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続、この国の風景その3

2011年12月07日 | Weblog
決められないシンドローム

 代表格をTPP(環太平洋経済協定)として、財政再建に絡む消費税を含む増税案や年金問題。政府与党内で賛成反対が真っ向対立。野党自民党内もどちらに付くべきか右往左往する議員でまとまっていない。国政選挙における一票の格差是正問題や中選挙区制に戻そうという意見についてもそうだ。民主主義の世の中、個人の信念は、たとえ自分が所属する組織の意向に反しても主張していいと思うけれど、あまりにまとまりがない。調整能力のある人物不在である。

 「離党だ」「新党だ」、という暗示による恫喝も流行りで、結局何も決め切らない。勿論決める前に十分な議論が必要なことは言うまでもないが、意思決定が遅いということは、時代の潮流からどんどん離されて組織は衰退するのが通常である。

 兎に角反対のための反対は止めなくてはならない。農業保護といって最終的に戸別補償増額で決着させては、わが国の農業はさらに改革の機会を失うであろう。これまでも農業保護には相当のお金をつぎ込んで来た筈だけれど、一体誰が潤ったのか。結果として農業従事者の高齢化は進み、耕作放棄地が増えただけで、国としての投資/効果は大きなマイナスと思う。歴代政権党の選挙対策だけが優先するビジョンなき政策であると言わざるを得ない。

 農業や漁業の振興には、農地の流動化を促すなど、先祖代々の土地保有や漁業権ではなく、これからは誰でも農漁業の好きな人が農漁業を出来るようにすること。農業も漁業も企業化を進めること。ここでも自由化が求められる。

 年金問題なども既得権者優先の趣がある。我々団塊世代が働き手であり、年金の強制的投資者とされた時代の制度からの脱皮が遅すぎた。現在、団塊の世代を逃げ切り世代として世代間不平等を強調する報道がされているが、それは間違い*3)。われわれ世代から支払いの保険料率はどんどん引き上げられ、ボーナスからも天引きされるようになっていた。受給年齢は引き上げられ受給額も下げられている筈だ。団塊世代と先輩世代との世代間格差なら現存する。

 厚生年金は未だ相当額の積立金*4)がある。このまま行けば近い将来にこれがなくなるということで、さらなる受給年齢の引き上げなどが検討されるだけだ。企業の定年制を廃止や引き上げすることが出来れば、受給年齢の引き上げは可能である。減額するなら支払額の割に多く受給している世代の減額幅を多くし、将来に亘って納入額比例の受給額均一化を図るべきだ。後からの世代にだけへの減額や、現役世代へのさらなる保険料率を上げる*5)ことがあってはならない。そう考えれば改革はそんなに難しいことではなかろうが、減額される世代の反発を怖れ、選挙を恐れるわが身優先の議員集団が抵抗勢力となり、決められない。

 消費税など、元々自民党は10%と言っており、与野党抗争より現与党の党内抗争が激しい。増税反対派は景気への悪影響と歳出削減を優先すべしと強調する。所得税など直接税の増税では、一層正直者が馬鹿をみることになる税制運用上の問題もある。所得の申告漏れなどは摘発されるのは氷山の一角に過ぎないのではないか。「上に政策あれば、下に対策あり」は中国だけではないのだ。

 歳出削減には徹底的な公務員改革が求められるが、公労協の支援を受ける現政権では無理。また急激に増え続ける生活保護給付など、弱者保護との反対し難い正義が乱用されると国は滅ぶ。公務員改革や福祉政策の適正化は喫緊の課題である。

 国の貸借対照表を持ち出して、日本の財政は大丈夫。財務省の計略に乗ってはいけないとする増税反対論には、論点が現在時点に留まっており、歳入40兆円で歳出90兆円が続くことが、あと何年許容できるのかが語られない。議論に時系列を無視した詭弁が見られる。徹底した歳出削減に加えて歳入増加策*6)が必要な財政状況であることは間違いないと思える。

 結構単純な問題も中途半端に賢い連中が議論すると、自分の知識をひけらかして話を難しくし、本質を外す。裸の王様を指摘した子供のように、一度まとった観念論を解いて、謙虚に議論すべき。協議の末、参加する組織が決めたことは、不満があっても従うことは必要。イエス時代のサンヘドリンの規定にあるという「全員一致の審決は無効」*7)の意味を噛みしめたい師走日本の風景である。






*3)団塊世代の先頭集団である昭和22年生は、64歳からが満額支給。その厚生年金額は月額税込総額22.6万円程度(妻帯者加算を含む、報酬比例部分は上限額と思われる)。これから所得税5000円余り(確定申告で還付される見込み)、市町村民税や国民健康保険料、当然固定資産税なども徴収されるため、現役時代の貯えが相当額あるか別途収入がないと苦しい。もっとも国の年金制度は、現役時代の貯えを前提にそれを補填する性格のもののようだ。
*4)約144兆円(2010年)
*5)半額を支給する企業側の負担も増え、さらに企業の国際競争力を低下させる懸念がある。
*6)景気向上策、免税されているところ(宗教法人や特殊法人など)への新規課税、市街化調整区域の耕作放棄地などへの課税強化、脱税し難い仕組みの構築など。
*7)「日本人とユダヤ人」イザヤ・ベンダサン(山本七平)著、山本書店1970年刊による。新約聖書の記述では、「イエスへの死刑の判決は全員一致だったと記されているから当然無効である」。当時のキリスト教徒はほとんどユダヤ人であり、彼らはイエスの処刑は違法であると言いたかったのだ。
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