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石油化学工業第7回

2013年02月19日 | Weblog
続、チーグラー触媒

 『チーグラー法とは、アルキルアルミニウムと四塩化チタンを触媒としてポリエチレンをつくる方法で、これはチーグラー博士が1929年(昭和4年)にハイデルベルク大学で始めた有機リチウム化合物の研究に端を発している。博士はその後も有機金属化合物の研究をつづけ、1949年(昭和24年)、アルキルアルミニウムが約100℃でエチレンを付加してしだいに炭素鎖を形成し、高級アルキルアルミニウムを生成することを発見、さらに1952年(昭和27年)には、周期律表の4・5・6A族の遷移金属化合物*10)とアルキルアルミニウムの組み合わせで、常圧でポリエチレンが生成することを発見し、この結果を全世界に特許出願したものである』。

 私がポリエチレン触媒の研究室に転属になったのは、昭和46年の6月であり、チーグラー触媒の研究(工業化、改良)を開始してすでに15年が経っており、初期の苦労については全く知らない。社史によれば、もともと「チーグラー特許を購入したのは三井化学であり、三井石油化学工業は設立後間がなく、研究者も設備もなかったため、三井化学の技術陣がこれにあたり、パイロットプラント実験を経てチーグラー法ポリエチレンの工業化ノウハウを確立したとある。このノウハウを三井石油化学工業が三井化学より3億円で購入して工場建設に間に合わせ、昭和33年4月から三井化学を通じて販売を開始していた」とある。

 チーグラー触媒はアルキルアルミニウムと四塩化チタンの組み合わせというけれど、両者を反応させれば四塩化チタンは還元されて三塩化チタンとなる。前もってこの三塩化チタンを合成しておき、重合時にはそれを使用する方が、生成するポリエチレンパウダーの嵩比重が高く(低いと大きな反応器を必要とする)、処理のハンドリングも良いなどということであったのであろう、初期の段階から三塩化チタンが使われていたようだ。

 ポリエチレンに限らないが、高分子化合物は一部の例外を除き、個々の分子の分子量が異なった混合物で、分子量はその平均値である。平均分子量の目安として、簡易的にポリマーのMFR(メルトフローレシオ)*11)を測定して相対的に表すが、工業化にあたれば、これを現場でコントロールする必要がある。兎に角初期段階では、触媒の構造変化でMFRをコントロールしようとしたらしい。これは徒労に過ぎた。反応器内に水素を添加してその分圧でMFRが制御できたのである。このことを米国か何かの特許で知り、ロイヤリティーを払う羽目にもなったらしい。

 個々の分子の分子量が異なるということは、同時に合成したポリエチレンもその合成条件によっては分子量の分布状態が異なるということである。仮に平均分子量が同じでも分子量分布の違いによって、物性が異なり、成形性に差を生じるため、この分子量分布の制御も触媒の構造の違いで試みた。こちらは、私が転属になった研究室の成果として、三塩化チタンを得る際に使用するアルキルアルミニウムの違いによって、また、重合時鼻薬を添加することによって制御を成功させていた。

 しかし、工業化は成功していたものの、一定のポリエチレンを得るためには相当量の触媒が必要で、相変わらず出来上がったポリマーはコーヒー色(触媒単位当たりのポリエチレン生成量が少ない=触媒活性が低い)で、ポリマー中から触媒を抜く脱灰という工程が必須であった。






*10)主にTi(チタン)、Zr(ジルコニウム)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)を指すものと思われる。TiとVがチーグラー触媒として実用化され、Crはフィリップス触媒、Moはスタンダード触媒としてそれぞれポリエチレンを生成する(但しこれらの触媒は、30気圧程度の圧力下で重合を行うため中圧法と呼ばれる)。
*11) 測定器で融解させたポリマーに一定の荷重を掛け一定の径のノズルから一定時間に落下する量の違いを測定する。

本文中『 』は、「三井石油化学工業30年史」から直接の引用です。

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