最後に好きな物を好きなだけ食っていいという最後の晩餐を想像した。んがっ、「あんた明日死ぬから、これが最後の飯だ」という状況に私が置かれるという理由が思いつかない。もしも、重い病気で医者からそう宣告されたとしたら、重い病気なので好きなように食事はできないだろうし、体も食事を受けつかないであろう。
ならば、と一つ思いついた。私は死刑囚で明日が刑の執行日であるという場合。私が死刑囚になる・・・「それは無い」とは言えない。日本が7、80年前の社会情勢みたいになって戦争へ突き進む中、反戦運動をして捕まって、で、死刑になるという可能性は0パーセントでは無い。八重山の教科書問題を思うと、戦争を起こした当時の日本を肯定するような組織が平和大好きの沖縄にまで影響を及ぼすようになっているみたいだし。
話がちょっと逸れた。まあ、とにかく体が「快食できる」というほどに元気な状態であり、そして「これが最後の飯」を考えた場合、私は何を選ぶだろうか?
和牛の高級霜降りステーキ、高級フランス料理のフルコース、高級料亭の日本料理なども魅力があるだろうが、おそらく、「得することが死ぬほど好きだ」とのたまう友人のK子やE子ならば、できるだけ高価なものを選択するであろうが、私は違う。
私なら普段食べ慣れていないものよりは、日常口にしていて「こりゃあ美味ぇや」と思っているものを選ぶ。「こりゃあ美味ぇや」と思っているものはたくさんあるが、その中から一回の食事分を選ぶなら、先ずは玄米のごはん、味噌汁、漬物が基本だ。パンとかコンソメスープとか、ドレッシングのかかった生野菜のサラダなんてのは選ばない。
味噌汁に注文をつけていいなら、豚汁にしたい。豚バラ肉とゴボウ、ダイコンなど具だくさんの味噌汁、これは沖縄の味だと思う。母の味でもある。漬物に注文をつけていいなら、糠漬けにしたい。糠漬けなら何でもいいが、いつも食べ慣れているキャベツ、ハクサイ、キュウリ、ナスなどが良い。ニンジンやカブも好きである。
さて、玄米のご飯、豚汁、糠漬けの基本が揃って、もう一品おかずを選ぶなら、ゴーヤーチャンプルー、ナーベーラーウブシー、ラフテーなどの沖縄料理を差し置いて、アジの開き、目刺などの普段食べ慣れているものを棚に上げて、・・・なんてあれこれ考えずとも私の答えは決まっている。生サバの七輪の炭火による塩焼き。
最後の飯に酒を好きなだけ飲んでも良いとなればこれ以上の幸福は無い。酒は何にするかというと、まあ、いろいろ飲みたいのだが、1種だけ選べと言われたら、沖縄の銘酒泡盛を差し置いて、ワインも何十万円の代物であったとしても棚に上げて、日本酒を私は選びたい。できれば純米大吟醸にしたい。それをせめて四合は頂きたい。
サバは、沖縄近海では獲れないようだが、生の、刺身で食っても美味いという奴の、その真ん中あたりの太い個所を切り身にして七輪で焼き、腹側の脂の多い個所はご飯のおかずにして、背側の比較的淡白な部分は酒の肴にする。
先ずは、酒を一口飲んで、「あー美味ぇ、生きてて良かった」と神に感謝し、サバの背側を一口頬張って「あー美味ぇ、元気で良かった」と幸せに浸る。
最後はそんな美味い物を食ってから死にたい。「食い物は美味けりゃいいんだ、高価である必要は無い」と、粗食を始めてから数年を経てつくづく思うのである。
記:2012.2.17 島乃ガジ丸