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石油化学工業第8回

2013年02月22日 | Weblog
連続重合と無脱灰プロセス

 ポエチレン工業化の初期は、実験室と同じバッチ重合(回分式)であり、重合終了後は都度手作業で内部に生成したポリマーを採りだし、重合器内部を洗浄して次の重合に備えた。人手は掛り環境負荷も大きく、これを連続化する検討が触媒改良と並行して鋭意進められた。そのプラントは連続装置ということで、Continues ProcessでCPプラントと名付けられたが、開発段階では社内でCrazy Process(クレージープロセス)と呼ばれていた。触媒やモノマーを連続フィードし、ポリマーパウダーのスラリーを連続的に抜き出し、次の脱灰工程に送る。今からみればそれだけのことだけど、何でも初めては大変で、周囲からは「できるわけない」と思われていたほど、完成までには格段の苦労があったようだ。

 研究室での触媒改良の大きなターゲットは触媒の高活性化で、これによって脱灰工程をなくす、すなわち無脱灰プロセスにすることであった。そのヒントは酸化エチレンの銀触媒同様に担体を用いることにある。個体の三塩化チタン触媒は有効に働くチタンが限られているため、チタン単位当たりのポリエチレン生成量が少ない。担体表面にチタンを分散することで、チタン単位当たりの効率を飛躍的に上げることが出来ると考えたのである。

 この担体の探索とその合成条件の研究によって無脱灰を可能にする高性能触媒が生まれた。しかし担体上のチタン担持量があまりに少なかったため、スラリー重合で得られるポリエチレンパウダーの嵩比重が低く、反応器の効率が悪いだけでなく、スラリーの流動性が連続運転できないほど悪かった。

 対策として、ポリエチレンの溶融重合があった。反応器の温度をポリエチレンが溶融する温度まで高温にすれば、スラリー重合のようにパウダーの嵩比重を問題にする必要もなく、活性的にも有利である。私が研究室に転属になった(昭和46年6月)時期すでにこのプロセスは完成しており、このノウハウを基に、米国の有力企業と合弁で米国に会社を設立していた。

 当時の研究課題は、担体付きの高活性触媒で生成するポリエチレンの分子量分布を大きくできる触媒の開発。新たな担体やその組み合わせを変える探索研究を中心に検討が行われていたのである。

 結局、重合器を多段にするなどプロセス面からの対策で分子量分布を制御できる見通しが立って、触媒改良からのアプローチは中断された。そんな中、米国有力企業との共同事業は、米国の独占禁止法に抵触するとか何とかで事業は継続できないことになった。技術が流出しただけの大きな損失を被り、担当役員は降格され、間もなく退任に追い込まれたようだ。現代、かの国との間には珍しくない出来事であろうが、結果として1970年代の米国でも後から自国の法律を盾に契約を反故にするようなことが行われていたことになる。もっとも当時の真相は知る由もない。

 溶融重合の分子量分布の制御に目途が立って、我々のターゲットはスラリー重合の無脱灰化を達成する触媒の開発に向かった。触媒活性を飛躍的に向上させることと、生成パウダーの嵩比重をこれも実用レベルに向上させる必要があった。手掛かりは溶融重合に使用する担体付き触媒であり、この改良に挑んでいた。




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