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ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

しつこい幽霊

2016年10月07日 | ガジ丸のお話

 夏の夜に寝苦しくて目が覚めるというのはたびたびあるが、悪夢でうなされて目覚めるということは滅多にない。私の夢は概ねが楽しい夢である。身に余るほどの幸せな夢も多くあって、そんな時の夢の主人公は私ではなく、私の分身の真迦哉(マカヤ)ということにしている。分身ということにしないと、夢と現実の雲泥の差に悲しくなるからだ。
 夜涼しくてぐっすり睡眠のできた先月9月5日の未明、久々に悪夢にうなされて目覚めるということがあった。私は、若い頃はお化けとか幽霊を怖がったが、少なくともオジサンと呼ばれる歳になってからは幽霊を恐れなくなっている。「頂いた命だ、いつあの世に召されても文句は無い」と思っているので幽霊に呪われても怖くはない。そもそも、幽霊に呪われるようなことを私はやっていない。幽霊が目の前に現れて「うらめしや~」と言ったとしても、「私に?何で?人違いでしょ?」と追い払えると思っている。
 さて、久々の悪夢は幽霊が登場し、私はその幽霊にすごく怯えて目が覚めてしまった。真迦哉は何事にも動じないカッコいい男なので、この時の夢の主人公は私だ。
     

 場所は私が小学生の頃の実家、庭に面した掃き出しの窓を開けると縁側がある。小学生の頃の景色だが、そこにいる私は大人となっている。
 家の中には家族ではなく私の友人達が数名いる。飲んだり食ったりしている。夜も遅くなって女子の1人を男子の1人が家まで送ると言って出ていく。しかし、彼らはすぐに、顔面蒼白となって戻ってくる。「どうした、何があったんだ?」と訊いても、2人は口をアワアワさせるだけで言葉にならない。その時、もう1人の女子が「ギャーー!」と叫び声をあげて縁側を指差した。振り向いて縁側を見ると、そこには赤ん坊がいた。
 全体の形は赤ん坊だが、何か違う、この世のものではないということが判る。それが縁側をハイハイして、閉めていた網戸を開けて部屋の中へ入ろうとしている。私は持てる勇気の全てを搾り出して彼に近付き、「ここにお前が来る用事はなかろう」と言いながら、彼を押し戻し(冷たいが肉体の感触はあった)網戸を閉め、ガラス戸を閉めた。
 部屋の片隅に身体を寄せ合って震えている皆のもとに戻りかけると、女子の何人かがまたも「ギャーー!」と叫び声をあげて縁側を指差す。振り向くと、網戸がゆっくりと動いて、ガラス戸がゆっくりと開いた。そして、さっきの(かどうか、表情がさらに怖い)赤ん坊が顔を見せた。私はまたも彼を押し戻し、ガラス戸を閉め、鍵もおろした。
 縁側から私を睨んでいる赤ん坊がガラス越しに見える。その表情は怖さを増し、身体全体も大きくなっている。しばらく睨みあって、というか、私は彼の目を見て「しつこい奴だ、ここに恨まれるような人間はいない、さっさと去れ」とテレパシーを送っているつもり。そんな私のテレパシーが届かないのか、おろしていた鍵がゆっくりと動いて外れた。ガラス戸がゆっくりと開いた。そして、赤ん坊が入ってきた。彼はもう私の力では動かせないほどに体が大きくなっていた。オジサンという年齢になってからは経験の無い恐怖感が私を襲い、そこで目が覚めた。「わっ!」と声をあげていたかもしれない。

 幽霊に対しても「話せば解る」と思っていたのだが、赤ん坊には話が通じないのであった。解って貰えないと「人違いされたまま呪い殺されるかもしれない」と思って恐怖を感じたのだ。そしてまた、「そうか、相手が日本語の解らない外国人の幽霊の場合もそうなるか」と気付いた。そうなると、幽霊もなかなか手強いぞと思ってしまった。

 怖い話のお口直しに、もう1つ、ほんのちょっと怖い話。
 「柳野優でーす」。「柳野玲でーす」、「2人合わせて柳野ゆうれいでーす」という姉妹漫才コンビが舞台に登場する。
 「柳野ゆうれいですってさぁ、私たちが幽霊みたいに聞こえるね」
 「幽霊って、あのヒュードロドロうらめしや~の幽霊のことね」
 「そう、こんな可愛い2人なのにね、幽霊に見えるかしら?」
 「こんな可愛い2人だもの、幽霊には見えないかもね」
 「それはちょっと悔しいね、だったら、証拠を見せてやろうよ」
 「そうだね、そうしよう」
と言って2人はヒュードロドロとその場から消えてしまう。会場がざわつき、会場内の気温が一気に下がる。公演の内容を予め知っている舞台の裏方や主催者、そして、他の出演者たちは存在しない芸人の登場に、恐怖で既に腰を抜かしている。・・・お終い。 
     

 記:2016.10.6 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次


竜洞谷のエリカ

2016年06月17日 | ガジ丸のお話

 場面は、以前勤めていた職場の事務所、事務員が2人いる頃なので20年ほど前、私は同僚Oさんが現場監督をする工事の書類作りにパソコンとにらめっこしている。その時、事務員の1人K子が入ってきて、「S(私のこと)さん、お願いがある。」と言う。
 「何だ、今忙しいよー、デートの申し込みは後にしてくれ。」
 「デートは来年でも再来年でもいいさぁ、それより、M子が、息子が急に熱出して今日は休みますってさっき電話があった。」と困ったような顔で言う。M子はもう1人の事務員で、同僚のTさんが現場監督をしているもう1つの工事の書類作りを担当している。
 「Tさんの工事、明日提出する書類があるって、それを私にお願いって。」
 「お願いされたらやればいいじゃないか。」
 「数字を入れるだけなら私にもできるけど、その書類さぁ、数字が何でこうなったかって説明する文章もたくさん書かなければならないのよ、それは苦手なのよ。」
 「で、それを俺にやれってか?」
 「Sさん以外にできる人はいないんだから、しょうがないさぁ。」
 「今日は夕方、大事な約束があるんだ、明日ではダメか?」
 「M子が言うにはどうしても今日中なんだって、お願い。」
     

 宇崎竜童が友人のもう1人のミュージシャンと2人で私の実家に宿泊することになっていた。空港まで迎えに行く約束をしていたが、残業になりそうで迎えに行くのは難しくなった。竜童に電話(当時既に携帯電話を持っていた)し、その旨伝える。
 「タクシーで行くから大丈夫だよ、近くに飯食う所ある?」
 「有名な店があります。タクシーの運転手にその名を言えば知らない運転手はいないでしょう。その店から私の実家は徒歩30秒くらいです。」ということになり、やはり残業となった私は、遅れてその店へ向かう。私の車は近所のKさんに「2、3日1台分貸して下さい」と予め頼んであったので、数台分の広さがあるそこの駐車場に停める。
 その時、夜7時を過ぎていたが南国沖縄の夏はまだ薄明るい。Kさん家の娘と思われる5、6歳位の女の子が立っていてこっちを見ている。「こんにちは」と挨拶すると、女の子は満面に笑みを浮かべて「こんにちはじゃないよ、こんばんわだよ」と言う。
 「そうだね、こんばんわだね。お嬢さんはKさん家の子供?」
 「そうだよ、エリカっていうんだよ。」
 「そうか、エリカちゃんか。オジサンはガジ丸って言うんだ、よろしくね。」
 「うん、友達になろうね。」
 「うん、今日から友達だ。・・・エリカちゃん、オジサン、ちょっと用事があるから今日はこれでサヨナラしようね、また会おうね。」
 「うん、バイバイ。」
     

 その後、私は飲み屋へ入る。竜童一行は既にいて、店に入る私を見て「こっち」と手招きし、私が席につくと、「お疲れさん、急な残業だったんだって。」と、テレビで良く見る髭面のいかつい顔が、テレビでよく見る無邪気な笑顔になって言う。
 「遅れて済みません。私も少し飲んでいいですか?」
 「もちろん、どうぞどうぞ。生でいい?」と無邪気な笑顔は言って、ビールを注文してくれた。そのビールを飲んで、少しおしゃべりして、30分ほどで店を出る。
 「車どこ?荷物の多くは車に乗せておきたいんだけど。」
 「その方がいいですね、車はすぐそこです。」と私は2人を駐車場に案内する。荷物を車に乗せていると、駐車場のすぐ傍、Kさん家の窓からさっき友達になったばかりのエリカがこっちを見て手を振っている。私も手を振り返す。
 「可愛い子だね、知合い?」
 「この家の子供です。さっき知合いになりました。」
 「俺も知合いになろうっと、紹介して。」といういことになって、竜童をエリカに紹介した。竜童はエリカのことが気に入ったらしく、大いに語り合っていた。その経験から後のヒット曲『沖縄ベイブルース』が誕生した・・・ということは無い。

 竜童とエリカがおしゃべりしている間、私と竜童の連れの2人は駐車場で立ちっ放しであったが、その時、私の両足、足首からふくらはぎにかけて痒くなった。痒みは腿にまで上がり、それはすぐに異常な痒さとなった。その部分を見る。私は靴下を穿いている、その靴下の中が異常に痒い、靴下を脱ぐとそこに夥しい数のダニがたかっていた。
 そのおぞましい光景と、あまりの痒さで目が覚めた。
     
 
   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 以上は夢の中の話、2016年5月27日の未明に見た夢。8割方は夢、あとの2割は覚めてからの妄想を付け加え脚色している。元同僚のTさん、事務員のM子とK子、宇崎竜童の顔ははっきりと出てきた。女の子エリカは「エリカ」という名前ははっきり覚えているが顔はボケている。そして、もっと強烈に覚えているのは足の痒み。
 5月下旬、畑の、もうすぐ熟しそうであったバナナが何者かに食われ、それを防ぐために袋を被せたら、袋の中が最適空間だったのか、小さな虫の類が大量に発生し、24日、まだ半分は残っていたバナナの房を切り取って畑小屋の中に吊るした。竜童の夢を見たその前日の26日、吊るしていたバナナの実の上列の8本が熟しかけていたので収穫し、ビニール袋に入れ、家に持ち帰った。袋の口はバナナが蒸れないよう開けておいた。
 で、27日の未明、足のあまりの痒さを経験する。おそらく、バナナの実に着いていた虫がそのまま着いていて、私は虫着きのバナナを家の中に持ってきて、虫はバナナから離れて部屋の中に散らばり、寝ている私の足を齧ったに違いない。
 5月31日、部屋の中に見慣れぬ小さな虫を見つけた。まだ何者か判明していないが、ごく小さいので何者かの子虫かもしれない。その後、畑小屋の中のバナナを揺すって、虫らしきものが落ちるのを確認して、その写真も撮った。これもまだ何者か判明していないが、これは先の者よりさらに小さい。もしかしたらダニかもしれない。 
     
     
     
 『アルプスの少女ハイジ』とか『風の谷のナウシカ』とかいったカッコ良く、爽やかな面白い物語にしようと思って『竜洞谷のエリカ』を妄想したのだが、ダニが部屋で繁殖して、寝ている私の全身を襲うといったおぞましい妄想しかできなかった。
 『竜洞谷のエリカ』、宇崎竜童から竜洞、ダニから谷、エリカは夢に登場した可愛い少女の名前からですぐに思い付いた。なかなか良いタイトルと思ったのだが・・・。

 記:2016.6.10 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次




トウモロコシ泥棒

2016年06月10日 | ガジ丸のお話

 5月の終わり頃、前日雨が降って、午前中で畑を引き上げた翌日のこと、前日確認した時は順調に育っていて何の異変も無く、あと1週間経てばいくつかは収穫できそうだというトウモロコシの実が、もうすぐ熟するものも含めて十数個、皮を剥かれ何者かに齧られていた。齧られた実にはタイワンキドクガの幼虫やカタツムリが着いていた。トウモロコシの栽培は今回が初挑戦、順調に生育していたので期待していたのだが、がっかり。
     

 ガッカリして呆然と立っている私の傍に、私の畑ナッピバルの番鳥(畑の害虫を食ってくれ、他の鳥がやってくると追い払ったりしてくれる畑の番人)であるイソヒヨドリの河原万砂(カワラバンサ、私が名付けた)がやってきた。バンサは口に大きめの蛾の成虫を咥えていた。私と目が合うと、彼は咥えていた蛾をパクリと飲み込んで、
 「こいつ、トウモロコシに卵を産みつけようとしていたぜ。」と言う。
 「あー、そういえば、トウモロコシにはタイワンキドクガの他にも蛾の幼虫らしきものがいたな、虫の類なのか、トウモロコシを食ったのは?」
 「いや、それは違うと思うぜ。何者かがトウモロコシの皮を剥いで、その実を齧った後に、虫たちはトウモロコシの甘い匂いに誘われたんだと思うぜ。」
 「まあ、そりゃあそうだな、虫たちがこれほど大量に食うわけないよな。トウモロコシを齧りながらビールを飲むってことを楽しみにしていたんだ、あと3、4日では1、2個収穫できそうなものがあったんだ、チクショー、腹立つ。よし、薬撒いてやる。」と私は腹立ちが収まらないまま防御作戦を行う。薬と言っても私の薬はいわゆる農薬では無く、ゲットウの葉、トウガラシの実、フェンネルの葉、市販の酢などを混ぜた自作の薬、どれも害虫が嫌がるものであるとあの人この人から教わったものだ。しかし・・・、
     
     

 翌日、畑に出勤すると、またもトウモロコシは被害にあっていた。
 「虫除け薬もまったく効かないじゃないか、誰だ犯人は!」と思わず声が出た。その声が聞こえたのか、畑のあちこちを3羽の雌と飛び回っていたバンサがやってきた。
 「だから、虫じゃ無ぇと言っているじゃねーか。バッカじゃねーか。おめぇよ、何年も農夫をやっていてよ、トウモロコシ泥棒の想像もつかないのか?」
 「犯人が誰かって・・・」と、(口の悪い野郎だ)と思いつつも私は応える。「ネズミかなぁ、ネズミはトウモロコシを食うって本で読んだことがある。ネズミの類は、ハツカネズミもビーチャー(ジャコウネズミ)もここにはいっぱいいるからなぁ。」
 「ふん、ふん、それだけか?お前の知識は?」とバンサが言う。それだけじゃないのかと私は頭を巡らせるが思い付かない。小屋の前のベンチへ行って、腰を降ろし、冷えたお茶をゴクゴク飲んで、タバコに火をつる。バンサが小屋まで付いて来ていた。
     
     
     

 「トウモロコシの皮が剥かれて、中の実が剥きだしになっていれば鳥だって食う。スズメだってハトだってカラスだって食う。しかしだ、トウモロコシは穂ごと剥ぎ取られたものもあり、トウモロコシ全体が倒されているものもあったぞ、スズメにもハトにもカラスにも、ネズミだってそんな力は無い。最初に皮を剥いて食った奴がいるんだ。」
 「あっ、そうか、トウモロコシの穂を食い千切り、全体を倒せるほどの力を持った奴の仕業ってことか、あっ、あいつらだ、最近、畑によく来るようになった犬だ。」
 「犬って、最近顔見せていたあの2匹組のことだな、大きい方はミケインで小さい方はコシェってお前が名付けた奴らのことだな、うん、まあ、その可能性もないことはない。犬も雑食だ、トウモロコシを食べるかもしれん。しかし、あいつらはもういない。町役場の野犬狩りにこのあいだ捕まったよ。可哀想にな、何も悪いことしていないのに。」
 「えっ、捕まったのかミケインとコシェは、そうか、どうりで最近姿が見えなかったわけだ。可哀想に。いやいや、それよりもトウモロコシ泥棒の真犯人は誰だ?」
 「お前、ホントに農夫になるつもりか?それくらいも見当つかないのか?トウモロコシを倒して食べる奴、この辺りに重要参考人となるべき奴がいるぞ。」
 「うーん、何者だろう?」
 「お前、頭大丈夫か?ボケていやしねぇか?アルツハイマーか?ついこのあいだ名前を出したばかりだぞ。お前も畑で何度か会っている奴だ。」
 「このあいだ?名前?あっ、そうか、バナナ泥棒の容疑者だ、マングースだ。」
 「そう、やっと思い出したか。やれやれ、世話の焼ける奴だこと。」と言って、バンサは飛び立とうとした。「あっ、ちょっと待て、バンサ。」と私は彼を引き止めた。
     

 「お前、さっき、3羽の雌と仲良さそうに飛び回っていたな、何だありゃあ、1羽は女房で、後の2羽は何だ?妾か?女房と妾と一緒に暮らしているのか?羨ましい。」
 「妾などと古臭い言葉を使いやがって、お前は明治生まれか?アホっ!」
 「じゃあ、いったい何なんだ?」
 「2羽は子供だよ、もう巣立つ時期なんだ。」とバンサは幸せそうな顔をする。
 「そうか、それは良かったな、おめでとう。」
 「あー、やっとの巣立ちだ、肩の荷が下りるってもんだ。」
 「あっ、でも、お前、子供は3羽と前に言っていたよな?2羽なのか?」
 「うん、もう1羽は死んだ、弱い者は死ぬ。これが野生の掟だ。」とバンサは言い残して飛び立った。「弱い者は死ぬ」という言葉が何故か強く耳に残った。
     
     
     

   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 前住んでいた首里石嶺のアパートには畑があって、最初、大家の婆様が使っていたが、婆様が足を悪くして後は、アパートの住人(4世帯)が使ってよいということになり、その内の1坪ほどを私が使っていた。記憶は定かではないが、それはたぶん、今から15年前、2001年のことだと思う。たった1坪とはいえ、私の農業の始まりであった。
     
 職場が時短により週休3日となった2009年夏からは、従姉の夫の土地、住宅地だが彼の母上がバナナなどを植え、半分農地みたいになっていたのを借りる。全体は70坪ほどあるが、広い駐車場があり、バナナやクロキなどが多く植えられていて、畑にできるのは30坪ほど、それでも、アパートの1坪に比べればずっと広い。週に2日は通って、草を刈って、耕して、畝を立て、堆肥を混ぜて、種を播く。素人農夫の始まり。
 職場をリストラされた2012年夏からは、300坪の畑を借りて本格的に農業を始める。本格的といっても自己流、しかも、無施肥、無農薬の自然農法を選んだ。自然農法そのものが難しいのに、自己流なので上手くいかない。4年近く経った今でもまだ、畑から生活費を得るまでには至っていない。自分が食う分の野菜が作れているだけ。
 たった1坪とはいえ畑作業をしていた2001年から数えると、私は農業歴15年となる。自己反省を述べさせて貰えば、「15年もやっていてこのザマか、15年もやっていて、未だに素人とほとんど変わらないじゃないか!」といった状況。
 反省は明日の成功に繋がるというが、私の反省はなかなか明日の成功に繋がってくれない。反省はするが、その後の勉強が足りないからだと思う。いや、あるいは、「何が何でも成功させる」という強い意志を、生来持たない性格だからと思われる。
     

 さて、15年も農業をやっているのに、未だに収入を得られず、いつまでたっても素人のままのノンカー(呑気者という意の沖縄語)農夫の私であるが、最近は農業に関する本を読んだり、DVDを観たりしている。上手くいかない時は反省もしている。
 あと2、3日経てば1、2本、1週間も経てば5、6本は収穫できそうなほど順調に生育していたトウモロコシが40株ほどあった。5月25日、前日までは何の異変もなかったそのトウモロコシの内、十数本が何者かに食われていた。翌日もさらに数本が食われていた。皮を剥かれ実を齧られたものがあり、穂ごと食い千切られたものもあった。
 トウモロコシをたっぷり食われて後の反省は、取りあえず、犯人探し。犯人を特定し、彼からトウモロコシを守るにはどうしたらいいかを考えること。想定した容疑者は3種の動物、犬かネズミか、あるいはマングースかだ。考えた結果、犯人の特定のためにある仕掛けを施した。5月26日の夕方、トウモロコシの周囲にネットを張った。
     
 私の計算はこうだ、ネットが倒されてトウモロコシが食われていたら犯人は犬、ネットは倒されてないのにトウモロコシが食われていたら犯人はネズミ、ネットは倒されていなくてトウモロコシも食われていないなら犯人はマングース、ということになる。犬なら力ずくで食い物を得ようとするだろう、ネズミはネットの下を掻い潜ってトウモロコシを食うだろう、マングースはネットも倒せず、掻い潜って食うこともできないはず。
     
     

 5月27日は金曜日、朝、ガジ丸ブログのアップをしてから畑へ向かい、午前11時頃に畑へ着く。道路沿いに車を停め、車から降りて、駐車場の出入口に掛けてあるチェーンを外そうとした時、トウモロコシを植えてある畝の方向から隣のウージ(サトウキビ)畑へ向かって1匹のマングースが走り去って行った。
 「犯人はマングースか」と思ってトウモロコシの畝を確認する。ネットは倒されていないし、トウモロコシも無事であった。どうやら、真犯人はマングースのようである。
 犯人はほぼマングースであると特定できた。さて、その対策は?マングースから畑の作物を守るためにはどうしたらいい?マングースを捕獲するなんてことは元より考えていない。奴はすばしっこい、ハブより反射神経能力が高く、トンマな私に捕まる訳がない。捕獲はしない。つまり、こちらから攻撃はしない、専守防衛だ。作物を守るのだ。
 作物を守ることができなければ、私はマングースに負けたことになる。上述した「弱い者は死ぬ」という言葉を思い出す。私は平和主義者なので、戦わないオジサンである。しかし、降りかかる火の粉は払うオジサンでもある。黙って負けるわけにはいかない。ネットを張ればマングースから守れるが、ネットを張ると虫を食う鳥たちも入ってこれず、トウモロコシに着いている虫たちが増え、結局、トウモロコシは食われる。どうする?と考えている内に閃いた。トウモロコシの栽培はしなければいいのだと。「逃げ」かな?
     
     

 記:2016.6.3 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次


家盗り物語

2016年06月10日 | ガジ丸のお話

 5月のある晴れた日の午後、私の畑でのこと。
 「誰だ!お前、何でそこに座っている!」とコシェが私に向かって吠えた。
 「誰だって、俺だ。何でって、ここの主は俺だからだ。」と私は冷静に答える。
 「何だとー!そこは俺達の縄張りだぞ、勝手に座るんじゃない!」とさらに吠える。威嚇するような顔をしているコシェを私はジロっと睨み、
 「ほら、お前の相棒は解っているじゃないか、さっさと畑からも出ようとしている。あいつは賢いんだな、物事が解っている。お前はバカなのか?」
 「何だとー!チクショウ、バカにしやがって!」と言いながらコシェは相棒のミケインの方を振り返った。ミケインは立ち止まって、こっちを見て、顎を振った。そこでようやくコシェも諦めて、「覚えておけー!」と捨て台詞を吐いて、相棒の後を追った。

 その翌日、朝、畑へ出勤し、車を駐車しようとしている時、「誰だ、おめぇ!」と奥の小屋から吠える声が聞こえた。声の方向を見るとコシェであった。その傍にはミケインもいる。ミケインは穏やかな表情のまま、ウージ(サトウキビ)畑へ消えて行った。数秒後には、コシェも諦めたのか、吠えるのを止めてミケインの後に続いて畑へ消えた。
 その姿を一瞥して、私はいつものように畑小屋前のベンチに腰を降ろす。その時、ベンチの上に足跡があるのに気付いた。「あー、奴ら、ここをねぐらにしているかも」と想像した。その翌日も同じようなことが起きて、想像は現実であると判断した。「奴ら、俺の家を乗っ取ろうとしているな、家泥棒だな、そうはさせんぞ」と私はキリリと思う。
 その日、畑から引き上げる前、おそらく彼らが寝床にしているであろう床下にフェンネルの葉を大量に敷いた。フェンネル、人間の鼻でも「おっ!」と感じるほどの香草だ、彼らの鼻だと「きつい」と感じるであろう、もはや寝床にはできないはずだ。
 私の作戦は功を奏したようで、翌日から彼らの姿は私の畑からは消えた。家盗り合戦において、私は我が城を守り抜き、彼らに勝利したと言えるであろう。
     
     

   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 畑の周りは原野が多い。飼えないんだったら最初から飼うな、飼ったら最後まで面倒みろ、飼うのをやめるのなら捨て犬にせず自分の責任で殺処分しろ、などと、私は犬を飼っている人に言いたい。原野には捨て犬であろう野犬がたいていいる。役場の野犬狩りがたびたびやってくるが、1匹がいなくなると、まもなく別の1匹が現れる。
 今年初め頃からは三毛猫みたいな色模様をした1匹の中型犬が、畑の近辺でウロチョロするのが見られた。新参の捨て犬だ、ちっとも吠えない大人しい犬だ。彼(彼女かもしれない)の名前を仮にミケイン(インは犬の沖縄語読み)としておく。彼は長く一匹ぼっちだったが、1ヶ月ほど前から相棒ができた。相棒はシェパードみたいな見た目をしているが体は小さい、今のところミケインより小さい。おそらく、シェパードを含む雑種と思われる。彼(彼女かもしれない)の名前を仮にコ(小)シェとしておく。
     

 5月になってから、この2匹が畑の中に入ってくるようになった。最初は私が小屋前で休んでいる時、ミケインが私の前までやってきて、私に気付くとUターンして去った。そのすぐ後を付いていたコシェは一瞬ポカンとした顔をしていたが、すぐにミケインの後を追って、去って行った。同じことが翌日、翌々日と続いて、3度目のその時は、ミケインはこれまでと同じようにUターンしたが、コシェは私に向かって吠え、威嚇した。私がジロっと睨むと、吠えるのを止め、これまでと同じくミケインの後を追った。
 その翌日、この時期としては定時の朝7時(夏期は朝6時出勤)頃畑へ着く。駐車場のチェーンを外して車をバックで入れる。その最中に犬の吠える声が聞こえた。声の方向は畑小屋だ、見ると、コシェが吠えている。その傍にはミケインもいる。しかし、ミケインはちっとも吠えない。穏やかな顔のまま、私から見て左手のウージ(サトウキビ)畑へ消えて行った。数秒後、コシェも吠えるのを止めてミケインの後に続いた。

 翌日もまた、同じようなことが起きた。コシェが激しく吠える。私はそれに構わず畑小屋に向かう。すると、彼らは前日と同じく、隣のウージ畑へ消えて行った。
 コシェはバカなのか知らないが、その日も相変わらず吠えた。が、兄貴格のミケインが冷静な対応をしているということで、私は「彼らは私を襲うことはしない」と確信していた。ミケインの思慮深そうな顔は、無茶なことはしない犬格者の風情があった。
 その日帰る前、上述したようにフェンネルを彼らが寝床にしているであろう箇所に敷きつめた。そのお陰だと思うが、翌日から2匹は小屋前に姿を見せることはなかった。
     
     

 5月24日の朝、畑へ出勤すると、私の畑の100mほど手前でミケインを見た。しかし、いつも一緒のコシェの姿は見えなかった。その数日前から彼らは私の畑に姿を見せることはなかったのだが、私の畑の周辺、彼らが時々散歩している近辺からも、コシェはその日以降、ミケインも翌日から姿を見せなくなった。野犬狩りに捕まったのかも。

 記:2016.6.3 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次


バナナ泥棒

2016年06月03日 | ガジ丸のお話

 畑のバナナが1房、数ヶ月前から垂れ下がっていた。季節が冬だったこともあってなかなか色付かなかったのだが、5月中旬になって上部の1列が黄色くなり始めた。「明日には収穫した方がいいな」と思ったその明日、朝、畑に行ってすぐにバナナを見る。ところが、収穫しようと思ったその1列がごっそり消えていた。何者かに盗られたようだ。
     
 私の畑(借り物だが)ナッピバル(と名付けた)の番鳥(ナッピバルに住みついているイソヒヨドリ)が近くにいたので、呼んで、「何か知っているか?」と訊いた。
 「念のために言っておくが、俺じゃねーよ。」
 「分かっているよ、お前はバナナを食べないし。」
 「盗られるところを見ていないからなぁ、何とも言えないなぁ。」
 「ここ数日、怪しい奴が畑に来たことはないか?」
 「俺の女房は知っているか?」
 長い間独身であった我が畑の番鳥、河原万砂(かわらばんさ、私の命名)にも昨年春やっと恋人ができ、結婚もした。そして、今年もまた、同じ相手かどうか不明だが、めでたくゴールインしたようで、彼女も今、ナッピバルに住みついている。彼らの寝床は隣の藪の中にあるようで、彼女を目にする機会はバンサを見る機会よりずっと少ないが、それでも、時々仲良さそうに並んで立っているのを見る。
     
     
 
 「あー、そうか、言い忘れていた、結婚おめでとう。」
 「あー、ありがとう。そう改めて言われると照れるなぁ。」
 「どうだい、結婚生活は?子供はできたか?」
 「子供は3羽、女房が面倒みているが、俺も餌をやっている。大変だよ子育ては。」
 「女房とは上手くいっているのか?」
 「指図好きな女で、俺も扱われているよ。お前が結婚しない理由がよく解るよ。」
 「ふーん、そうか、鳥の世界でもそうなのか。いや、そんなことよりバナナ。今日食えるかと思っていたんだ、犯人を捜し出してやる。怪しい奴を見なかったか?」
 「虫どもは除外して、バナナを食えるほどの大きさで俺の女房以外だと、そうだな、ヒヨドリ、シロガシラ、メジロなどはよく見るし、カラスもたまにやってくるが、奴らがバナナ食う時は突っついて食う、その場合実は残る、ごっそり消えることはない。」
 「うーん、そうか、番鳥のお前が言うんだからそれはきっと確かだろう。そうか、それじゃあ、バナナをごっそり食いそうな奴は他にいないかなぁ?」
 「バナナをごっそり食いそうって言ったら、オオコウモリかなぁ、向かいの森に何匹かが住み着いているってのはお前も知っているだろう?」
 「あっ、そうか、そうだったな、オオコウモリがいたな。犯人はオオコウモリか。」
 「いやいや、そう早合点するな、犯行現場を見ていないから断定はできないぞ。確かにオオコウモリの可能性もあるが、もう1匹、容疑者はいるぜ。」
 「もう1匹?何者だそいつは?」
 「うん、もしかしたらマングースかもしれない。奴は木登り上手だ。」
 「あっ、そうか、マングースもいたか。そうか、マングースか。」
 「あー、どちらかというと、犯人はマングースの可能性が高いと俺は思うな。」
     

 そういえばそうなのだ。この辺りでバナナを食う奴と言えば、犬や猫ももしかしたら食うかもしれないが、人間の他にはオオコウモリかマングースしかいない。犬や猫はこの房の高さまで届かないし、人間なら、どうせ盗むんだったら1列だけじゃなく房ごと持って行くだろう。そして、バナナの房はバナナの葉に隠れて空から見えないからオオコウモリの目には気付かない可能性が高い。マングースは地面を走り回る、下からだとバナナの房は丸見えだ。バンサの推理通り、犯人はマングースの可能性が高い。
 で、さっそく、マングース対策をする。房に袋を被せた。2列目が熟する頃となった2日後、袋を開けてみるとバナナは無事であった。ただ、無事で食えたのではあったが、房のあちらこちらにヤスデなどの小さな虫が着いていた。
     
 さらにその3日後、3列目が熟する頃となった、袋を開けてみたら、3列目の半分は腐ったようになっていて、残りの半分も何者かに食われた跡があった。房にはヤスデなどの小さな虫がわんさか着いていた。3列目は1本も食えなかった。
 袋を被せると風も太陽も当らないジメジメした環境となり、そんな環境をヤスデなどの小さな虫たちが好み、わんさか発生したものと思われる。
     

 虫に食われたバナナを地面の上に並べて、未練がましく写真を撮り、失ったものを残念に思いながら「あーぁ」と溜息ついていると、バンサがやってきて言った。
 「房に着いた虫は俺たち鳥の食い物だ、袋を被せるとよ、房に着いている虫に俺たちは気付かない。だから、虫たちにとっては袋の中は天国みたいになるんだろうな。」
 「知っているんだったら先に言えよ!バーカ。」
 「知らねぇよ、バナナの房に袋を被せたのは、お前も初めてだろうが、俺だって初めて見たことだ、人間のお前なら、そんなこと本で読んで勉強しとけよ、バーカ。」
     
 うっ、確かにバンサの仰る通りだ、鳥ごときに「バーカ」と言われて腹は立つが、不勉強の私に非はある。しょうがない、この失敗は良い勉強になったと思うことにした。バナナ泥棒がいる、犯人はおそらくマングース、そして、通気性の悪い袋を被せると袋の中に虫がわんさか発生する、などということを私は今回勉強できた。
 バナナの房にはまだ3列の実が着いていた。房を切り取って小屋の中で保管し、そこで追熟させ、後日、美味しく頂いた。バナナ泥棒の真犯人はまだ判っていないが、明日のための勉強もできたし、めでたしめでたしということで、この話はお終い。
     

 記:2016.5.28 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次