン・ステヴナン(刑事)カロル・ロシェ(クリストフの母)ジュリー=マリー・パルマンティエ(アグネス(クリストフの隣人))ピエール・ニネ(バーテンダー)ヤン・ルバティエール(ジュール)ジャン=バティスト・フォンク(マルタン)エミリー・ピポニエ(マリーズ(ジルの妻))ラファエル・イドロ(ジャノ(フロの夫))アントニー・デカディ(ガブリエル(クリストフの仲間))フレデリック・ボナル(マルティーヌ(ヘルパー先の娘))

 

【解説】

フランス・マルセイユの港町を舞台に、人に対する思いやりや助け合いの精神の重要さを描いたドラマ。フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーの長編詩をモチーフに、思わぬ犯罪に巻き込まれた熟年夫婦が失意や怒りを感じながらも、ある決断を下すまでを描く。監督は、『マルセイユの恋』のロベール・ゲディギャン。キャストにはアリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイランらゲディギャン監督作『幼なじみ』のキャストが再集結。世界的な不況が叫ばれる昨今、人間の持つ優しさや慈しみの大切さが胸にしみる。

 

【あらすじ】

結婚30周年を迎えた熟年夫婦ミシェル(ジャン=ピエール・ダルッサン)とマリ=クレール(アリアンヌ・アスカリッド)は、キリマンジャロへの記念旅行を前に強盗に押し入られてしまう。その犯人はミシェルと一緒に職場をリストラされた青年で、労働組合委員長として仲間と連帯してきたと信じてきたミシェルはショックを受ける。しかし、犯人が幼い弟2人を養い、借金と生活が困窮していた状況下でのやむを得ない犯行だったことが判明し……(シネマトゥデイ)

 

【感想】

私のような熟年世代には、いろいろ感じるところの多い映画でした。

中年の夫婦とその周りの人々との交流の物語かと思っていたら、なかなか内容は深かったです。

 

長年会社の労働組合の委員長を務めてきたミシェル(ジャン=ピエール・ダルッサン)。

長引く不況への対策として、会社と労働組合の協議の結果、20人のリストラ策を労使交渉で決めた。

リストラ対象者はクジ引きで決めた。

自分もクジの中に入れたため、リストラに当たってしまった。

幼なじみで、妻の妹ドゥニーズ(マリリン・カント)の夫でもある同僚のラウル(ジェラール・メイラン)は、そのバカ正直さを嘆く。

「会社が潰れて、全員が解雇になるよりいいんだよ」とミシェルはつぶやいた。

 

妻のマリ=クレール(アリアンヌ・アスカリッド)は表向きは穏やかに受け入れた。

子供たちは、不況の深刻さから再就職は難しいだろうとため息をつく。

ミシェルは3人の孫の面倒をみながら、長男のジルの家にあずまやを建て始めたが、虚しさは募る。

マリ=クレールからも苦情が出るようになった。

 

そんなときに、会社の元同僚たちがミシェル夫婦の30周年記念のパーティを開いてくれた。

子供たちや同僚たちのカンパで、お祝いのアフリカ旅行がプレゼントされた。

幸せなひとときー。

 

ミシェルの家で、ラウル夫婦が来てトランプゲームをやっている。

親しい間柄なのでついつい愚痴ばかり。

 

☆ネタバレ

こういう、熟年夫婦の倦怠やリストラの哀愁を描いたまったりした作品かと、油断していました。

次の瞬間、突然、空気が変わります。

 

何が起こったのか、映画の人物たちと同じく、観客も不意をつかれました。

強盗が部屋になだれ込んだのです。

まず、マリ=クレールが突き飛ばされました。

犯人たちは銃を持っている。

ラウルとドゥニーズが椅子に縛り付けられた。

ミシェルも椅子に縛られ転がされた。

苦痛に顔を歪めるマリ=クレールも椅子に!!

 

「カネと航空券を出せ」

犯人は、カネと航空券を奪い、キャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出して、ひとりが金を下ろしにいった。

もうひとりは、見張りに残り、ラウルが長年借りていて、パーティでミシェルに返した漫画雑誌を読んでいた。

そして、共犯者から電話がかかってくると、雑誌を持ったまま家を出て行った。

 

雑誌を持って行った方の犯人は、ミシェルがクジで引き当てたリストラされた労働者のひとりの若者だった。

彼の名はクリストフ(グレゴワール・ルプランス=ランゲ)。

まだ幼い父の違う弟二人の面倒を見ていた。

母は、たまに帰るが一緒には住めないという。

兄弟の父親は蒸発していた。

 

ミシェルたちの生活も一変してしまう。

ドゥーニーズは恐怖の一夜から、パニックが止まらない。

ミシェルは、肩を強打して怪我をしていたが、事件の後始末に奔走していた。

バスの中で、古い雑誌を読んでいる兄弟の男の子を見つけた。

確認させてもらうと、自分の雑誌だった。

あとを付けると、犯人のひとりがクリストフだということがわかり、警察に通報。

クリストフは逮捕された。

 

刑事がミシェルとクリストフを会わせた。

クリストフは悪びれず、ミシェルは解雇されても、裏取引で得た報酬をもらってぬくぬくしていると侮辱した。

ミシェルは思わずクリストフを殴ってしまった。

 

ここから、この夫婦のすごいところです。

お互いに内緒でクリストフの残された弟たちのことを親身に考えます。

夫婦の阿吽の呼吸、奇跡みたいに、夫婦の思いが違うアプローチで一致していくところが、この作品の見所。

 

このお話は、ヴィクトル・ユーゴーの長詩からインスパイアして作られたということですが、「罪を憎んで人を憎まず」がテーマでしょうか?

夫婦は、この兄弟を引き取ることを決心しました。

 

ともすれば、きれいごとに流れてしまいがちなテーマですが、この夫婦の生きてきた道を考えれば、そういう批判はできない気がします。

たくさんの人の血と汗と闘いの後に今ある労働者の権利。

それを、まるで当たり前のように享受している若者たち。

でも、物わかりがよくなった労働組合の妥協した今回のリストラ案が、この犯罪を引き起こしたのだとしたら…。

さらに、社会から置き去りにされた幼い兄弟には罪がない。

 

もちろん、ミッシェル夫婦は被害者で、犯罪の責任を取る必要は全くないわけです。

 

でも、彼らの決断を、子供たちは大反対したのに、同じ被害者であるラウルとドゥニーズ夫婦は共感を示したのです。

そこが、いいお話だなあと、私は感動しました。

 

ミシェル夫婦のような真似は、私にはとてもできないけど、現代にもジャン・バルジャンの心情は生きている、良心はあるのだと考えさせられました。