プロローグ
いつも楽しい夢を見ている私が、今年(2016年)の3月はしばしば楽しくない夢を見て夜中目を覚ますことがあった。そんな夢、いくつもあるが2つ例を挙げると、
夜、繁華街を歩いていると、爺様がチンピラに殴られていた。爺様は仰向けになって倒れ、それに馬乗りになったチンピラが爺様を殴っている。それを見た私は走って近寄りチンピラの顔を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたチンピラは傍に倒れピクリとも動かない。私は爺様を近くの店へ運んで手当てを頼んでその場を去る。しかしその後、チンピラが起き上がって私を追いかけてきた。彼は手にナイフを握り「殺す!」と叫びながら私に向かってくる。私は逃げた。追われる夢、殺されるかもしれない夢、その恐怖で目が覚めた。
もう1つは、高校の同級生が何人も出てくる夢。同級生のA男が化け物になっていて、隣の家にいる。「あんた、彼に狙われているから逃げた方がいい」とE子やH男にうながされ、私はそっと家を出るのだが、A男に見つかる。彼は大きなカニの姿に変身して、仮面ライダーに出てくるショッカーみたいな数人の子分に私を襲わせる。私は戦う。子分を何人も倒した後、ついにカニと対峙する。カニのハサミは大きく鋭い。大きいくせに動きは速い。「勝てねぇ、俺の命もここまでか」と観念したところで目が覚めた。
4月に入ると楽しくない夢も少なくなって夢で起こされるということはほとんどなくなったが、4月後半に入ると変な夢を見るようになった。変な夢とは結婚する夢、4月後半の2週間で4回も見てしまった。結婚生活には不向きの性格である私が、結婚生活には不能の財力と金玉力の私がそんな夢を見た。潜在意識の願望なのだろうか?
結婚する夢はそれぞれ日を置いて4回だが、相手は4回とも異なっている。そして、4人とも私の知っている女では無い。結婚相手なら真っ先に静岡の才媛K女史が出てきそうなものだが、彼女では無い。あるいは、既婚者ではあるが、子供の頃から仲良しの従妹Tや、従姉の娘Mや、従姉の息子嫁Mらが、「離婚したよ」と言って私に抱きついてくることも(私の願望として)考えられるが、彼女たちの誰でも無い。そして、私の知っている美人女優とか美人歌手とかでも無い。そもそも4人とも特に美人ではない。
4人とも違う人だが、歳は概ね30歳くらい。美人ではないが大人しめの顔立ちで、上流階級では無いが精神に上品さがあり、謙虚さが顔に出ているような雰囲気。
何はともあれ、結婚する夢を2週間で4回も見たというのが私にとって特別なことなので、これはいかなる意味を持った夢なのかとしばし考えた。妄想癖のある私は考えている内に妄想に走った。妄想は膨らんで物語となった。それが以下。
1、名前?・・・無ぇよ
「魔法使い」というと聞こえがいいが、ウチナーグチ(沖縄口)でいうとマジムン、魔物という意味。墓に囲まれた家に住んでいると、そういう類の者が現れやすいようで、既に何人(匹?)かのマジムンがやってきている。面倒なので見えないふりをし、なるべく相手にしないようにしている。であったが、ある夜、台所から、
「旨ぇなぁ、この酒」と、マジムンらしからぬはっきりした声が聞こえたので、人間かと思って「誰だ?泥棒か?」と思いつつ台所を覗くと子供(小学校4、5年生くらいの男の子)が一人食卓の前に座っていた。見た目は人の子だが、雰囲気からマジムンだとすぐに判った。座って私の作った日本酒を飲んでいた。冷蔵庫から勝手に出したようだ。
「あっ、お前、俺の大事な酒を、勝手に飲みやがって!」と私は声を上げ、食卓の上の四合瓶を奪い取った。まだ飲み始めたばかりのようで、さほど減ってはいなかった。
「ケチケチするなよ。いっぱい入っているじゃねーか。」
「ケチケチだとー、この糞ガキ!人の家に勝手に入って来やがって!」
「大声出すんじゃねーよ、さあ、注いでくれ、コップが空だ。」
「注いでくれだとー!ガキのくせに酒飲みやがって。」
「ガキじゃねーよ、お前ぇよりずっと長く生きている・・・生きているというのは可笑しいかな、まあ、何というか、取りあえず存在しているよ。」
ここまで会話して、やっと私も落ち着いてきた。「そうか、やはりマジムンか」と心で思い、「しまった、相手してしまった」と少し後悔したが、もはや手遅れ。しょうが無いので自分用のぐい呑みを出して、彼の対面に座った。
「そんじょそこらにある酒じゃないんだ、俺が自分で作った大事な酒だ、もう一杯だけだぞ。足りなければ、市販の酒が別にある。それを飲め。」
「あー分かったよ。そうか、自分で作ったのか、うん、それでか、造り酒屋に似た甘い匂いが漂っていたんだ。それで俺もついフラフラと入ってしまったんだ。」
「褒めてくれてありがとう。酒の味が判るマジムンなんだな。さあ、注いでやる。」
「ほいほい、なみなみと注いでくれ。ありがたやありがたや。」
大事な酒を彼のコップに注ぎ、それから、自分のぐい呑みにも注いで、一口飲んだ後、彼の顔をマジマジと見た。全体の見た目は人間の、日本人の男の子だが、目が人間とは違う。鈍く青く光っている。見つめていると引き込まれそうな深さがある。
なるべく彼の目を見ないようにして、大事な酒は言った通り、それ一杯にして、あとは別の酒を出し、それを飲みながら会話を続けた。
「マジムンが酒を飲んで、飲んだものはどこへ行くんだ?小便もするのか?」
「小便なんてしねぇよ。飲んだものは体全体に行き渡って、その内蒸発する。」
「旨いって言っていたが、味は判るのか?」
「舌に味覚はあるから旨い不味いの感覚はある。」
「ふーん、そうなのか。あー、そんなことより先に、名前を聞かせてくれないか?」
「名前?か、そんなの必要無ぇだろう?」
「えっ、マジムン同士で呼び合ったりしないのか?」
「そいつを意識すればそいつが応じる。お前ぇ後ろ向きになってみろ。」というので、彼の言う通り椅子ごと後ろ向きになってみた。すると、すぐに彼に呼ばれた・・・気がした。名前を呼ぶのが耳に聞こえたわけでは無く、「おい」とか「ちょっと」とかいった呼びかけでも無く、私の存在そのものに声を掛けられたような感じ。
「なるほど、そういうことか。でも、俺みたいな人間からすると名前はあった方が便利だ。混沌の中から一つの形を作り出せる。そのもの本質を表すわけではないがな。」
「ふーん、そいうもんか。だったら、お前ぇが勝手につけたらいいさ。」
「そうか、ならそうしよう。でも、何か名前の根拠となるようなヒントが欲しいな。」
「何だそれ?」
「お前を代表する性質みたいなもんさ。例えば、見た目が牛の様であったら牛次とか、犬の様だったらケン太とかなるんだが、お前の見た目はどこにでもいそうな子供で特徴が無いから、何か得意技とか、独特な魔法が使えるとか無いのか?」
「得意技?・・・なんてものは無いな。酷い魔法や強い魔法なんてのも俺は使わないしな。俺がやっているのはたいていはイタズラ程度の、痛くも痒くもない、だけど、ちょっと笑えるかもしれない程度の魔法だ。それもたまにだがな。」
「笑える魔法か、それは面白いかも。最近ではどんなイタズラをした?」
「最近だと、そうだなぁ、・・・あっ、一週間くらい前だったかなぁ、あー、ちょうど清明の頃だったよ。女が一人墓参りに来て、このすぐ後ろの墓だ。その墓の前で「結婚相手が見つかりますように」なんて呟いていたからよー、魔法をかけてやった。」
「どんな魔法をかけたんだ?相手がすぐに見つかるような魔法か?」
「あー、そうだ。これから出合って、お前と話をするような状況になった男の中で、最初に「あい」という言葉を発した奴にお前は惚れる、っていう魔法だ。」
「ほう、それは面白いな。で、その女は結婚できそうな女か?つまり、若いか?」
「歳か、お前ぇよりはずっと若ぇよ。30くらいかなぁ。」
「それで、上手く行きそうなのか?」
「そりゃあ当然、上手くいくだろうよ。俺の魔法はなかなかのもんなんだぜ。」
「ふんふんふん、そうか、そういうイタズラをするのか。そうか、・・・ちょっと待てよ、・・・よし、決まった。お前の名前はカリー・ヒッターだ。」
「何だそれ、ハリーポッターのもじりか?」
「そうだ。けれど、ちゃんと意味はある。カリーは沖縄で「目出度い」という意味だ。それをヒットさせる奴ということになる。どうだ?」
「勝手にしろよ。」
ということで、私の大事な酒を盗み飲みしたマジムンの名前はカリー・ヒッターとなった。私も不本意ながら、マジムンの知合いができてしまった。カリーはそれ以降も時々やってきて、勝手に家に入ってきて、勝手に私の酒を飲むようになった。マジムンの知り合いが出来てしまった。それが幸か不幸なのかは今のところまだ不明。
2、魔法にかかった女
カリーが消えた後、「マジムンと知合いになってしまったなぁ、面倒なことにならないかなぁ」とくよくよ考えながら寝床に着いた。その時ふと、
「一週間くらい前に、結婚したがっている女に相手がすぐに見つかるような魔法をかけた」とカリーが言っていたのを思い出した。「一週間前」、「30女」ということから、そういえばと思い出した。一週間前のできことを。
いたずら好きの魔法使いカリーヒッターと出会う一週間前のこと。行き付けの銀行へ用があって出かけた。従姉の娘Y子が銀行員で、たまたま去年からその銀行が勤務先となっていて、投資とかいった面倒な用の時は彼女を指名して相談している。
その彼女がそういえば、この間変なことを言っていた。
「ねぇ、おじさん、私と結婚してくれない?このままだとずっと独身で、子供を産まないまま人生が終わりそうさぁ。」と。彼女はもう30になっているが、まだ独身。
Y子は美人、私から見ると「とても可愛い娘」の類に入る。彼女が赤ん坊の頃から可愛がっていて、彼女も私のことが大好きで、彼女が小学生から中学の頃までは時々デートもした。映画に連れて行ったり、食事に連れて行ったりだ。高校を卒業した後も飲みに連れて行ったりした。大学を卒業して社会人になってからは彼女も恋に忙しく、私もそれを邪魔してはいけないという配慮をし、デートに誘うことも無く、親戚の集まりなどで「たまに会う」程度であったが、それでも、親戚の中ではごく親しい間柄は続いていた。
Y子は美人なので恋人ができないということは無い。詳しくは聞いていないが、大学の頃にごく親しく(肉体関係のある)付き合う男ができ、その男と別れてからも、社会人になってからも数人の付き合う人(肉体関係まで達しない人も含め)がいたらしい。
ところが、何が悪いのか、彼女はまだ独身である。性格に欠点がある?とは思えない。美人にありがちな多少のタカビー(高飛車)はあるが、基本的に優しい。
そんな彼女からの「結婚してくれない?」発言に冗談だろうと思いつつも、恋愛にも結婚にも慣れていないオジサンはアタフタしてしまった。
「何言ってるんだ、娘のような歳の女とどの面下げて結婚できるというんだ。いくらこの歳で独身だといってもだ、俺にも世間体というものがあるんだ。」と応えると、
「だよね、私にとっておじさんは最後の最後の滑り止めなんだけどさ、滑り止めを選ぶにはまだ早いね、もう少し婚活、頑張ってみるよ。」としゃあしゃあと言う。やはり冗談であった。ということで、魔法使いカリーの魔法にかかったのはY子ではない。
その日その時のことをよーく思い出し、初めから振り返ってみる。朝、畑仕事を少々やって、畑小屋で作業着から普段着に着替えて、そこから車で銀行へ行った。銀行へ着いたのは昼前、11時頃だった。番号札を取り、待合のソファーに座りのんびりと順番が来るのを待った。畑を出る前に電話してY子に予約してあった。
2、3分も待たずにY子がやってきて、「おじさん、あそこのテーブル席で話しましょう」と言い、彼女が指差した方向にある衝立の向こうに案内された。投資の話を始める前に、上述の、オジサンがアタフタするような話となったのだが、その後すぐ、別の女子行員が我々のテーブルにコーヒーを運んできた。
「いらっしゃいませ」と言って、私に向かいニッコリとほほ笑む。可愛い娘だ、その顔はしかし、見覚えがある、つい最近どこかで会っている。
「私と同期のK子、可愛いでしょ、私と同じ歳で彼女も独身。」とY子が紹介する。
「こんにちは」と言って、彼女も気付いたのか、「あっ!」という顔になった。そこで私は思い出した、つい最近、というか、昨日、私の家で会っている。
「あい、あんた、昨日墓参りしていた人じゃないの?」
私の家の周りにはいくつもの墓があって、彼女は昨日、墓参りの後、手を汚したと言って私の家に水道を借りに来ていたのだ。私の問いに彼女はすぐ、
「はい、昨日はありがとうございました。」と答えた後、私を見て、私の顔をしばらく見つめて、そして、困惑したような表情を見せつつ、その場を去った。若い女性に見つめられるなんて何十年も無かったこと、オジサンの私も少しドギマギしたが、こんなしょぼくれたオジサンにまさかのことは起きるまいと思い直し、そのことは忘れた。
ところがだ、カリーが魔法をかけたのは私の家の近くにある墓で、「一週間前」で、かけた相手は「30女」ということだ、どれもがK子に当てはまる。そしてカリーは、
「これから出合って、お前と話をする男の中で、最初に「あい」という言葉を発した奴にお前は惚れる、っていう魔法をかけた」と言っていた。私は確かに「あい」と言った。私の「あい」は愛という意味ではなく、ちょっと驚いた時に発する「あらっ」と同じ意味の沖縄語「あい」だ、それもカリーの言う「あい」に違いないということか?
それから4日経った金曜日の夜、Y子から「おじさん、今家にいる?ちょっと寄って行きたいんだけど。このあいだ紹介したK子も一緒だけど。」と電話があった。
エピローグ
2週間で4回も結婚する夢を見たのだ、貧乏農夫の私でも惚れてくれる女がいるかもしれない。結婚不適応者の私でも「結婚して」と言ってくれる女がいるかもしれない。そんな、彼女にとっては迷惑な魔法にかかった女にこれから出会えるかもしれない。
しかし、その前に私は、女に魔法をかける魔法使いカリー・ヒッターに出会わなければならない。マジムンに出会う・・・のか?マジムンと知りあう・・・のか?マジムンと酒を飲みながら語り合う・・・のか?・・・うーん、それはちょっと嫌だなぁ、ということで、自身で長々と書いておきながら、この話は無かったことにしたいと思う。
記:2016.5.7 ガジ丸 →ガジ丸のお話目次
去年(2015年)11月、畑に1匹のネズミが落ちていた。触ってもピクリともしない、完全に息絶えている。ネズミは体長5センチほどと小さく、後で調べるとワタセジネズミという種であった。目立った外傷はない、それが畑の真ん中で死んでいる。「何で?どういうわけ?心筋梗塞でポックリ逝ったということか?」などと考え、妄想。
「お腹すいたわ、早く食べなきゃ」と獲物を捕まえて住処へ急いでいるサシバの目の前に、下方から黒い影が飛び出してきた。彼女は驚いて羽を立て急ブレーキ。黒い影は彼女の横に並んで、彼女に顔を向けた。雄のサシバだった。
「やー、お嬢さん、きれいだね、嘴が素敵だね、飛び方がカッコいいね、良かったら俺と結婚しないか?安心しな、生活の面倒はみてやるぜ。」
「何言ってんのバーカ、急に飛び出してきて結婚も糞もないわよ。顔洗って出直してきな。アタシはね、男がいないと生きていけないような弱い女じゃないのよ、アンタの世話なんか要らないよ!」と一蹴。あての外れた雄はスゴスゴと消え去った。
「あっ、しまった!バカのせいで獲物を落としてしまったわ。」と、サシバ雌は鷲掴みしていた手が開いているのに気付く。辺りを見渡したが、獲物は行方不明。
「ちくしょう、あの野郎、今度会ったら蹴っ飛ばしてやる。面倒みてやるなんて時代錯誤も甚だしいバカ野郎め、女は1人じゃ生きていけないとでも思っているのかよスットコドッコイ、ノータリン、アホ、マヌケ、あー、腹の虫が収まらないわ。」
なんてことが畑の上空で起きて、畑の真ん中にネズミ、なのかもしれない。
私の畑には畑を始めた当初からイソヒヨドリの雄が番鳥(他の鳥を追い払ったりする)として睨みを利かしているのだが、彼は今も毎日いないことはないが、最近留守がちである。その代わりなのか、最近はジョウビタキの雌をよく見る。ジョウビタキは冬鳥で、沖縄では10月~3月に見られる。その時期、去年は数日だけ姿を見せたのだが、今年はほとんど毎日いて、1ヶ月ほど前からは、私のすぐ近くまで寄るようになった。
「人懐こい性格」だとは文献に書いていないが、私が草刈などの作業をしていると、すぐ傍、50センチほどまで近付く。私が振り向くと逃げるが、それでも1mほどしか離れない。そして、私を見ている。何か言いたいことがあるのか?と思って、
「何の用だ?何か不幸なことが起きるのか?」と訊くが、彼女はクッ、クッ、クッと鳴くだけで、お告げらしきことは何も言わない。私には実は、気になることがあった。1ヶ月ほど前、久々に血圧を計ったら160を超えていたのだ。畑の健康野菜をたっぷり食べていて健康であるはずなのに、それ以降も150を超える日が続いている。
「何か不幸なことが起きるのは叔父でも叔母でも無く、俺の身ということだな?俺もそろそろ死に時なのか?心筋梗塞でポックリか?」と問うが、やはり答えない。
私の体調、血圧は高いが、快食快眠快便はずっと続いている。眩暈とか頭痛とか胸の痛みとかもない。倒れる前には何らかの予兆があるはずだ。少なくとも、何かあったとしても1~2週間後とかの近々ではあるまいと私は勝手に想像して、話を変えた。
「お前、初めてここに姿を見せてから4年目になるけど、ずっと恋人ができないじゃないか。ジョウビタキの雄は独特の色模様をしているので会いたい思っていて、お前が連れてくるのをずっと期待していたんだぞ。」と訊いた。すると、これには応えた。
「大きなお世話よ、結婚するしないは私の勝手でしょ。男がいないと生きて行けないような軟な女じゃないのよ私は。1人で生きていけるのさ。」とのこと。
ジョウビタキの雌にしても、サシバの雌にしても女1人でも十分幸せに生きていけることを証明(?私の妄想だが)している。私の周りの適齢期を過ぎた独身女性たちを見渡すと、楽しくなさそうな人もいるが、静岡の才媛K女史やアラサーのA嬢はいつ会っても表情が優しい。1人をそれなりに楽しんでいることが、その表情から見てとれる。
ちなみに、ジョウビタキの雌が私の傍にいるのは、私にお告げがあるというわけではないようだ。私が手を動かすと土の中、草の中からコオロギが飛び出してくる。彼女はそれを狙っていて、私の傍に近寄ってコオロギを口に咥えると、すぐに1メートルほど離れた所へ行きコオロギを飲み込む、それを繰り返しているのであった。
「あんたは、私の獲物とりを手伝ってくれているだけさ、有難いとは思っているけど、お告げなんか何もないよ」と彼女は思っているかもしれない。
「男勝り」という言葉を最近聞かない、いつから聞いていないのか覚えていないが、もうだいぶ前から死語になっているのではないか。今は「男勝り」が普通になったからではないかと私は思う。念のため、「男勝り」という言葉を知らない人のために、
男勝りとは「女でありながら、気性が男にもまさるほどに勝気であること。また、そのような女」(広辞苑)で、勝気とは「人に負けまいとする気質」(〃)のこと。
記:2016.3.7 ガジ丸 →ガジ丸のお話目次
夏場は暑くて寝苦しくてぐっすり睡眠はできないが、今の時期(12月下旬)は布団1枚掛けてぐっすり寝て、深い眠り、浅い眠りを繰り返し、朝さっぱり目が覚める。
浅い睡眠の時に夢を見ている。この頃見る夢は濃い。濃いので細かいところまで覚えている夢も多くある。夢の話は他人が聞いてもつまらないと思うが、今週のガジ丸通信『家族の縛り』のテーマ、夫婦別姓について考えている時に見た夢を1つだけ。
場所は映画館から始まる。寝そべって観ることのできる広い映画館。上映している映画は邦画の刑事もの。私が知っている有名俳優が何人も出演しているが、岸部一徳を除いては名前が思い出せない。岸部一徳は主人公ではなく警部。主人公は追われる方の犯人、演じているのは、刑事ドラマで活躍していた人、何とかトオル、姓は思い出せない。
映画の場面、旅館の一室で30歳くらいの女が首をくくる練習をしている。女の後ろには布団が敷いてあり、そこには2歳くらいの女児が眠っている。場面は部屋の出入口の障子戸に移り、そこには障子の破れを補修している仲居さんがいる。この仲居さんは有名な女優。30歳くらいの人、私好みの美人だが名前は思い出せない。彼女は、映画の中では主人公の恋人になるヒロイン、主人公もその旅館にいて、出会い、恋に落ちる。
夢の中の映画の話も進むが、夢の中の私も動いている。寝そべって映画を観ている私の傍には女の子、14、5歳くらいが私に寄り添って、私に抱き着いている。
映画は数年の時が流れ、主人公はアメリカに逃亡したが、当地の警察に捕まって取り調べ室にいる。そこに日本から来た警部、岸部一徳がいる。室内には日本人の刑事がもう1人と弁護士が2人いて、そして、主人公にしがみついている5、6歳の女の子がいる。
「戸籍がそれほど大事ですか?この子は私を父と思い、頼りにしている。私はこの子を愛し、大切にしている。それだけで十分じゃないですか、親子じゃないですか。」と主人公が言い、心優しい警部は困った顔をし・・・、ここで映画の場面は終わり。
映画は終わりだが夢は続いている。映画を観ながら、私と私に抱き着いている女子は囁き声でいろいろと話を交わしている。女子は親がおらず、身寄りもなくて養護施設で生活している中学3年生。何で知らないオッサンに抱き着いているのかというのが、この夢の核心。「私、亜沙子(仮名)の生まれ変わりなんです。あなたに会うために生まれ変わったんです。もう私を放さないでください。」と少女は言うのである。
夢の中の私はいつものことだが、とてもモテる。モテるだけでなく世間からも一目置かれ尊敬される人間である。現実の私とは大きくかけ離れているので、私は、夢の中の私を現実の私とは違う別人格の者と捉え、彼に真迦哉(まかや)と名付けている。しかし、今回女子中学生に「もう私を放さないで」と言われているのは真迦哉では無く私。
亜沙子とは、私が若い頃好きだった人。何度かデートはしているが、深い関係にはならないまま、いつのまにか連絡を取り合うこともなくなった人。彼女であれば、相手が真迦哉では無く私であっても、ちっとも不思議ではない。・・・夢は続く。
「亜沙子の生まれ変わりって、亜沙子は死んだの?」
「15年前に病気で・・・そして、すぐに生まれ変わって今、裕美って名前です。」
それは全く信じられな話とは、私は思わなかった。何故なら、彼女の言葉使いが、14歳の少女のそれでは無く大人のそれであったから、さらに言えば、最後に会ったある夏の日の、当時27歳の亜沙子の口調にそっくりだったから。
夢はそこから養護施設へ場面が変わり、施設の担当者との話し合いとなる。
「裕美は私を頼ってくれています。私は裕美を養女にしたいと思っています」と私が言うと、正面の担当者では無く、隣に座っている裕美が声をあげた。
「養女はダメです。私はあなたの妻になりたいんです。」と言う。彼女が亜沙子の生まれ変わりだと信じかけている私は「さもありなん」と思ったが、担当者は驚いて、
「まだ中学生じゃないか、結婚なんて。」と呆れた顔をする。
「あと1年とちょっとで私は16歳になります。それなら良いでしょう?」
「良くないよ、君の人生はこれからだ、私の人生はたぶん、その四分の一もない。私が君にしてあげられることは、君に良い相手が見つかるまで見守るだけなんだ。」と、真面目な(たぶん、自他共にそう認めている)私は、いかにも真面目なことを言う。
「養女でなくてもいいんです。結婚しなくてもいいんです。私はただ、あなたの傍にいたいだけなんです。」と、夢は裕美のセリフで終わった。あー、何と羨ましい夢の中の私であることよ。人にこれだけ愛されるなんて、まるで夢・・・夢なんだよ、やはり。
今週のガジ丸通信『家族の縛り』を書き始めた日に見た夢、夫婦は婚姻届けが証明するものでは無い、互いに愛情を持っていることが証明となる。ついでに言えば、家族は血の繋がりが証明するものでは無い、互いに優しさを与えられるかどうかが証明となる。と、私の頭は考えていたに違いない。良い夢だった。続きが見たいものだ。
記:2015.12.22 島乃ガジ丸 →ガジ丸のお話目次
南の、小さな島(仮にガジ島とする)の、小さな学校。そこは小学校と中学校が一緒になっていて、合わせて30人ちょっとの生徒数でしかない。白い砂浜と青い海がすぐ傍にあり、森があり、野原があり、畑がある自然豊かな環境で、子供達は元気に育つ。
生徒のほとんどは島の子であったが、小学校3年生の男子1人と小学校1年生の女子1人の2人だけは島の子では無く、この春、内地(倭国のこと)からの転校生。お父さんお母さんの4人で家族ごと島に引っ越してきた。男の子は健太、女の子は沙織という。
この春島にやってきた人がもう1人いる。新任で小学生の担当となる下地紅子(しもじべにこ)先生。下地先生は東京の大学を卒業して沖縄で教員となり、教員となって2校目の赴任地がガジ島小中学校となった。まだ20代の若い先生、独身の美人。
下地先生は美人というだけで子供達から好かれた。心も優しかったので、すぐにみんなと仲良くなった。他所から来た健太と沙織も、生活習慣の異なる島、言葉もいくらか異なる島での生活に戸惑いがあったのだが、優しい下地先生がそんな2人に心を配り、2人は程なく島の生活に溶け込み、他の子供たちとも仲良しになった。
下地先生は美人というだけで男たちから好かれた。独身なので独身男性たちからは羨望の眼差しで見られた。プロポーションも良かったので、好色オジサンたちからは垂涎の的となった。そういったことに慣れている彼女は、言い寄る男たちをさりげなくかわす術も心得ていて、懸想する男供をことごとく退けた。身持ちも固いのであった。
美人で優しい下地先生は1学期が始まって間もなく子供たちから愛称で呼ばれようになった。「しもじべにこ先生」を略してしーべぇ先生。子供たちだけでなく、島の人皆から親しみを込めてそう呼ばれた。みんな仲良しの平和な時間がしばらく続いた。
しーべぇ先生、身持ちは固いが、恋愛が嫌いという訳ではけして無い。二十歳前後の頃はむしろオープンであった。過去に数人の男と深い関係になった経験がある。その経験から「そんじょそこらの言い寄る男と付き合っても楽しくない、私にもきっと運命の人がいる、赤い糸で結ばれた人がいる」と確信に近い思いを持っていた。
夏休みも近付いたある日曜日の朝、しーべぇ先生は家から海岸端へ出て海岸沿いを散歩した。しばらくすると港へ出た。漁港だ。護岸の下にいくつもの漁船が見えた。その向こうには大きな漁船も停泊している。何気なくその大きな船を目指して護岸沿いを歩いていたら、突然、足元に大きな魚が投げ込まれた。驚いて「きゃっ」と声が出た。
すると、護岸下からいかにも漁師といった日焼けした顔が出て、
「あー、人がいたのか、悪いね驚かせて。靴でも汚した?」と言い、白い歯を見せた。
「あっ、いえ、突然だったのでちょっと吃驚しただけです」としーべぇは答え、漁師の顔を見た。かつて、松田聖子が言ったように「ビビッ!」と来た。黒い顔はいかにも島の漁師だが、言葉遣いで島の人では無いと判る。優しそうで思慮深そうなその顔も、知性の豊かそうなその言葉遣いもしーべぇの好みだった。「赤い糸だ」と思った。
「おー、珍しいなぁ、この島にこんな美人がいたんだ、旅の人?」
「いえ、この春から・・・」などといった会話を少し交わしたが、しーべぇはその内容をほとんど覚えていない。気が付いたら船の中、小さなベッドの上、男の腕の中。
男は家庭持ちであった。というだけでなく、しーべぇの教え子である健太と沙織の父親であった。最近、長い遠洋漁業から帰って来たばかりであった。若い美女の潤んだ目に見つめられて、コロッと心を奪われたのであった。禁断の泥沼に入って行った。
夏休みに入った頃には噂が立った。島の人々から白い目で見られるようになり、しーべぇは島にいられなくなった。学校に辞表を出し、しーべぇは島から消えた。
その後、駆け落ち、刃傷沙汰、子供達が泣き叫ぶ・・・といった、それはそれはドロドロしたドラマの始まり・・・になりそうだが、妄想はここでお終い。
ウチナーグチ(沖縄語)でシーベーという名の昆虫がいる。和語で言うとキイロショウジョウバエ、コバエホイホイなどで対象とされる、いわゆるコバエ。こいつが私の部屋に年がら年中いる。見つけたら叩き潰しているが、どこから湧いて来るのか知らないが、しばらくするとまた1匹が私の前に姿を見せる。奴がいない日は稀であった。
ところが、今年の夏、思い返すと梅雨の明けた6月下旬頃から姿を見ていない。何でいなくなったのかと考えると、ただ一つ思い当たることがある。その頃、風呂場兼トイレの排水溝の大掃除をした。そのお陰かな?と思うが、確信は無い。
「シーベーが消えた夏」、「何で消えたか?」、「戻ってくるか?」などと考えている内に妄想が頭に浮かび、上記のドロドロになりそうな話を思い付いたわけ。
シーベー、ゴキブリやカに比べるとさほど不快に感じる奴では無いが、食べ物にたかるので煩い奴であった。原因は何であれ、取り敢えず、シーベーがいなくなったのは嬉しいことであった。・・・「あった」と過去形にしたのは、妄想を書いている時(8月8日の夕方)、奴が戻ってきた。私の目の前、机の上、すぐに叩き潰した。
その後、9日にも1匹見つけ叩き潰したが、それ以降今日(11日)まで奴は姿を見せていない。安心していいのかな?それとも油断させているだけかな?
記:2015.8.11 ガジ丸 →ガジ丸のお話目次
畑の駐車場は1台分しかなく、そこには私の車を停めている。よって、畑を訪れる人達は路上駐車となる。近所の先輩農夫Nさんは私の畑をちょっと過ぎた場所に車を停め、従姉のTや知人のK社長は私の車の前に停め、北側通路を通って小屋にやってくる。時々暇つぶしにやってくる友人のMや、まれにやってくるその他の友人達は畑の北側通路と南側通路の中間辺りに車を停め、彼らも北側通路を通って小屋にやってくる。
畑への訪問者のほぼ全てが北側通路を使うのだが、時々顔を出す友人のKだけは畑の南寄りに路上駐車し、南側通路を使う。ところがある日、南側通路の扉を誰かが開けるのに気付き、作業の手を休め、顔を上げた。Kでは無い。K以外にその扉を開ける人はこれまでいなかったので、「おや、珍しいこと。誰だ?」と立ち上がって、そこに目をやると、若い男女2人が扉の傍にいた。見慣れぬ車が南側通路の近くに停まっていた。
「すみませーん、入っていいですかー?」と、男が私の方に手を振って、大きな声で言った。「もう、入っているじゃねーか」と思いつつ、私は大きく肯き、手招きした。
若い二人は笑顔を見せながら小屋まで来て、私に会釈をし、
「少し話をしたいんですが、よろしいでしょうか?」と男が訊いた。
「うん、何でしょうか?宗教関係なら時間の無駄だと思うけど。」と私は答える。
「率直に言いますが、我々は、地球人が言う所の宇宙人です。」
「本物の?宇宙人?アンドロメダからやってきたとかの?」
「本物です。地球と同じ銀河系に我々の星はあります。」
「まあ、とにかく、そこへ腰掛けて」と私はベンチを指差し、彼らが腰掛けると、「宇宙人はコーヒー飲む?インスタントだけど。」と訊いた。
「ありがとう。頂きます。地球の食べ物や飲物、ほとんど摂らないのですが、慣れてはいます。地球に来て永い・・・何年になるかなぁ?」と、男が女を振り向いた。
「地球の時間で言えば20年位になるはずよ。」と、女が答える。
「えっ!2人ともまだ30にならない若さでしょう?子供の頃に来たんだ?」
「いえ、我々の時間では2年しか経っていないんです。」と男。
「そうなんです、地球の時間で言えば、我々は300歳近いんですよ。」と女。
「??????????」と、しばらく私。
?????しながら私はお湯を沸かし、紙コップにホットコーヒーを3つ作り、それぞれの前に置きながら、「砂糖要る?」と2人に訊いて、「要らないです」という男の顔と首を横に振る女の顔を交互に見ながら、やっと言葉が見つかった。
「時間の流れるのが遅いんだ、10倍も遅いということなんだ?」
「そういうことです。何故そうなのかはよく解っていないです。」
「いないですって、さっきから2人は敬語を使っているけど、私よりずっとシージャ(年上という意の沖縄語)じゃないですか、シージャというか、遥か遠くのご先祖様じゃないですか、私にはタメ口でいいんでしょう、私が敬語でしょう?」
「いや、言葉使いはそのままにしましょう、見た目若いですし、実際にも我々の世界ではまだ若輩者の2人です。それに、地球ではあなたが人生の熟練者です。」
「そうですか、なら、お言葉に甘えさせて貰うけど、ところでさ、時間の流れが10倍遅い所でさ、いったい何歳位まで生きるの?」
「寿命は地球人とほぼ同じで、だいたい100歳です。」
「地球の時間で言えば、1000歳ということ?」
「そうなりますね。」
「1年が3650日ということ?」
「そういうことでは無いと思います。我々の細胞の老化が10倍遅いみたいです。」
「何故そうなのか?を調べるために私たちは地球に来たのです。」と横から女が言い、 「一人でのんびり生きて、自然のものを食べているとそうなるのかと思って、今回、あなたを訪ねたという訳です。」と、ニッコリ笑った。その時、美人だと気付いた。
「のんびり生きてりゃ長生きするかもしれないが、それでも100歳だよ。」
「他にもあります。空気です。この辺りは良い空気が流れていると私は感じます。良い空気が元気を与えるのではないかとも考えています。」と美人が言い、
「実は、我々は地球人ほど消化器官を使いません。地球人が1回で食べる量は我々の10回分以上にもなります。何でそんなに食べたり飲んだりしなきゃいけないんだと考えた時、空気のせいかもと想像したのです。呼吸する空気の中に、我々の星には多くあるけど地球には少ない物質があるのではないかと。その物質は呼吸で体内に入るとエネルギーになり、その分、我々は消化器官をそう使わずに済んでいるのではないかと。」と男が続けた。
「はぁ、それ、何かに似ている・・・何だっけ?・・・そうだ、仙人の霞だ。」
「仙人の霞ですか、私も何かの本で読んで知っていますが、なぁ?」と男は女を見る。
「アニメの亀仙人とか鶴仙人とか面白いですが、実際の仙人っているのでしょうか?我々もずっと探しているんですが、まだ見つからないです。」
「そうなの、探しているんだ。さすが仙人、人目に付かない所にいるんだろうな。」
以上、若い2人が訪ねてきた以降は私の作り話、「宇宙人の若い2人が畑に来て、自分たちの寿命が1000歳であるなどといった話をした」という夢を先日見て、「呼吸する空気の中に、我々の星には多くあるけど地球には少ない物質がある。それが長生きの源かも」と宇宙人の男が語ったところで目が覚めている。目が覚めて、ベッドの上でぼんやりと今見た夢を反芻し、続きを妄想し、それを文章にしながら細かい所を脚色した。
この夢について後日思ったことがある。ガジ丸通信の記事にしようと思ったが、夢の説明が必要だし、私の妄想に過ぎないので止す。また、「千年生きる細胞前編」、「千年生きる細胞後編」と分けるほどの内容でもないので、長くなるが、以下に掲載。
私は「旅こそ人生」と思うくらい旅が好きで、2006年までは年に2~3回の旅をしていた。旅したい場所は県外の国内で、沖縄とは違う景色、匂い、食べ物、土地の人との会話(日本語のみ)が好きで、よって、旅先はほとんど県外の国内であった。3~40年の間に他府県の多くを訪れている。まだ行っていない県は青森、秋田、三重、和歌山、徳島など数えるほどしか無い。そこらもいつかは訪れたいと願っている。
まだ行っていない地域はもちろん、数多くある。もちろん、未踏の市町村をくまなく巡りたいなどと大それた野望は持っていない。ただ、ここだけは死ぬまでに訪れてみたいと思う場所はいくつかある。いくつか・・・すぐには出てこないが、例えば三重県熊野、宮崎県高千穂、・・・不信心の罰当り者の私は、神が人間を造ったのでは無く、人間が神を造ったと考えているので、何故神は造られたかに少々興味があるのだ。
死ぬまでに訪れてみたいと思う場所で、すぐに出てくる場所が一ヶ所ある。それは鹿児島県屋久島。特に、そこにある縄文杉に会いたい、会って、触れてみたい。
私の家系は長生きでは無い。父方では伯母の1人が90歳を超えた今でも健在だが、父は79歳、父の他の姉たちも日本人の平均寿命は生きていない。父の生母は若くして亡くなり、祖父は73歳で亡くなっている。私も長生きしたいとは思っていない。長生きしたいとは思っていないが、生きていることの不思議には常々畏敬している。
縄文杉、推定樹齢3000年とのこと。大地と空気と雨と太陽という自然の恵のみをエネルギーにして3000年も生きている生命体である。3000年も生きていたらこの世はどう見えるんだろうか?もしも、縄文杉に触れて、その幹に耳を当てて、彼が生きているという証拠である音を聴いたなら、私は何かを感じられるであろうか?
以下は科学的根拠のない私の妄想だが、おそらく植物は、大地と空気と雨と太陽という自然の恵のみをエネルギーにしているから長生きなのであろう。自然の恵から生まれた植物は生きる力を持っている。その力は大きい、それをエネルギーにするためにはある特別の犠牲を要する。植物をエネルギーにしている動物の生きる力はさらに大きい、その動物をエネルギーにしている動物の力はもっと大きい、それらをエネルギーとして消費するためにはさらに大きな犠牲を要する。犠牲とは、細胞の老化ということである。
と考えると、人間も大地と空気と雨と太陽という自然の恵のみをエネルギーにして暮らしたら千年ほど生きるかもしれない。人間の細胞そのものは、じつは、千年ほどは生き延びるようにできているかもしれない。モノを食っては細胞の力を弱め、恋をしたり、セックスしたり、子供育てたり、汗流して働いたり、憎んだり傷付けたり、笑ったり泣いたりなどしては自分の細胞の力を弱め、寿命を縮めているのかもしれない。
不老不死とも言われている仙人は霞を食って生きているらしい。霞は空気と言い換えても良かろう、空気を食べて生きているのだ、ならば、不老不死とまでいかないにしても千年くらいは生きるかもしれない。長生きしたいとは思わない私だが、千年なら生きてみてもいいかなと思う。何しろ食べなくていいのだ、雲子もしないのでトイレも不要だ、楽である。でも、それで楽しいのかどうかは疑問、酒が飲めなけりゃ何の人生とも思う。
記:2015.7.10 島乃ガジ丸 →ガジ丸のお話目次