マミナ先生の家に寄ると、シバイサー博士に新しい発明品ができたという情報を得た。なんでも、前回、マミナのためにと作った『白馬のおじぃ様』で、マミナの機嫌を損ねたことから、その汚名返上、名誉挽回と新たな発明品を作ったとのこと。
「どんな発明品かって訊いた?」
「若返ることのできる機械だって。」
「マミナは若返りたいの?」
「そういうわけでも無いけどね。前のに比べたら、少なくとも女の自尊心は傷つかないさあ。肉体が若返れば元気になるし、役には立つさあ。」
ということで、そこからそのまま博士の研究所へ向かった。
いつものようにゴリコとガジポが出迎えてくれる。
「博士なら研究室にいるよ。」と言うので、一人と一匹の遊び相手は後回しにして、中へ入り、真っ直ぐ研究室兼作業室へ。そのドアは開いていた。博士は起きていた。作業台の前に座って、そして、いつものように酒を飲んでいた。
「こんにちは、博士。」と声をかけながら中へ入る。
「やー、来たか。」と、博士はゆったりと顔を上げ、軽く笑みを浮かべる。私が来るのを待っていたみたいで、作業台の上には発明品らしきものが置かれてある。発明品は変な形をしている。変というよりも、はっきり言えば、卑猥な形をしている。腰から下の女性の下半身の形。股を少し開いて、膝を立てている形。
「新しい発明品って、これですか?」
「その通り。」と博士は満足気に肯く。
「女性の下半身のように見えますが?」
「そう、その通り。この付け根から伸びている2本が脚で、今は閉じているが、それを広げると真ん中の割れ目が開く。が、けして、卑猥なものでは無い。」
「広げると割れ目が開くって、卑猥そのものじゃないですか?」
「そうじゃない。子宮をイメージしたものだから、形がこうなっただけだ。けして、男の欲望を満たす目的のものでは無い。」
「そうですか。若返る機械って聞いてますが?」
「その通り。若返るということはつまり、母のお腹の中に戻るということだな、イメージとしては。というわけで、こういう形になったのだ。」
「機能としては、こういう形じゃなくても良いわけですね?」
「まあ、そう言われるとそうなんだが・・・。」と、博士は語尾を濁す。そこで、私の頭の中の電球にパッと灯がともった。名前に関係しているのだ。いつもの駄洒落だ。
「名前は何て言うんですか?」と訊いた。案の定、博士の顔に笑みが浮かぶ。よくぞ訊いてくれましたって顔になる。
「太股の形をして、全体が箱になっているから太い股の箱と書いて・・・、」と、博士はここで酒を一口。駄洒落を自慢したくて勿体振る。
「太股箱、ふとももばこですか?」と、駄洒落にはなっていないと思いつつ訊く。
「違う、読み方が違う。たまたばこと読む。」
「えっ、何で・・・」と口から出かかって、止めた。その意味が判ったからだ。
「あー、なるほど。」と、私が大きく肯くと、博士は満面に笑みとなった。
「そうだ。かの有名な、浦島太郎の玉手箱は人を老いらすが、このたまた箱は逆に、人を若返らす。母のお腹の中から出る煙を浴びれば、若返るということだ。」
「そうですか、それはすごいですね。実際に細胞が若返るのであれば、その卑猥な形はともかく、大いに役に立ちそうですね。」
「ん?細胞が若返るなんて言ってないぞ。」
「若返るっていうのはそういうことじゃないんですか?」
「細胞はなんも変わらない。気分的に若返るだけだ。この箱から出てくる煙は、超微細なファンデーションの粉だ。これを浴びると、顔の皮膚に貼り付いて、皺やシミを目立たなくさせる。見た目にちょっと若返る。で、気分が若返る。」
ということであった。役に立つのかどうか判らなかったが、マミナのための発明品ということであり、ユクレー屋でマミナも待っているので、持って行く。
「そうなんだ、つまり、ただの化粧品を大袈裟にしただけのものね。」と、マミナでは無く、ユイ姉が評価する。マミナも肯く。ケダもウフオバーも肯く。
「でもさ、マミナ。気分が若返るのは大事さあ。気分が若返ると体にも力が湧いてくるさあ。化粧する必要は無いけどね。化粧なんかよりもね、もっとずっと効果的なものがあるさあ。わかるねぇ。歳だからって、諦めることはないよー。」とウフオバー。何のことだか、私にはすぐに解らなかったが、ユイ姉の目が光り、マミナの目が光った。
このオバサンとこの婆さんは、心の中にたっぷりの愛情を持っている。愛があるから恋は始まる。なので、この先、二人に何かあってもおかしくはない。
なお、博士の発明『たまた箱』は、その卑猥な形がユクレー屋の品格を傷付けるということで、その日のうちに博士の元へ返された。ケダがひとっ飛びした。
記:ゑんちゅ小僧 2009.2.13