先々週、銀行が求める債務相続手続き書類の全てを提出し終え、これで面倒事の大方が片付いたと思い、「はーれたそらー、そーよぐかぜー」と鼻歌も出て、私はすっきり爽やかな気分に浸っていた。そして、先週火曜日に、銀行から電話があった。
「明日、債務相続手続きの最終処理をしたいのですが?」
「そうですか、とうとう終わりますか。でも、明日は仕事なので、木曜日にします。」
「すみません、木曜日は私の都合が悪いのですが?」
「なら、金曜日にしましょう。午前中、10時に伺います。」
なんて話になって、木曜日、再び銀行からの電話。
「すみません、債務相続手続きの最終処理は明日の予定でしたが、書類の一部に不備があるようなので、明日はできそうもないです。」
「不備って?」
「すみません、それがまだはっきりしないので、明日また連絡します。」
とのことで、翌日金曜日の夕方、三度(みたび)の電話。
「すみません、登記移転手続きに足りないものがありました。抵当権の相続も必要でした。その手続きをやってもらわなければなりません。」
「法務局へ行っての手続きってことですか?」
「そういうことになります。」
そういうことになりますってオメェ、登記移転手続きは面倒だったんだぞ、それをもう一回やれって言うのか!と怒鳴りたくなったが、口にはしない。何度も 「すみません」と言う銀行の若者も本当に悪いと思っているみたいなのである。それでも少し嫌味、
「あー、一遍に気分が重くなってきたなぁ。」
「すみません、これから説明に伺います。」
「いいよ、ここは泊じゃなく石嶺です。私が月曜日にそっちへ行きます。」
と、ここまでが先週の話。
で、今週月曜日、銀行へ行く。約束の時間より少し早めに着いたので店内のソファーに座って待っていると、奥から、いつもの若者の上司が出てきて、「おはようございます。さー、どうぞこちらへ」と丁寧に奥の部屋に案内してくれた。今回は、その上司といつもの若者の二人で応対し、説明してくれた。おまけに、お茶も出た。さらに、帰る時は二人して出口まで御見送りもしてくれた。「いいよ、俺みたいな貧乏人にそんな丁寧な扱いをしなくても」と思いつつも、何だか金持ちになった気分、良い気分。
ただ、良い気分になったのはその時だけで、銀行を出ると、「あーまた、法務局通いが始まるのか」と気分が下がる。しかし、それもまた、ほんの一時だけで、「なーに、どんな面倒だってやってやろうじゃないか」とすぐに持ち直す。
じつは、前日の日曜日に、美女Sさんを飲みに誘った。快くOKを貰った。「二人っきりで」というわけにはいかなかったが、それはそれはもう、私は限りなく気分が上昇していたのである。なので、法務局通いの面倒も「やってやろうじゃないか」だった。
日曜日の上機嫌の「上」は万丈(3万メートル)ほどの高さがあり、月曜日の下がり気分の「下」は、せいぜい一丈程度だ。今の私は「上」が一万倍も上回っている。
記:2010.11.5 島乃ガジ丸