時間をまきもどせ!

「時間をまきもどせ!」(ナンシー・エチメンディ 徳間書店 2008)

訳は吉上恭太。
絵は杉田比呂美。

この本は児童書。
中学生の〈ぼく〉、ギブ・フィニーの1人称。
ある日、ギブは森で 不思議な老人に出会う。
老人は、「きみにあるものを渡しにきた」と、ギブに電卓のようなものを手渡す。
それは〈パワー・オブ・アン〉という、時間をもどし、やり直すことができる機械。
ところが、帰り道、転んだ拍子にギブは〈パワー・オブ・アン〉を失くしてしまう。
その後、妹のロキシーと親友のアッシュとでかけた移動遊園地で、思いもかけなかった惨事が。
時間をもどそうと、ギブは森へ〈パワー・オブ・アン〉をさがしにいく。

というわけで、本書はタイム・ファンタジー。
何百年も時間をうごいたりするわけではなく、おなじことを何度もくり返す「くり返し型」だ。

「くり返し型」は、事前にいろいろ説明しなければならない。
そのため、面白くなるまで手間がかかる。
まず、ギブとアッシュが移動遊園地にいっているあいだ、家でロキシーのお守りをしてくれるはずだった、同級生のレイニーとのいさかいについて触れなくてはいけない。
それから、不思議なおじいさんから機械を手渡されなくてはいけないし、6歳のロキシーが大のイヌ好きであることも説明しなければいけない。
問題の惨事が起きるまで、半分近くかかる。

後半の展開はスリリング。
ただ、スリリングにしようとしすぎているきらいがある。
登場人物のだれもが、ギブのすることのジャマをして、話を盛り上げるのだけれど、ジャマをするために登場人物の性格が不安定になってしまっているように感じる。

と、いささか辛めの評価をしたけれど、よくまとまっているし、ラストもみごと。
作者は本書と“Bigger Than Death”でブラム・ストーカー賞児童部門を受賞したそう。
賞をもらっているくらいの作品だから、こちらが細かいことを気にしすぎているだけかも。
それにしても、ブラム・ストーカー賞に児童部門があるなんて知らなかった。
ブラム・ストーカーが聞いたらびっくりするんじゃないだろうか。

あと、この本はさし絵のつかいかたが面白かった。
くり返しが起きる部分で、最初につかわれたものと同じさし絵がつかわれているのだ。
タイム・ファンタジーものの映像作品ではよくある手法だけれど、さし絵でおなじことをやっているものははじめてみた。
これは編集者の手柄かもしれない。

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