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ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

発明009 デージハガマ

2007年04月07日 | 博士の発明

 シバイサー博士とガジ丸がのんびりと釣りをしていた先週、その”のんびり”を邪魔するのも悪いと思って、私はほんの少し声を交わしただけですぐに引き上げた。家に帰ってから、「あっ、博士に近況を訊くのを忘れていた。」と思い出して、翌日、再び博士の研究所を訪ねた。その日も晴れて、風の涼しい気候。博士は浜辺で寝ていた。

 博士の昼寝を邪魔しないよう、私もしばらく海を眺めながらのんびりするかと、寝ている博士の傍にそっと座ったら、
 「ゑんちゅ君か?酒持ってる?」と背中を向けたまま博士がボソッと言う。見ると、博士の頭の傍にある四合瓶は空っぽであった。
 「あっ、いえ、今日は持ってきませんでした。」
 「あー、じゃあ、ちょっと済まんが、台所の戸棚にあるから取ってきてくれんか。」と言うので、私はそうした。酒を持って戻ってくると博士は起きていた。
 「あっ、済みませんね。昼寝の邪魔をしたみたいですね。」
 「いや、酒が無くなったので寝転がっていただけだ。ちょうど良かったよ。」
 「はい、酒です。一升瓶もありましたが、銘柄もいくつかありましたが、これで良かったですか?」と『恋島酒』とラベルの付いた新しい四合瓶を渡す。
 「ありがとう。ウフオバーの造った酒だ。これが一番旨い。」と言いながら博士は湯飲みに酒を注ぎ、そして、
 「君の分のコップも持ってきたか?」と訊く。もちろんであった。私は黙ってコップを差し出す。それに博士が酒を注ぐ。で、何にということもなく乾杯する。そして、その酒をちびりちびり飲みながら、しばらく秋の風に吹かれる。

 「博士、昨日訊くのを忘れていましたが、最近何か発明品は無いですか?」
 「うーん、最近は何も思いつかんなあ。自動魚釣り機なんてのを昨日釣りしながら考えたんだが、魚の引きを感じ、竿をしならせながら釣り上げるのが釣りの楽しみだからな。それを機械が自動でやったなら、釣りをする意味が無いからな。ダメだな。」
 「はあ、そりゃあそうですね。」と私は納得し、肯く。
 「あー、そうだ。このあいだデンジハガマの話をしたろ。それで思い出した発明品がある。もう50年も前に作ったものだが、米と水を入れたら自動的にご飯を炊いてくれる機械だ。デージハガマという名前だ。デージというのは大事の沖縄読みで、大変な事とか大そうな事とかいう意味だ。ここでは大そうな羽釜ということになる。」
 「米と水を入れたら自動的にご飯を炊くというのは電気炊飯器と同じですよね?」
  「いやいや、デージハガマは直火用の羽釜だ。ある種の電磁波を発し、直火の上に浮くようになっている。焚き火の上に羽釜が浮いていると想像すりゃいい。デージハガマは火の上で、ちょうど良い火加減になるよう自動的に距離を調整するんだ。で、美味しいご飯を炊いてくれるという優れモンだ。だから、『大そうな』と名が付いている。」
 「ほう、それは確かに『大そうな』ですね。キャンプの時に大いに活躍できますね。でも、50年前に作っているのに、私は今まで一度もデージハガマを見たことが無いし、その名前を聞いたこともありません。流行らなかったのですか?」
 「うん、ウフオバーのために作ったんだがな。彼女は竈でご飯を炊くからな。こんなのがあったら便利だろうと思ってな。でも、何故か、使ってないようだ。」

 ということで、その何故かを調べるために博士と別れた後の夕方、ユクレー屋を訪ね、ウフオバーにデージハガマのことを訊いた。
 「博士のデージハガマ?・・・あー、そういえば、そういうのあったねぇ。でも、役に立たなかったさあ。竈では使いにくかったねぇ。火加減は米の種類によって違うし、炊き込みご飯やお粥を作りたいと思っても、みな同じような火加減にしようと勝手に動いて、私の言うことを聞かなかったさあ。強情な機械だったよー。」ということであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2006.9.24


発明008 良雲悪雲

2007年04月06日 | 博士の発明

 ユーナ君から、博士の役に立たない発明「週間接着剤」の話を聞いた翌日、泡盛の一升瓶を土産に博士の研究所を訪ねた。週間接着剤のことでユーナに怒鳴られて、意気消沈しているであろう博士を慰めるために、酒の相手をしようと思ってのことであった。

 ドアをノックしても返事が無いので、勝手に中へ入った。博士は作業場にいた。
 「博士」と声をかける。博士は顔を上げて、
 「やー、君か。」と言い、作業の手を休めた。
 「何か忙しそうですね。」
 「うん、今、新しい発明品を作っているところだ。」
 「昨日、ユーナから画期的な接着剤の話を聞きましたが・・・」
 「あー、あれか、あれはよく考えたらユーナの言う通りだ。役に立たないな。」とあっさりと言う。意気消沈はしてないみたいであった。
 「それじゃ、また新しい発明ですか?」
 「そうだ。最近絶好調なんだ。次から次へとアイデアが浮かぶ。」
 「で、何なんですか、今作っているのは?」
 「この島が台風の直撃を受けないのは何故だか知っているか?」
 「そりゃあ、博士が造った島なんだから、博士が天候を操っているんでしょう。」
 「天候を操る?私が日夜、雨よ降れ、嵐よ去れなどと念力で雲を呼んだり、嵐を遠ざけているのだと思っているのなら、それは大きな間違いだ。ただ、しかし、私が天候の調整に深く関わっているということについては近からず遠からずだよ。」
 「近からず遠からず?」
 「あ、いや、遠からずとも近からず?だっけ・・・何だっけ?」
 「当たらずとも遠からずでしょう?」
 「あー、そうだ、それ。私が神棚の前で髪振り乱して、ぶつぶつ呪文を唱えているわけではないのだ。じつは、この島の天候を操っているのは私の作った機械なのだ。」
 「えっ、そうだったんですか。機械なんですか。」
 「これはもうだいぶ前に作った機械で、名前をスースーハーハー機という。四方八方から来る磁力を調整して気圧を上げたり下げたりしている。それで天候を調整しているんだが、気圧を上げたり下げたりする時に息を吸ったり吐いたりするような音を出す。」
 「はあ、それでスースーハーハー機ですか。それで、それと今作っている発明とは何か関係あるんですか?」
 「うん、それの小型版を今作っているんだ。」

 オキナワの夏の直射日光は厳しい、曇った日は歩けるが、晴れた日の日中に歩くのは大変辛い、という話を前に甘熊アッチャンから聞いていて、ならば、頭の上に雲を集めて、自分の周りだけを常に曇り状態にすればいいじゃないか、という博士の発想である。
  「完成までにはもう少し時間がかかりそうだが、名前はもう考えたよ。良雲悪雲と書いて『りょううんあくうん』と読む。雲を集めることはできるが、どの程度雲が集まるかはその時の状況、その場の環境に左右される。運が良けりゃ、ちょうどいいくらいの雲が集まって陽射しを遮ってくれる。運が悪けりゃ雨雲が大量に集まり、雷ゴロゴロの土砂降りとなる。良運悪運にかけているわけだな、ハッ、ハッ、ハッ。」と高笑いする。
 「博士、その時の状況、その場の環境に左右されるということは、自然のままでいるのと変わりないじゃないですか。」
 「まあ、そういうことだな。人間の都合だけでは雲は動かない。草木や動物、それより何より大地が欲するように雲は動くのだ。哲学的なんだな。ヘッ、ヘッ、ヘッ。」
 「博士、それじゃあ、良雲悪雲は自然に何の影響も与えないってことですか?だとしたら、『りょううんあくうん』と読まず、『よくもわるくも』と読んだ方がいいじゃないですか。良くも悪くも自然のまんまというわけです。」と私は言って、すぐに後悔する。ニコニコしていた博士の顔が、みるみる沈んでいった。数分間の沈黙の後、
 「・・・しばらく休むか。」博士はポツンと独り言のように言った。湯飲みに泡盛を注いで一口飲み、窓の外を眺める。オレンジ色の夕日と紫色の雲が浮かんでいた。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2006.7.15


発明007 週間接着剤

2007年04月06日 | 博士の発明

 ユクレー屋を訪れると、いつものように常連のケダマンがカウンターに座っていた。撫肩の人でもバッグの紐が擦り落ちないという博士の発明「撫肩革命」の話から一週間後のことである。「ユーナ君、ビール」と声をかけてからケダマンの隣に座る。
 「撫肩革命」には自信を持っていた博士ではあったが、背後霊のように見えるということでそれがボツになって、淋しそうにしていたのが気になっていたので、訊いた。
 「ユーナ、博士は元気かなあ?」
 「えっ、博士?元気だよ。おととい来てたよ。」
 「あ、そう。落ち込んでるんじゃないかと心配してたんだけど・・・。」
 「えーっ、落ち込むような人じゃないよ、あの人。おととい来た時も、『また新しい発明品ができた。最近絶好調だよユーナ』なんていって、はしゃいでいたよ。」
 「えっ、また発明したの?今度は何なの?」
 「うーん、今度もまた役に立たないものだったさ。」と言う。以下はユーナの話。

 博士がカウンターに座って、酒飲みながらずっとニタニタ笑っているの。他に客もいなくて、私も暇だったから、しょうがなく「何よ?」って訊いたの。
 「背後霊に見えなけりゃ良かろうと撫肩革命を改良していたら、撫肩革命の左の小指を折ってしまった。で、瞬間接着剤でくっつけようとした。その時に閃いた。」
 「背後霊に見えないようなアイデアが閃いたってこと?」
  「いや、別の発明が閃いたのだ。週間接着剤というものだ。」
 「瞬間じゃなくて、習慣ということ?」
 「いや、習慣じゃなくて週間だ。一週間しか効力の無い接着剤だ。」
 「えっ、それが何の役に立つの?」
 「一週間経ったら、くっつけていたものが勝手に剥がれ落ちるんだぞ。接着剤としては前代未聞。画期的じゃないか。きっと何かの役に立つはずだ。」
 「立つはずだって、くっつけるのが目的の接着剤が一週間で効力を失くして、それがいったい何の役に立つって言うの?バッカじゃないの。」
 「いや、そうかなあ?だめかなあ。じゃあ、もう一つ考えたぞ、これはどうだ。」
 「何なのよ?」と私はもう、ちょっと不機嫌な声。
 「寸間接着剤と言うんだ。これは週間接着剤よりさらに進んで、くっつけたと思ったらほんの数秒で剥がれ落ちるんだ。だから寸間という。画期的だぜ。」と博士は言って、「カッ、カッ、カッ」って高笑いするのよ。私、アッタマ来て、
 「だから、それがいったい何の役に立つっていうのさ!ただの、くっだらない駄洒落じゃないの!!」って怒鳴ってやったさ。
     

 以上がユーナの話だが、その後、博士は肩を落として、しょんぼり帰ったということである。「あんなの、人の同情を引きたいための演技よ。」とユーナは言うのだが、博士もあれで、なかなかナイーブなのだと私は思う。ただ立ち直りが早いだけで、その時はそれなりに傷ついているのだと思う。そんな博士のために翌日、私は一升瓶を持って博士の研究所を訪ねた。すると、・・・以下は次回に続く。

 記:ゑんちゅ小僧 2006.7.9


発明006 撫肩革命

2007年04月06日 | 博士の発明

 この頃はケダマンが入り浸っているようだが、それまでは、ユクレー屋を訪れるマジムン(魔物)としては、私が最も頻度が多かった。まあ、島の情報を集めるためという目的もあってのことで、だいたい週に1、2回は飲み食いに来ている。
 シバイサー博士は、基本的には家でダラダラ飲むのが好きみたいであるが、ウフオバーの手料理を食いに、彼もユクレー屋に週1、2回は来ている。私は概ね週末、博士は平日に訪れるので、博士と私がユクレー屋で顔を合わせることは、そうは無い。
 ところが最近は、ケダマンが島にやってきたり、甘熊アッチャンがやってきてりして、その歓迎会で続けざまに会っていた。そして先日もまた、ほとんど毎日入り浸っているケダマンと私が飲んでいると、週末ではあったが、博士が顔を見せた。

  「やあ、博士、最近よく会いますね。」
 「あー、うん。今日はタマン(魚の名)が釣れたんで、料理してもらおうと思って。」と手にしている魚を目の前に掲げた。大きな魚だ。博士はウフオバーに声を掛けて、魚を渡して、ユーナにビールを注文して、カウンターにいる私の隣に座った。
 「そういえば、訊くのを忘れていましたが、最近、発明はないですか?」
 「おー、あるよ。アッチャンに頼まれて、作ってやった。」
 「アッチャン?・・・何、頼まれたんですか?」
 「アッチャンは歩くときリュック、今だとデイバッグっていうのか、それを背負っているんだが、撫肩なもんだからしょっちゅう擦り落ちるんだそうだ。リュックが擦り落ちないような何かいいのがあれば作ってくれないかということで、作った。」
 「ほう、それはいいですね。どういうものなんですか?」
 「名前は撫肩革命。人の手の形をしたものが右手左手とペアになっていて、それぞれ右と左の肩をやんわりと掴む。リュックを背負うとその重みで両手の小指だけが立ち、リュックの肩紐が擦り落ちないようにするわけだ。スイッチを入れれば肩揉みもしてくれるという優れもんだ。さらにICプレーヤーもついていて、音楽を聴くこともできる。」
     
 「それはすごいですね。私も撫肩なんですよ。欲しいですね。」
  「うん、需要は多いと思ってな、商品にして売り出そうかとも思っている。」と博士は久々のヒット作の予感に満足気であった。「カッ、カッ、カッ」とひと笑いして、ビールをぐいっと呷る。その時、撫肩の気持ちを全然理解できないユーナ君が口を出した。
 「あー、だめよそれ。このあいだアッチャンからメールがあったわよ。言うの忘れてたけど。あれは使えませんって博士に伝えてって書かれてあったよ。」
 「えっ?どうして使えないんですか?」と私。
 「肩の、ちょうど良い位置に合わせないとダメなんだって。骨のところにあたったりすると痛いんだって。で、ちょうど良い位置に合わせたら、また合わせるのが面倒だからリュックを下ろしたときもそのままにしてたんだって。そしたら、周りの人たちから、背後霊みたいで気持ち悪いから止めてくれって言われたんだって。」
 「背後霊?・・・いいじゃないか別に。」と博士が憮然とした表情で言う。
 「子供たちが恐がって泣くんだってよ。周囲に迷惑ってことなの。でも、肩揉み機としては時々使ってるんだってさ。ありがとうってさ。」とユーナは平然と言うのだが、私の横目にチラッと映る博士の顔はとても淋しそうであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2006.7.2


発明005 大掃除機スップル

2007年04月06日 | 博士の発明

 旅から帰ったその日の夜、旅の疲れを癒そうとユクレー屋へ行く。まだ夕方で、飲む時間には早かったせいで客は私一人。静かな中、店の主であるウフオバーと向き合いながら一杯やっていると、ウフオバーが思い出したように言った。
 「そういえば、ユーナから聞いたんだけど、シバイサー博士が何か大きな発明をしたらしいよ。博士は世紀の大発明だ、なんて言っているみたいよ。」

 というわけで、翌日、さっそく博士を訪ねた。博士は研究所の庭にいた。お昼をちょっと過ぎた時刻、1月とはいえ南国の柔らかな日差しが降り注ぎ、外の風も心地良い。そんな中、芝生の上にゴロっと転がって、博士は飲酒中であった。昼間から酒なんて博士にとってはそう珍しいことでは無いが、世紀の大発明に満足して気分がいいのか、この日はもうだいぶ進んでいるみたいであった。振り向いた顔が赤く染っていた。

 「やあ、久しぶりじゃないか。まあ、君もこっち来て、一杯やりなさい。」と、顔をだらしなく崩しながら言った。上機嫌である。博士の前に腰を下ろし、訊いた。
 「ずいぶんと御機嫌じゃないですか。今度の発明は成功なんですか?」
 「発明?」
 「世紀の大発明をしたと、ウフオバーから聞きましたが。」
 「世紀の大発明?・・・あー、年末のあれか。あれは、開発までには至らなかった。」
 「えっ、そうですか?今回は珍しくユーナも褒めているみたいですが。」
 「あー、ユーナがね、確かに褒めてたね。ユーナはね、でも、名前を褒めてたね。」
 「名前?・・・ですか。なんていう名前なんですか?」
  「おう、名前はいいぞ。スップルって言うんだ。大掃除機スップル。」
 「スップル?・・・大掃除機?・・・いったい、どんな発明なんですか?」 
 「家の大掃除をしてくれる機械だ。年末大掃除の時に思いついた。多くのセンサーを持ち、全自動で部屋中の掃き掃除、拭き掃除をやってくれる機械だ。スイッチを入れて、その間、家の人は留守にしていい。正月の買い物などに行っていればいい。6畳間の広さなら1時間でその壁、床、天井の全てを掃除してくれる。」
 「えー、それはいいじゃないですか。大掃除機なんて、絶対必要なもんですよ。でも、それがなぜ、開発できないんですか?」
 「いやー、発想は良かったんだがね。実際にモノを作るとなると開発費に数百億円は必要でね。しかも、1台の販売価格が数百万円になりそうでね。持っている能力の割には高いということになってね。開発は中止したのだ。」
 「なるほど、大掃除に数百万円はかけられませんからね、普通。うーん、その値段だと売れないですね。残念ですね。・・・大掃除機ですか。欲しいですよね。」と言いつつ、何故そんな発明をユーナが気に入ったのか不思議に思い、
 「実用的でないその発明を、ユーナは何故気に入ったんでしょう?」と訊いた。
 「いや、名前のスップルを気に入ったんだ。音の響きがイイ感じだってさ。」
 「確かに、スップルって響きはいいですね。ですが、スップルってウチナーグチのスップルですよね。『吸う』という意味の。『おっぱいを吸う』といったエッチな場面でもよく使われる言葉ですよね。それを気に入ったんですか、ユーナが。」
 「スップルのスッが、さっとゴミを吸い取り、プルはプルっと汚れを拭き取るように聞こえるらしい。そう言われればそう聞こえたもんだから、私にしては良いネーミングであったと自分でも思ったのだよ。だがね、数百万円ではね。残念ながらね。」と答えた。
     

 博士は「残念ながらね」と言いながらもヘラヘラ顔のままである。上手くいかなかったのにも関わらず機嫌が良いのは何故かと、これまた不思議に思って訊いた。
 「いやー、年末にね。ユーナに研究所の大掃除を頼んだのだよ。そしたら彼女は、掃除の間ずっと『スップル、スップル』と拍子をつけて歌っていたもんだから、思わず、ついふらふらと、彼女のおっぱいをスップってしまたんだ。その感触が良くてね。それを思い出しながら酒を飲んでいたら楽しくなったというわけさ。」
 「えっ!そんなことしたんですか?ユーナは怒りませんでしたか?」
 「そりゃもちろん怒ったさ。烈火の如くとはあのことを言うのだろう。彼女の持つ最大限の力で頬をぶたれたさ。」と言って、下になっていた方の顔をこっちに向けた。もう数日は過ぎたであろうに、博士の頬にはユーナの手形がくっきりと残っていた。
 「いやー、痛かったよ。でもね。その痛さよりね。おっぱいの感触の気持ち良さがずっと上回っていたんだな、これが。」と、博士のヘラヘラ顔は続いた。

 その日は、私も博士に付き合って遅くまで飲んだ。二人で酔っ払って、ユーナがつけたという拍子で「掃除機かけてスップル、スップル 雑巾かけてスップル、スップル 何でもかんでもスップル、スップル 知らない間にピッカピカ」と大声で歌い、二人で2番の歌詞も作った。「天井ごしごしスップル、スップル 壁もごしごしスップル、スップル ユーナのおっぱいスップル、スップル ビンタの痛さもなんのその」なんて、これは小声で歌った。そのうち、「スップルマーチ」なんて歌ができるかもしれない。
 ちなみに、それ以来、ユーナは研究所へ立ち寄って無いとのことであった。

 記:ゑんちゅ小僧 2006.1.4