goo blog サービス終了のお知らせ 

ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

発明014 味覚過敏

2007年04月13日 | 博士の発明

 春の陽気、ポカポカ天気、柔らかい風が吹いている。私は今、ウフオバーの手伝いで浜辺に来ている。春の海はのどかである。春の海はまた、美味しいでもある。
 「ハマウリ(浜下り:潮干狩りのようなもの)の日はまだなんだけど、今年は暖かいからね。様子を見ながらちょっと行ってみるかねぇ。」と言うオバーに荷物持ちを頼まれたのである。この日、マナとケダマンは山に入っている。山の幸を収穫しに行ったのだ。
 オバーは海へ入り、お昼までにアーサを籠いっぱい、ウニ数個とテラジャーを十数個採ってきた。オバーに言われて私は浜辺に生えているツルナを少し収穫した。
 「今日はこの位でいいねぇ。来週ユーナが帰ってくるらしいから、その時にちゃんとしたハマウリをしようね。あんた、皆にそう連絡しておいてね。」
 「はい、承知。今日は、マナたちは山の幸の収穫に行ってるよね。何が採れるの?」
 「そうだねえ、オオタニワタリ、ワラビ、ノビル、オカヒジキなんかが採れると思うけどねえ。まあ、収穫が少なかったら庭のフーチバーやンジャナにするさあ。」
 「海の幸と山の幸が今夜の酒の肴になるんだ。楽しみだね。」

 などと話しながらユクレー屋に着いた。収穫したものを台所へ運び、
 「オバー、何か手伝うことある?」と訊く。
 「いや、ありがとう。もういいよ。後は一人で大丈夫さあ。」
 「じゃあ、夕方また来るよ。肴を楽しみにね。」

 ということで、夕方までの時間を潰すために、私はシバイサー博士の研究所を訪ねた。博士は珍しく働いていた。私が顔を出すと、
 「おー、ちょうど良いところに来た。今、ちょうど新しい発明が完成したところだ。」と博士は言って、金属製の輪に金槌のようなものが付いているものを見せた。
 「何ですか、これ?」
 「味覚過敏と言う。食物の味を敏感に感じ取る機械だ。ジラースーが高血圧だって言うんでな、彼のために作った。これで塩分摂取を減らすことができる。」
 「ほう、どうやって使うんですか?」
  「これをこうやって頭に嵌めるだけだ。舌で感じた味を輪のセンサーが読み取って、塩分量が許容範囲を超えた場合に、この金槌が振り落とされる。塩分の取り過ぎに警告を与える、いわば愛の鞭みたいなものだ。」
 「なんか、痛そうですね。」
 「あー、痛いぞ。でも、愛の鞭だ。これで塩分摂取は控えられる。」と言い、博士は実験して見せた。博士の舌に濃い塩水を垂らす。すると、金槌が博士の頭を叩く。
 「どうだ、優れもんだろ?」と、ちょっと涙を浮かべて博士は言った。涙が出るくらい痛いんだったら、使う人はいないだろうと私は思った。

 夕方、ユクレー屋に向かう途中、ジラースーに会った。海の幸山の幸を味わう会に彼も呼ばれたのであろう。
 「やー、ジラースー、元気?・・・っていうか、高血圧なんだって?」
 「高血圧?俺が?・・・誰がそんなこと言ったんだ?」
 「博士だよ。で、あんたのために機械作ったんだ。」
 「機械?高血圧が治る機械ってことか?」
 「うん、味覚過敏って名前で、食物の味を敏感に感じ取る機械だとさ。」
 「あー、意味は解るな。ちょっとした塩味でもしょっぱく感じるわけだ。でも俺は、俺が高血圧なんて話、博士にしたことはないぜ。高血圧でも無いし。」
 「ふーん、博士はジラースーのために、って言ってたんだけどな。」
 「味覚過敏ね、・・・あっ、そういえば、知覚過敏の話はしたぞ。最近、冷たいものを食べると歯茎が沁みるという話はしたな。」
 「そうか、解った。知覚過敏から博士は味覚過敏を思いついたんだ。味覚過敏から高血圧対策を発想したんだな、きっと。」
 「おー、必要から発明じゃなくて、発明から必要を逆に発想したというわけだな。博士らしいじゃないか。それに、その味覚過敏、役に立ちそうじゃないか。」
 「いやいや、実際に使う人はいないと思うよ。使うたびに頭に瘤ができるからな。」
 「何だそれ、どういうことだ?」
 「そんな機械ってこと。」

 などと話をしているうちに、我々はユクレー屋に着いた。マナとケダマンはそれなりに山の幸を収穫してきており、その夜は美味い肴で大いに楽しんだ。博士の発明、味覚過敏機については、ジラースーからも私からも話題に出なかった。味覚過敏機は、世間の話題に上ること無く、忘れ去られる運命となりそうであった。
     

 報告:ゑんちゅ小僧 2007.3.4


発明013 ミミクジラ

2007年04月13日 | 博士の発明

 シバイサー博士の研究所へ向かう途中ガジ丸に会った。
 「やー、どこへ?」
 「ブラブラ散歩。お前は?」
 「俺は博士のとこ。正月以来会っていないから、どーしてるかなと思って。」などと話しながら歩いて、ユクレー屋の前にさしかかった。ケダマンが歌っているのが聞こえたので中を覗いた。庭で、ユーナとケダマンが洗濯物を干していた。

 「あっ、ガジ丸。どこ行くの?ユーナも行く。」
 「行くってオマエ、まだ洗濯物、半分も干し終わっていないぜ。」(ケダマン)
 「残りはケダマンがやってよ。いつも迷惑かけてんだから。」と厳しい目で言い、ガジ丸の方を向いて、とたんに柔らかい目になって、
 「ねぇ、どこ行くのさ」と再び聞く。
 「俺はブラブラ散歩だったんだが、ゑんちゅ小僧がシバイサー博士のとこへ行くと言うので、俺も一緒に博士の顔を拝みに行こうかと思っている。」
 「博士の顔なんか拝みたくは無いけど、ガジ丸に付いて行く。」
 というわけで、一人ケダマンを残して、我々三人は博士の研究所へ向かった。

 呼び鈴押しても、声をかけても返事が無かったが、ドアが開いているので中へ入る。博士は研究所の中にいた。相変わらず昼間から酒を飲んでいるみたいであった。起きているのか寝ているのか判らないくらいじっと動かないのだが、時々、湯飲みに手を回し、酒を口に運んでいる。何かアイデアを思いついて、それを頭の中で練っている時の状態だと思われた。三人顔を見合わせて、「帰るか」と暗黙の了解をし、ドアの方向へ体を向けたその時に、ドスンと大きな音がした。振り返ると、博士が椅子から滑り落ちて、床の上に寝ころがっていた。寝ころがったまま動かない。近寄ってみると微かに鼾をかいている。寝ているみたいである。どうやら、寝ながら酒を飲んでいたようである。
 少しの間様子を見たが、起きそうに無かったので、そのまま放っておくことにした。ところが、我々が帰ろうと歩き始めた時に博士の右手が動いた。何かを探すかのように動いている。たぶん、湯飲みを探している。酒を求めている。しばらくそうしていたが、湯飲みには手が届かない。で、諦めたかのように手の動きは止まった。

 面白い生き物だ、と少し興味を持って、この後どうするんだろうと見ていたら、突然、むっくりと起き上がった。起き上がって、窓の方へ向かって歩き、窓の傍に立ち、窓を開け、空を見上げ、視線を正面の海へ戻し、そして、
 「うーむ、そうであったか。」と呟いた。
 「博士」と声をかけた。が、それは聞こえなかったようで、
 「そうか、そうなるか。」と再び呟く。
 「博士」と今度は傍に近寄って声をかける。まだ気付かない。
 「博士!」と三度目は博士の耳元で、大声で叫んだ。今度はしっかり聞こえたようで、博士はのけぞって、振り向いて、目を丸くする。
 「わっ、何だそんな大声で、びっくりするじゃないか。君ら、来ていたのか?」
 「さっきから声をかけてたんですが、聞こえなかったですか?」
 「あー、いや、ちょっと考え事を・・・おー、そうだ、その質問はぴったしキンコンカンだ。最近耳が遠くなって、その原因が解ったら、あることもまた解ったのだ。」
 「あることって、さっき、『そうであったか』と呟いていましたね。」
 「この間から周りの音が聞きづらくなっていてな。老化で難聴になるなんてことはマジムンにはおこらないことなので、何だろうと考えていたら、耳くそが溜まっていたんだ。もう何十年も耳掃除なんてやっていなかったからな。」
 「なーんだ、解ったって、そんなことなんだ。」(ユーナ)
 「いや、そうじゃなくて、私の耳は、溜まっていた耳くそをさっき掻き取って、今はよく聞こえるようになっている。そうじゃなくて、私が昔発明したミミクジラが、優れた機械だったんだが、しばらくして故障した。その故障原因が解ったのだ。」
 「ミニクジラって、小さいクジラってこと?」(ユーナ)
 「ミニじゃない。耳だ。大きな耳を持ったクジラ形の機械だ。」
 「大きな耳を持ったクジラって、どのような機械なんですか?」(ゑんちゅ)
 「あれだろ、博士が30年くらい前に作った奴だろ。」(ガジ丸)
 「ガジ丸は知ってるの?」(ゑんちゅ)
  「うん、見たことあるぜ。クジラの形をしていて空を飛び、あるいは海に潜り、世界中のさまざまな情報を、その大きな耳で集めて回る機械だ。」(ガジ丸)
 「そう、その機械。最初はちゃんと情報を送ってくれたんだが、5年を過ぎた頃から情報量が少なくなっていき、20年経った頃には全く送ってこなくなった。今日、自分の耳くそを掻き取った後、幸せを感じていたら、その原因がふと閃いたのだ。」
 「ミミクジラの大きな耳にも耳くそが溜まっていたということか?」(ガジ丸)
 「あー、まあ、そういうことだな。ただし、ミミクジラの耳くそは目に見えるものでも無く、手で触れるものでも無い。」
 「情報ということか?」(ガジ丸)
 「うん、普通の情報ならミミクジラのコンピューターが処理して、吐き出すが、コンピューターが処理できない情報もこの世界にはいっぱいあったんだな。コンピュータには理解不能で処理できないんだ。それがミミクジラの耳くそとなってしまった。」
 「コンピューターが理解できない情報って、どんなものなの?」(ユーナ)
 「人間がたまにやることだ。墓穴を掘ったり、自分で自分の首を絞めたりするようなことだ。ユーナにも、バカじゃないのって思うことが世の中にはあるだろ?」
 「あー、そうか、そういうこと。何となく分かるよ。」

 その後、我々はテーブルについて、ユーナはジュースを、外はまだ明るかったが、マジムン三匹は酒を飲んだ。ミミクジラについては、
 「論理的に不合理な現象を、合理的に処理できるような改造ミミクジラを作ろうかと思ったが、論理的に不合理なことを、人間はこれからもさまざまな形で、新しく生み出していくんだろうなと考えたら、ミミクジラの能力をそれらにいちいち対応させるのは手間かかりそうで、面倒臭そうだと思って、よって、改造は諦めた。」とのことであった。
     

 報告:ゑんちゅ小僧 2007.1.23


発明012 大量和解平機

2007年04月13日 | 博士の発明

 ユクレー屋は正月明けて、5日から店を開けた。で、さっそく、その日の夕方、店へ行く。そういえば、正月、オバーの顔を見なかったことを思い出し、そのことを訊くと、ウフオバーは珍しく普通の世界であるオキナワへ行っていたらしい。12年ぶりに先祖や子孫の墓参りに行ってきたらしい。墓には「曾孫の骨まであったよー。」とのこと。そしてまた、骨は無いが、オバー自身も眠っていることになっているらしい。
 「私もそろそろ本当に骨になろうかねぇ、と思ったさあ。」
 「だめよー、オバー。オバーはずっと生きてないとだめさー。」(ユーナ)
 「シバイサー博士が、『長い目で見てみれば』って言うからこうして生きているんだけどね。オキナワ行ってニュース見たらさあ、今もどこかで悲しいことが起きているみたいさあ。どんなに長い目で見ても、世界が平和になることは無いと思うわけさあ。」

 ユクレー屋にはいつものようにケダマンがいた。ウフオバーとユーナとの上記のような会話があって、その後しばらくして、今度はケダマンとユーナの、
 「ねぇ、最近考えるんだけどさあ。」
 「何だ、オメェの父ちゃんの話は、それ以降のことは俺は知らないぜ。」
 「そうじゃないよ。・・・それも気になるけどさ。・・・そうじゃなくて、何でさあ、争い事ってさあ、無くならないの?何で戦争って無くならないの?」
 と始まる会話(詳細は「週間ケダマン35怒るマジムン」参照)があって、さらにしばらくして、シバイサー博士がやってきた。博士が座って、少し落ち着いた頃、今度はユーナと博士の会話となる。ユーナの頭の中では上の2つの話からの続き。

 「ねぇ博士、世界が平和になる機械って作れないの?」
 「世界が平和?・・・何だ急に。平和になる機械?ってか。」
 「そう、世の中から争いが無くなって、みんなが平和に暮らせる機械。」
 「人間には戦って勝ちたいという本能があって、その本能を機械でコントロールすることはできる。戦う本能が現出しないようにすればよい。が、戦うということは生き残るということに繋がり、子孫を残すということに繋がる。戦う本能を消してしまうと、子孫を作る本能も消える。よって、争いは無くなるかもしれないが、人類は滅びる。」
 「それは一人一人の人間の問題でしょ?そうじゃなくて、国と国が戦争しないようにする機械よ。戦争したいと思う人だけがケンカして、普通の、戦争なんかしたくないと思う庶民はそれに巻き込まれないというような機械よ。」
 「戦争というものは個人と個人の戦いじゃなくて、大きな団体と団体の戦いだ。そのへんのケンカとは違う。爆弾なんか使うから庶民は必ず巻き込まれる。大量破壊兵器なんか使われたら、全く関係の無い動物も植物も一遍に消えてしまう。庶民が巻き込まれない戦争なんて、まあ、無理だな。」と博士は言って、酒を口に運び、一呼吸置いてから、
 「そういえば、大量破壊兵器といえば、昔、大量和解平機なんてのを作ろうと思ったことがあるよ。たくさんの人が一遍に和解して、平和になろうという機械だ。」
 「そうよ。そんな機械が欲しいのさ、で、どんなものなの?」
 「時空の歪みを利用してブラックホールへ繋がる箱を作り、そこへ地上にある全ての武器を放り込んで、地上から武器を無くしてしまおうと考えた。」
 「良さそうに思うけど、作らなかったの?」
 「全ての武器を無くすのは無理なんだな。地上には石もあれば棒もある。それらが武器になる。さらに、車だって強力な武器だし、飛行機なんかにいたっては大量破壊兵器になってしまう。戦争したいと思う人間がいる以上、それでは世界平和は無理だな。」
  「もっと他に、良いアイデアの機械は無いの?」
 「まあ、機械で世界平和を実現するのは無理だわな。世界平和は、戦争をしないという国際的なシステムを作る以外に無かろう。国際的な紛争を武力を用いずに解決できるようになって、世界から戦争が消えたなら、それが人類の本当の文明開化となる。宇宙の多くの星ではそれができてるんだがな。地球はいったいどうなるやらだ。」
     

 報告:ゑんちゅ小僧 2007.1.7


発明011 センタクボーズ

2007年04月07日 | 博士の発明

 先日土曜日の夕方のこと、門の前で偶然会ったシバイサー博士と一緒にユクレー屋へ入ったら、ドアの傍にユーナがいて、
 「あっ、博士、ちょうどいいところに来た。今、ケダマンに博士を呼びに行かせようかと思っていたところさあ。」と博士の顔を見るなり言った。
 「なんだ、何か用があったか?」
 「洗濯機が壊れたのさ。」
 「え?あの洗濯機はまだそう古くはなかろう。どうしたんだ?」
 「ケダマンが壊したのさ。このバカ、洗濯機の中に入って体を洗おうとしたのさ。」
 「ほう、ということは、たぶんモーターが焼けたんだな。」
 「直らないの?」
 「うーん、難しいな。新しいのに代えたらどうだ。」
 「村の人に訊いたけど新しいのは無いんだってさ。」
 「そうか、じゃあ、ジラースーに頼んでおくよ。」
 「頼んでおくって、いつになるの?」
 「うん、一週間後、来週末になるだろうな。」
 「えーっ、そんなに待てないよ。」
 「手で洗えばいいじゃないか。」とケダマンが口を挟む。
 「バカ!誰のせいだと思ってるの。ぶつよ!」
 「おー、手で洗うで思い出した。いい機械があるよ。ずいぶん前に発明した物だが。」
 「えっ、それ、どんな機械なんですか?」と私。
 「洗濯坊主という名前で、いわば全自動手洗い洗濯機だ。優れもんだぞ。」
 「全自動という言葉と、手洗いという言葉が矛盾するみたいですが?」
 「洗濯機がまだ普及していない頃に作ったものだ。体が洗濯板になっていて、手が付いていて、自分で洗濯物を取り、自分で石鹸をつけ、ゴシゴシ洗い、すすいで、しぼって、そして、干すまでの一通りのことをやるロボットだ。全自動に間違いない。」
 「ほう、いいじゃないですか。昔懐かしの洗濯風景じゃないですか。」
 「博士、それでいいから、新しい洗濯機が来るまで貸して。」とユーナ。
 「あー、いいよ。ちょっと待ってなさい。」と言って博士は研究所へ行き、暫くして戻ってきた。手にはロボットでは無く、小さなリモコンのようなものを持っていた。
 「えっ、そんな小さなものなの?」とユーナ。
 「これは洗濯坊主を操作するリモコンだ。洗濯して欲しい時にこれで呼ぶ。呼ぶと飛んでくる。センタクボーズはゾーリに乗ってやってくる。」
 「草履?」と、ユーナ、ケダマン、私の三人が同時に発声する。
 「おう、ゴムでできた大きな島ゾーリだ。空飛ぶゾーリも私の発明だ。」と言いながら博士がリモコンを操作すると、暫く経って、黄色いゴムゾーリが飛んできた。ゾーリは、大きな声で歌を響かせながらやってきた。
 ♪ナンクルでー ナンクルでー ナンクルやるでー♪
 ♪溜まった洗濯 やってやるぜー ヘイ♪
ウチナーンチュにしか判らない言葉がある。博士の作詞なのであろう。

  ゾーリが我々の目の前で止まった。ゾーリの上には高さ1メートルくらいのロボットがいる。お腹が洗濯板で、全体にはテルテル坊主みたいな形をしている。テルテル坊主は何十年も倉庫に眠っていたせいか、薄汚れていた。
 「ユーナ、これなんだが、これ自体、ちょっと洗濯が必要みたいだな。」
 「汚れているのはいいんだけど、それ、ちゃんと動くの?」
 「うん、何十年ぶりだからな。試してみるか。」と博士は言い、風呂場へ行き。たらいに洗濯物を3、4枚入れて、石鹸を用意して、さらにリモコンを操作する。センタクボーズは動いた。蛇口を回し、たらいに水を入れ、ウフオバーのパンツ1枚を手に取り、石鹸をつけて、ゴシゴシ洗い始めた。
     
  「いいですね、ちゃんと動きますね。」
 「ヘッ、ヘッ、ヘッ、」と博士は笑い、どんなもんだいといった顔をする。ところが、いつまで経ってもセンタクボーズはゴシゴシを止めない。同じパンツをずっと洗い続けている。このままだとパンツが擦り切れてしまいそうな気配である。
 「博士、オバーのパンツ、このままだとボロキレになりますよ。」
 「おっ、そうだな、オバーに怒られるな」と博士は言い、センタクボーズを止めた。
 「うーん、やはり何十年ぶりだと、どっか故障してるんだな。あんまり古いから、どんな仕組みなのかも忘れているから直すのも面倒そうだな。ユーナ、諦めてくれ。」
 「えーっ、じゃあ来週まで私たちの洗濯、どーすんのさー。」
 「センタクボーズの洗濯板は使えるから、ケダマンに手洗いさせたらどうだ。」
 「あっ、そうか、それがいいね、そうしようっと。」とユーナは言い、ケダマンを見る。すると、ケダマンは、すーっと玄関へ行き、ドアを開けた。
 「こら!待てっ!どこ行くの!?」とユーナが叫ぶ。
 「もうすぐ今年も終わるぜ。嫌なことは忘れようぜ。俺はこれから山へ行って猟をしてくるよ。来年はイノシシ年だ。イノシシ鍋でもしようぜ。今日は宴会だ。」と言いながらケダマンは外へ出た。大きな声で歌を歌いながら飛んでいった。
 ♪ジャングルで ジャングルで ジャングルで会うで 猟のイノシシ 首絞めて♪
 ♪ジャングルで ジャングルで ジャングルで酔うで 今日は楽しい 牡丹鍋♪
 「バカヤロウ!戻ってきたら、お前の首を絞めてやる!」とユーナが叫んだが、ケダマンはそれを全く無視するかのように、フワフワと空を飛んで、森へ消えた。
     

 報告:ゑんちゅ小僧 2006.12.11


発明010 空飛ぶ牛タン

2007年04月07日 | 博士の発明

 ケダマンとユーナと私の三人でハテルマ島の旅へ出かけた。であったが、ケダマンのスピードがいつもより遅く、2時間ほど空を飛んでも辺りに島影は見えない。
 「今、どの辺なの?ハテルマまであとどれくらいかかるの?」(ユーナ)
 「・・・」(ケダマン)
 「いつもより飛ぶスピードが遅いみたいだけど?」(ゑんちゅ)
 「・・・」(ケダマン)
 「海と空しか見えないよ。どこを飛んでるの?」(ユーナ)
 「・・・」(ケダマン)
 「方向は合ってるの?ミヤコ島らしきものも見えなかったけど?」(ゑんちゅ)
 「うっせーなあ。」とケダマンがやっと口を開いた。「オメェら、重力のコントロールができないだろう。二人も乗せてると重いんだ。それに、今日は風向きが良くない。ヤエヤマ方面へは真っ直ぐ向かえないんだ。ハテルマまで後3、4時間はかかる。」
 3、4時間は予想外だった。日帰りは難しくなった。ハテルマで一泊することになりそうだ。ただ、それほど長い時間では無い。天気は良いし、風も涼しい。空の散歩をのんびり楽しめば良い。と、私は思ったのだが、
 「帰ろ。」とユーナが言う。
 「えっ、ここまで来て、何で?」と私。
 「トイレ行きたい。」(ユーナ)
 「我慢しろよ。」(ケダマン)
 「あと3、4時間なんて我慢できないよ。」
 「うんこか、しっこか?」
 「バカ!しっこよ。」
 「なら、空に向かってやりゃあいいじゃないか。」
 「アホッ、できるわけ無いじゃない!」
 などということがあって、結局、その日は途中で引き返すことになった。

 それから数日後、シバイサー博士の研究所で、博士とユンタク(おしゃべり)していると、ユーナ君とケダマンがやってきた。
 「博士、自分で自由に空を飛んでみたい。そんな機械作ってくれない?」(ユーナ)
 「ほう、ケダマンの背中は嫌か?」(博士)
 「ううん、ケダマンの毛はフワフワして気持ち良いんだけどさ。一人で好きな時に、好きな所へ行けたらいいなあと思ったのさ。作れない?」
 「それなら作るまでも無い。だいぶ前だが、既に発明したものがあるよ。」と博士は言って、倉庫へ行き、しばらくして、小さなサーフボードのようなものを持ってきた。サーフボードと違うのは、厚みがあるのと、牛の顔みたいのが描いてあるのと、全体がプヨプ
ヨして、グニャグニャして、フニャフニャしていて、柔らかそうであること。
 「何ですか、それ?」と私が訊いた。
 「名前を『空飛ぶ牛タン』と言う。牛の舌のような形をしていてるからだが、性能は優れている。フワフワと宙に浮いて、滑るようにして空を飛ぶ。」
 「どうやって飛ぶの?」(ユーナ)
 「動物の舌と同じで、全体にくまなくセンサーが付いている。地球の引力や磁力を感じるセンサーがあり、それによって空を飛ぶことができる。また、乗る人の重力を感じるセンサーも付いていて、体重の移動を感じて進む方向と速さが決まる。」
  「いい!それ完璧!ちょうだい。」とユーナが破顔して、『牛タン』に飛びつく。その時、それまで黙っていたケダマンが口を出した。
 「博士、それ、上に乗っかるだけか?空の上で足を踏み外したらどうなる?」
 「そりゃあ落ちるな。私も何度か乗ってみたが、バランスを取るのが難しくてな。何度も落ちたよ。乗りこなすには相当の訓練が必要だな。面倒なので私は諦めたが。」
 「なんだってよ。ユーナ、どうする?乗ってみるか?」
 「難しいの?」
 「うーん、難しいみたいだな。ジラースーでさえ乗りこなせなかったな。空の高い場所は気流の乱れがあって、そこでバランス取るのは至難の業って言ってたわ。実は、そんなわけで、この発明もお蔵入りとなったんだがな。」 
 「ユーナ、試してみれば?まあ、落ちたらお終ぇだがな。はっ、はっ、はっ。」
 もちろん、賢いユーナは、そんなケダマンの挑発に乗ることは無かった。
 「もう!役に立たない発明ばっかりして!」とふくれっ面するユーナに、
 「改良してみるわ。」と博士は約束したのだが、自信なさげであった。というわけで、ユーナ君の自由に空を飛びたい夢はしばらく延期となったのであった。
     

 報告:ゑんちゅ小僧 2006.11.13