窓から涼しい風が流れ込む。窓の向こう、西の空はオレンジ色に染まっている。秋の日の夕暮れ時、ユクレー屋のカウンターに俺たちはいる。
「良い季節になったねぇ。」とゑんちゅ小僧が言う。
「以下同文。」
「酒の旨い季節だよね。」とゑんちゅ小僧が言う。
「以下同文。」
10月に入っても暑い日が続いていたが、このところやっと秋らしくなった。夕風が爽やかである。日が暮れるのも早い。まったく、秋は酒の季節なのだ。
「あんたたちさあ、昨日ワイン飲み過ぎて、二日酔いだったんじゃないの?」
「あー、ひでぇ二日酔いだったな。んが、俺たちの体は血管が少ないんだ。だから、二日酔いが治るのも早いんだ。今はもう既に体調万全というわけだ。」
「夕方になれば、消費活動に概ね支障無しってことさ。」(ゑんちゅ)
「まったく、あんたたちって、消費ばっかりだよね。地球環境に悪い体だね。」
「食って、糞してるんだ。その糞が俺たちの生産品だぜ。」
「そう、生産に見合った消費をしているだけなんだ。地上が糞で溢れて、その糞に溺れて人類は絶滅、なんてことは無いと思うよ。」(ゑんちゅ)
「おっ、そうだ、絶滅で思い出した。覚えてるかマナ、前に話した猛鳥物語?」
「あっ、そうだ、話は続くって言ってたのに、そういえばまだ聞いてないよ。」
というわけで、ケダマン見聞録『猛鳥物語2』のはじまりはじまり。
ちょっとおさらいするが、その星には目立った勢力を持つ二種の知的生命体がいた。一種は恐竜人で、もう一種は鳥人であった。恐竜人たちは陸地のほとんどを支配し、鳥人は一地域のいくつかの島だけを生息場所としていた。勢力範囲も人口も恐竜人の方が鳥人よりもはるかに大きかったのであるが、恐竜人は鳥人を猛鳥と呼んで恐れていた。
恐竜人は好戦的な性格をしており、恐竜人同士での戦争が耐えなかった。であるが、恐竜人は鳥人に戦いを挑むことは滅多に無かった。戦えば必ず負けたからであった。鳥人はまた、戦えば勝つのであったが、その勢力を敢えて広げようとはしなかった。自らの強さに大きな自信を持っており、自らの生存に揺ぎ無い自信を持っており、現状が永遠に続くことを確信しており、その勢力を広げる必要を全く感じていなかったからである。
さて、話は先へ進む。
恐竜人は初めの頃、主に狩猟によって食料を得ていた。その食料を奪い合うことが彼らが戦争をする主な理由であった。よって、彼らが戦うのは生きるためなのである。戦争は絶えなかったが、ただ殺すだけの戦争というわけでは無かった。無益な殺生はしないという点では、地球人類より精神の発達は進んでいたと言える。
また、彼らの全てが日夜戦っていたわけでは無い。戦うのは、成長して、身に付いた武器が十分役立つようになった大人の雄である。それも、時代が経って、定住農耕生活をするようになってからは、戦う兵は体の武器がより発達した強い者がなり、強くない者は農民となって働いた。戦うということについては、兵士と農民に大きな力の差があったが、兵士と農民に身分の差は無い。なぜなら、農民は兵士を養うからである。
人々に身分の差が無くて、それぞれがそれぞれを尊重していたんだ、何て素晴らしき世界なんだ、などとと一見思えてしまうかもしれないが、まあ、一部族間ではそのような素晴らしき世界に違いなかった。さらに、定住農耕生活をするようになると、狩猟や採集のみに食料を頼っていたそれ以前に比べて他部族間との争いも減っていった。
ところが、戦争が減ると人口が増えた。人口が増えると彼らは森を切り拓いて自分たちの生息範囲を広げていった。それによって、森の生き物たちが犠牲となった。
森の生き物たちは、それまでも狩によって命を失っていたが、生息場所の減少はそれよりもはるかに深刻なダメージとなった。彼らは集まって相談した。その結果、恐竜人たちの人口を減らすべく、鳥人を頼ることにした。
森の住人の代表者たちが鳥人に会いに行った。恐竜人たちの横暴をなんとか止めてくれないかと頼みに行ったのだ。鳥人の長老が応じる。
「お前たちの話は解ったが、しかし、恐竜人たちを懲らしめたからといって、私たちには何の益も無い。私らは、お前らも食うが、恐竜人は不味いので食わない。食わないのに殺すなんて事は私らの倫理に反する。」
「そこを何とか。」
「何とかと言われてもだな、私らの益にはならないことだからな・・・。」
「それは違います。恐竜人たちの増加は我々他の生き物の絶滅に繋がるだけで無く、種の減少はこの星そのものを滅ぼすことになります。」
「うーん、そうか。なるほど、そうだな。そうなるな。」
「長老。」とその場にいた幹部の一人が声をあげる。
「確かにこの者達の言う通りです。恐竜人の増殖は防がなければなりません。」
「そうだな。ちっと懲らしめてやるか。」
ということで、いよいよ恐竜人対鳥人の戦いが始まる。のだが、またまた話が長くなってしまった。しゃべり疲れたので、この続きはまたいつか。
語り:ケダマン 2007.10.12