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●科学技術ニュース●東京大学と北海道大学、多彩なスピン構造の間のトポロジカル数スイッチングに成功し外部磁場による多値メモリ動作へ道

2024-04-05 09:32:15 |    電気・電子工学
 東京大学大学院工学系研究科の吉持遥人 大学院生、高木里奈 助教(研究当時)、関真一郎 准教授らの研究グループは、同大学物性研究所の中島多朗 准教授、北海道大学大学院理学研究院の速水賢 准教授らとの共同研究を通じて、GdRu2Ge2という希土類合金において、外部磁場の大きさを変化させることで、「楕円形スキルミオン」や「メロン-アンチメロン分子」「円形スキルミオン」といった多彩なスピン構造を観測することに成功した。

 磁性体で見られる電子スピンの渦構造である磁気スキルミオンは、トポロジーに保護された安定な粒子として振る舞うことから、次世代の情報担体の候補として注目を集めている。

 スキルミオンは従来、対称性の低い結晶構造を有する物質のみで発現すると考えられてきた。

 しかしながら、近年では新しい形成機構によって、対称性の高い物質において直径数ナノメートル(nm、1 nmは10億分の1メートル)の極小サイズのスキルミオンが報告されている。

 そこで同研究では、希土類合金GdRu2Ge2を対象として研究を行った結果、同物質では直径2.7ナノメートルの極小サイズのスキルミオンが実現しており、さらに外部磁場の大きさに応じて複数の多彩なスピン構造が発現することを明らかにした。

 同成果は、極小サイズのスキルミオンにまつわる新しい物質設計指針を与える結果であることに加え、同物質で見られるスキルミオンとメロン-アンチメロン分子は異なるトポロジカル数によって特徴付けられることから、外部磁場による多値メモリ動作といった新たな応用展開につながる可能性を秘めている。

 同研究は、遍歴電子が媒介する相互作用の一種のフラストレーションの機構に基づく、極小サイズの多彩なトポロジカルスピン構造を実現するための新しい物質設計指針を確立するものであると言える。

 同物質で実証した、外部磁場による異なるトポロジカル数によって特徴付けられるスピン構造の切り替え、すなわち多彩なトポロジカルスピン構造間のスイッチングは、多値メモリ素子などの新しい応用可能性を秘めている。

 つまり、外部磁場によってこれらのスピン構造を選択的に制御し、それぞれに例えば“0”、“1”、“2”、“3”を対応させれば、多ビットを表現することができるため、スキルミオンを情報媒体とする多値メモリ素子への活用が期待できる。

 また、同研究で明らかにした物質設計指針をもとに、今後さらなる物質探索が進むことで、超高密度・超低消費電力な次世代素子への応用に貢献することが期待される。<理化学研究所(理研)>
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