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ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

発明019 できたてのモヤモヤ

2007年08月17日 | 博士の発明

 珍しく週末、それも暗くなってからシバイサー博士がユクレー屋にやってきた。カウンターのケダマンの隣の、私の隣に腰を下ろしながら、
 「ユーナ、ビールくれ。」と声をかけた。
 「あれ、博士、マナがいないって知ってたんですか?」と訊く。
 「あー、マナは私のところでボーっとしているよ。」
 「ほう、そりゃあまた、何で?」とケダマン。
 「何か随分沈んだ顔をしていたからな、あんまり思い詰めると脳汁が出てしまうぜと脳汁節を歌ってやったんだ。実際に脳汁を出しながらだ。そしたら、余計モヤモヤしてきたと言うもんでな、モヤモヤ吸取り機にかけた。で、今、自分の脳から出たできたてのモヤモヤを眺めながらボーっとしている。これからどうするかを考えているのだろう。」
 「脳汁節って何?」とユーナが訊いたので、博士がここでも歌った。
 「目から鼻から耳から口からん、あね、汁ぬ出(いじ)ん、脳汁ぬ出(いじ)ん・・・(以下略)。」と歌いながら、博士はここでも脳汁を出した。
「うげっ、止めてよ!気持ち悪い。」とユーナは言うが早いか、手に持っていた布巾を博士の顔めがけて投げつけた。その布巾で、目鼻耳口から出た脳汁を拭きながら、
 「えっ、そんなに気持ち悪いか?・・・うーん、そうか、そんじゃあマナも、気分が悪くてボーっとしているのかもしらんなあ。」と博士は言う。しかし脳汁節、私は興味を持った。面白いと思った。ケダマンも私と同感のようで、
 「博士、その歌、博士が作ったのか?面白れぇな。もっと聞かしてくれ。」
 「いや、ガジ丸の作詞作曲だ。私はさっき歌った触りの箇所しか知らない。」
 「どんな内容の歌かは覚えていますか?」(私)
 「うーん、もう何年も前に聴いただけだからなあ、はっきりは覚えていないが、あんまり思い悩むと脳汁が出るって歌だったと思う。詳しくはガジ丸本人に聞いてくれ。」

 などと我々が会話している中を、ユーナが割って入った。
 「いいよもう、そんな気味悪い歌の話は。それよりさ、マナが使ったっていうモヤモヤ吸取り機って何よ。できたてのモヤモヤって何なのさ?」
 それについては私も興味がある。
 「何なんですか博士、モヤモヤ吸取り機って?」とユーナに続けて訊く。
 「思い悩んでいることを脳から吸い出す機械だ。」
 「何の役に立つの、それ?」とユーナは訊くが、聞かなくともマジムン(魔物)の私には大体解る。同じくマジムンであるケダマンも解っているようで、
 「人間の悩みなんてのはな、たいてい大したこたぁ無ぇんだ。死んでしまいたいと思うほどの悩みでもな、客観的に見れば屁みたいなもんなんだ。だからよ、思い悩んでることを吸い出して、それを外から眺めてみようってこった。な、博士。」
 「その通り。」
 「ふーん、そうなんだ。で、吸い出した悩みって、どんな形してるの?」(ユーナ)
 「モヤモヤしている。だから、モヤモヤ吸取り機なんだ。」(博士)

  博士によると、一つの悩みは、たいてい一つのモヤモヤとして出てくる。そのモヤモヤは、たいてい一本の糸がぐちゃぐちゃに絡み合ったようにして出てくる。ぐちゃぐちゃに絡み合ったものを丁寧に解いていけば、その悩みの正体が明白になり、すっきり解決できるのだが、あまりにもぐちゃぐちゃしているので、たいていは解くのを諦める。で、さっぱりきっぱり、思い悩んでいたことを忘れてしまうというわけらしい。
 「じゃ、つまりさ、思い悩むってことはさ、ぐちゃぐちゃに絡み合った糸を解こうとする作業ってことなの?そりゃあちょっと面倒臭そうだね。」(ユーナ)
 「そう、その通り。」(博士)

 などという話題を中心に、ユーナが帰ってきた日、マナがいないままのユクレー屋の夜は更けていったのであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2007.8.17


発明018 ゴリコのお菓子

2007年07月20日 | 博士の発明

 マナとジラースーの仲がどうなるかに興味がいって、ここしばらく、シバイサー博士のことをすっかり忘れていた。ユクレー屋に行くのは、博士は主に平日、私は主に週末なので、そこで会うことは滅多に無い。よって、この間、私は博士に会っていない。今どんな発明をしているのか、ふと気になって、先日、久々に博士の研究所を訪ねた。

 研究所へは一本道、木立を抜けると約50m前から研究所が見える。その日、私はとても珍しい光景を見た。あの、シバイサー博士が建物の周りを走っているのだ。博士とは何十年という長い付き合いだが、博士が走っている、のを私は初めて見た。
 博士は建物の周りを回っている。私が建物の敷地内に入った時、博士は玄関前を通り過ぎたところ。それは、私が50m歩いてきた間で2度目の後姿であった。建物1周は5、60m位なので、博士は、私が歩くのと同じ程度の速さで走っているわけだ。
 博士が走っている理由は判った。博士の少し前を何か小さな子供らしきものが走っていて、博士はどうも、それを追いかけているみたいであった。しばらく待っていると、何か小さな子供らしきものが右手から現れた。スカートを履いているので女の子のようであったが、顔は、人間の顔とはちょっと違う。彼女は、私に気付いて立ち止まった。

 「やあ、こんにちわ。」と私は彼女に声をかけた。彼女は全く怖がる様子も無く、私に近付いてきた。顔はサル、またはゴリラに近いが、人間に見えないことも無い。
 「だれ?博士の友達?」と訊く。言葉もちゃんとしゃべれる。
 「うん、そう。ゑんちゅ小僧っていうんだ。君の名前は?」
 「私はゴリコ。」
 「そうか、ゴリコちゃんっていうんだ。よろしくね。ところで、君も博士の友達なの?一緒に遊んでいたように見えたけど。」
 「うん、遊んでいたよ。追いかけっこしていた。博士、トロイんだよ。」
 「うーん、トロイか。そうだね。博士は走るのに慣れていないからね。」
 などと話している内に、博士が姿を見せた。走っているのか歩いているのか判らないような動作で、のたのたとこっちに近付いてくる。私に気付く。
 「やー、君か。久しぶりだな。」動作はのたのただが、息は切らしていない。博士もマジムン(魔物)なのである。体はそのようにできている。

 「博士、何だか楽しそうですね。童心に返って鬼ごっこですか?」
 「楽しい?・・・楽しかぁないよ。遊び相手をしているだけだ。子供は遊んで成長するんだ。だから。大人は遊び相手をする義務があるんだ。」
 「なるほど、確かに。ところで、この子、初めて見ますが、どこの子なんです?」
 「あー、他所の星の子だ。2、3週間前にガジ丸が連れて来た。」

 博士がガジ丸から聞いたところによると、その星の進化は、ゴリラのような外見の動物が知的生命体となって、発展した。彼らは元より好戦的で、よって、その星は争いの絶えない星であった。ガジ丸が立ち寄った頃、とうとう自分たち自身を絶滅させかねない大戦争となったらしい。たまたまそこで、ガジ丸はゴリコと知り合って、仲良くなって、彼女が天涯孤独であることを知って、で、地球に連れて来たとのことである。

 「で、毎日、子供の遊び相手をしてるってわけですか。大変ですね。」
 「うん、まあ、しかし、チシャやユーナが子供のときも、私は彼らの遊び相手をしていたからな。全く慣れていないわけでもないんだ。気疲れはするがな。いやいや、それよりもな。この子のお陰で発明のアイデアが浮かんだんだ。」
 「ほう、それは良かったですね。で、どんなアイデアなんです?」
 「君は、ゴリエって知ってるか?」
 「ゴリエって、沖縄出身の漫才師がやっていたキャラクターのゴリエですか?」
 「そう、それ。面白いキャラクターだったが、いつの間にか消えたな。」
 「はい、いつの間にか消えましたね、残念ながら。で、そのゴリエが?」
 「あー、そのゴリエにだな、子供ができた。ゴリエの子供だからゴリコって名前だ。安易だが。ゴリエは、アフリカに住むマウンテンゴリラのボスと結婚した。できた子供がゴリコってわけだ。実際はそうでは無いが、そういうことにしておく。」
 「はい、そういうことにしておきましょう。で?」
 「で、ゴリコは、体はゴリラの血を引き大きく、強く、頭は人間の血を引き、とても賢い。そんで、ゴリコの名前を付けたお菓子を販売するのだ。たとえば、ゴリコキャラメルなんてのを作る。ゴリコキャラメルは一粒で1キロメートル飛べるほど元気の出るお菓子として売り出す。どうだ、良いアイデアとは思わんか?」
 「博士、お言葉ですが、ゴリコキャラメルって、それってきっと、著作権法違反になると思いますよ。中国の偽ブランドみたいですよ。」

  博士は一瞬キョトンという顔をしたが、また、すぐに話を続ける。
 「ゴリコは人間の子供に比べとても大きい。マウンテンゴリラの子供だから当然大きいのだが、その中でも、まるで突然変異したかのように大きい。そのゴリコの名前をつけたお菓子も、彼女に合わせて当然大きくなるのだ。たとえば、オッキーという名前の菓子は細長い棒の形をしたクッキーであるが、それは長さ50センチほどもある。とても大きなクッキーなのでオッキーという名前だ。ゴリコのオッキーだ。」
 「博士!」と私は博士の目を覚ますようにちょっと大きな声を出す。「博士!それって著作権法違反になると思いますよ。グリコのポッキーの偽物ですよ。」
 博士は再びキョトンという顔をしたが、今度は、私の言っていることがちゃんと耳に届き、理解できたらしい。しばらく沈黙した後、
 「グリコのポッキーね、そういえば、そんなのあったな。」と呟いた。

 というわけで、博士の久々の発明アイデア、ゴリコのオッキーは日の目を見ることは無かった。お菓子はそうだが、生身のゴリコは以降、ユクレー島の仲間となる。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2007.7.20


発明017 42半ジャーと万事急須

2007年05月18日 | 博士の発明

 先日のチャントセントビーチでのキャンプでガジ丸が持ってきたウルトラの米が、その後もしばらく話題となった。ガジ丸によると、あと5、6粒は残っているらしい。
 ウルトラの米を炊いて、三角に切って、握らないお握りにして、それをユクレー屋のメニューにすれば、話題になって楽しかろうとマナが考え、ある日、
 「ねぇ、ウルトラの米を炊ける大きなジャーができないか博士に訊いてきて。」と、いつものようにカウンターで飲んでいた私とケダマンに頼んだ。ウルトラの米が炊ける大きなジャーがあれば、世界中の飢餓に苦しむ人々にも朗報となる。私も興味がある。ということで、翌日の昼後、ケダマンと二人で博士の研究所を訪ねた。

 「大きなジャー、それなら既にあるよ。」と博士は我々の問いに答えた。
 「えっ、それって、ウルトラの米用に作ったんですか?」(私)
 「いや、ウルトラの米って、私もこのあいだ初めて見たばかりだ。それ用ってわけじゃない。何年か前に、店に来る客がいつでもお茶が飲めるよう、一日に使う十分の量が沸かせる大きな魔法瓶を作って、とウフオバーに頼まれて作った。」
 「あー、ジャーって炊飯器のことじゃなくて、魔法瓶のことですか。そういえば、魔法瓶のこともジャーって言いますね。」
 「そうジャー。」
 「ちゃん、ちゃん、って、話のオチがついて、おしまい。」(ケダマン)
 「いやいや、駄洒落は私のクセだ。そのジャーで米は炊けないか?」
 「大きなって、どのくらい大きいんですか?」(私)
 「42リットル半の容量がある。」
 「ほう、それだけあれば、もしかしたらウルトラ米1粒を炊けるかもしれないですね。それにしても、何ですか、42リットル半って中途半端な数字は?」
 「そのジャー、名前を42半ジャーと書き、シニハンジャーと言う。ウチナーンチュなら解ると思うが、死に損なうという意味だ。死に損なうほど難儀をした時にシニハンジャーしたなどと使う。名前が先に思いついて、容量を決めたわけだ。」
 「そのジャーを使うと死ぬほどの難儀をするのですか?」
 「うん、42半ジャーはボタンを押せばお湯が出るようになっているが、そのボタンを押すのに大きな力が要る。なにせ、中には42リットル半も入っているからな。」
 「ほう、それでは、ウフオバーには辛いでしょう?」
 「あー、『何でまた、こんな大きいの。風呂に入るんじゃないからねぇ、力要るし、これだったら鍋で湯を沸かした方がはるかにましさあ』って言われたよ。」

  「それ、面白そうだな、使ってみようぜ。」とケダマンが言うので、倉庫から42半ジャーを出して、水を42リットル半入れて、沸かした。ケダマンがボタンを押した。
 「うー、博士の言うとおりだ。こりゃあ力が要るぜ。」と言い、ケダマンは全体重をかけてさらに強く、思いっ切り押した。湯が出た。湯はたっぷり出た。ケダマンが力を緩めた後もしばらく流れ出た。すぐには止まらないみたいである。
 「博士、それ、一押しで何リットルくらい出るんですか?」(私)
 「力の入れ具合で変わるが、出たと思って、さっと手を離しても最低2、3リットル、ヘタすると5、6リットルは出てしまうな。」
 「ということは、5、6リットルは入る急須が必要ですね。」
 「おー、それは抜かりが無い。別に万事急須という名の急須を作ってある。見た目は1リットルの容量も無いように見えるが、この急須、いくらでもお湯が入る。上部に異次元と繋がる穴があって、余分な湯はそこから異次元へ吐き出されるようになっている。」
 「万事休すの事態に、万事飲み込む急須ってわけだ。」(ケダマン)
 「カッ、カッ、カッ、そうじゃ、そういうことだ。」と上機嫌に笑う博士に、根が真面目な私は、ついつい余計なことを言ってしまった。
 「博士、それって水の無駄使い、電気の無駄使いと思いますが。」
 博士の顔が、笑顔から無表情に変わって、そして、ぼそっと言った。
 「ふむ、・・・そういえばそうかもな。・・・酒でも飲むか?」
     

 魔法瓶としては役に立たない42半ジャーであるが、ウルトラの米を炊く炊飯ジャーとしての道がまだ残されている。もちろん、湯を沸かすだけの魔法瓶と、米を炊く炊飯ジャーとではその目的を達する仕組みに多少の違いはあるので、そのままでは使えない。
 「よし、炊飯ジャーとして使えるよう改良してみよう。」と、酒を飲んでちょっと元気を取り戻した博士が約束してくれた。しばらくすると、「世界を飢餓から救うのジャー」という名前まで考えて、上機嫌になっていた。切り替えの速い人である。
 ウルトラの米については続きがある。これは次回の瓦版で報告する。

 記:ゑんちゅ小僧 2007.5.18


発明016 たたいまー

2007年04月27日 | 博士の発明

 シバイサー博士の研究所へ行くと、ジラースーが来ていた。研究室兼作業場としている部屋で、二人で飲んでいた。海に面した窓から月明かりが射していた。
 「やあ、二人で月見酒ですか?」
 「うん、あー、君もどうだ?」(博士)
 「はい、頂きましょう。」と私はコップを持って、二人の傍に腰掛けた。
 「ユーナには会ったか?」(ジラースー)
 「ユーナも来てるの?まだ、見てないけど。」
 「うん、ゴールデンウィークとかなんとかで、しばらくここにいるそうだ。」
 「じゃあ、ユクレー屋にいるんだな。明日にでも会うことにしよう。ところで、二人で何の話をしてたの?」」
 「俺の知り合いがな、悪い奴じゃないんだが、意志薄弱な奴でな、パチンコにのめり込んで、金を浪費して、給料の多くを使ってしまうそうなんだ。で、その女房にどうしたらいいかと相談されて、彼に意見したんだが、ちっとも聞かなくてな。それで今、博士にパチンコ依存症が治るような何か機械ができないかと相談してるんだ。」
 意志薄弱なその男は、自分の給料だけでは間に合わなくなって、サラ金から借りるまでになり、また、金を浪費するだけじゃなく、時間をも浪費して、毎日帰りが遅いのだそうだ。そのせいで、夫婦仲も険悪になっているとのこと。

 「で、博士、何か良いアイデアはあるのですか?」と訊くと、
 「あー、そうだな。」と、博士はジラースーの方を向いて、
 「前にチシャのために目覚まし時計を作ってやっただろう。時間が来たら、付属の鞭でパチパチと体を叩く奴。『めざパチ君』と名付けた奴だ。」
 「あー、それはずいぶん役に立ったよ。チシャがずっと使っていたよ。」
 「それはまだあるのか?チシャが持っていったのか?」
 「いや、チシャは早起きに慣れたからって、置いていったよ。だけど、今は無い。ユーナが来てからは朝寝坊の彼女に使わせていたんだけどさ、三日ともたなかったな。」
 「どういうこと?」(ゑんちゅ)
 「あいつ、朝は、特に起こされたりすると機嫌が悪いんだ。三日目の朝だったか、『コノヤロー、テメー、機械の癖に!』と大声がして、見に行くと、『めざパチ君』は床の上に叩きつけられたようで、ぺしゃんこになっていた。」
 「はあ、そういうのがあったんだ。で、博士、それをどうするんですか?」
 「うん、それに似たようなもんを思いついたのだ。時間が来ると叩いて注意することは一緒だが、それは目覚まし時計型では無く腕時計型となる。腕時計型といっても、手首では無く肘の上に巻く。時計板の裏に小さな突起があって、そこから電気が流れる。先の尖ったハンマーで叩かれたような痛さを感じるようにするのだ。」
 「そうか、家に着いていなければならない時間にタイマーをセットしておけばいいんですね。でも、痛かったら、すぐに外してしまわないですか?」
 「鍵が付いている。その鍵は女房が管理する。」
 「女房が外さない限り外れないってわけですか。そりゃあ効果ありそうですね。でも、何か正当な理由で遅くなった場合には困りますね。」
 「そうだな。鍵はパスワードでいいな。時間をセットして、腕に嵌めて、亭主に見られないよう女房がパスワードを入れるんだ。で、正当な理由であると女房が認めたなら、そのパスワードを亭主に教えればいいんだ。」
 「じゃあ、例えば、その男がパチンコをして、ついつい時間を忘れてタイマーがオンになったとしたら、腕を激しく叩かれるわけだ。それから慌てて家に帰ったとしても、その間はずっと叩かれ放しということだ。それはちょっと可哀想だな。」(ジラー)
 「いや、タイマーがオンになっても右手で抑えておけば電気は流れないのだ。離すとまたパチパチと叩かれるから右手は左腕を押さえたままになる。」
 「右手が使えないからパチンコもできないわけだな。」(ジラー)
  「依存症になるくらいの人なら、左手を使って続けるんじゃないですか?」
 「通っているパチンコ屋から家までの時間もまたセットしておくのだ。その時間になると、もう抑えてもパチパチは止まらなくなるようにする。」
 「それなら、もう帰らざるを得ませんね。完璧ですね。」
 「博士、それ良さそうだ。作ってくれないか。」
 「あー、作ってみよう。我ながら良いアイデアだ。」と博士は満足気に笑う。
 「よし、名前も思いついたぞ。叩くタイマーで、亭主が家に帰りたくような気持ちになるもんだからな。名前は『たたいまー』としよう。」

 そのタタイマー、アイデアは最高だったが、それが完成した頃には、件の夫婦は既に離婚してしまっていた。よって、使う人も無く。博士の倉庫に眠ったままである。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2007.4.27


発明015 ソウジマン

2007年04月13日 | 博士の発明

 先週末、いつものようにケダマンと並んでユクレー屋で飲んでいると、マナが、
 「ねぇ、この時期になるとさ、オキナワでは海開きなんてやってるけど、ユクレー島ではそんな行事無いの?」と思い出したように言った。
 「海開きって、海はいつでも開いてるよ。」(ゑんちゅ)
 「じゃなくてさ。今日から海で泳いでいいよ、って日よ。」
 「じゃあってさ。ここの海はいつでも泳いでいいってことだよ。」(ゑんちゅ)
 「海水浴の季節が来たよって日があるんだよ、オキナワには。」
 「海水温の関係だろ。泳げる温度かどうかは個人の感性に拠るだろ。そんなの、役所が決めることじゃないだろ。個人に任せればいいんだ。」(ケダマン)
 「水温はその年によって違うからさ、泳げる温度かどうかじゃないのさ。初めに日を決めて、その日に向けて浜を掃除して、海水浴の季節になったぞーって日なのさ。」
 「役所が泳いでいい季節だよって言わないと、泳いでいいかどうか判らなくなっているのか、今時のウチナーンチュは?」(ケダ)
 「分らない人、いや、マジムンだねぇ。儀式なのさ。だから、掃除もするのさ。」
 「あー、なるほど、掃除をしなくちゃあ泳げない海なんだ。」(ケダ)
 「そういうわけでも無いけどさ。まあ、ちょっとは必要だね。・・・あー、そういわれれば、この島の海や浜はいつでもきれいだね。」
 「あー、そういえば、オキナワの海は、海の中も泥やゴミが溜まっているが、浜はだいぶ汚れているよな。ゴミが散らかってるよな。」(ケダ)
 「そうなんだよ。だから掃除が必要なんだよ。あっ、だからさ、何でここの海はいつもきれいなの?いつも村の誰かが掃除してるの?」
 「まあ、先ず、汚す人がいないからだろ。」(ケダ)
 「うん、それも確かにあるけど、村の人が汚さなくたって、ゴミは海から流れてくるから、放っておくとユクレー島の浜も汚くなってしまう。」(ゑんちゅ)
 「あー、じゃあ、やっぱり村の誰かが掃除してるんだ。」
 「そ、」と私が言いかけたら、ケダマンが横から口を出した。
 「あっ、思い出した。俺知ってるぜ。博士の発明したロボットがあったんだ。確か、ソウジマンって名前だった。実物は見たこと無いが、昔、博士から話は聞いた。浜辺を掃除するロボットだ。ちゃんとゴミの分別もしてくれる優れモンらしいぞ。」
 「あー、そうなんだ。そのロボットが密かに掃除してるわけね。」

 ソウジマンについては、私もだいぶ前に博士から話を聞いている。室内を大掃除する大掃除機スップルの発明よりもずっと旧い発明品である。ソウジマンは室内で無く、浜辺を専門に掃除するロボット。ケダマンの言う通りちゃんとゴミの分別もしてくれる。分別は生ゴミ、燃えるゴミ、プラスチック類、金属類、ガラス類などを認識するらしい。そこまで聞くと、確かに優れモンである。その時の博士も自慢げに語っていた。
  「これ一台あれば、この島の浜はいつでもきれいだ。太陽電池で動き、分別してくれるので環境にも良い。浜がきれいになって、環境に良くて、私は私のノウジマン(脳自慢)ができる。掃除機は三文の得ってわけだ。ハッ、ハッ、ハッ」と高笑いした。
 「博士、掃除機は三文の得って、正直は三文の得のシャレですか?でも、それ違いますよ。早起きは三文の得ですよ。」と私が真面目に言うと、
 「あー、そうだったっけか。まあ、そう細かいこと言いなさんな。」とまた笑う。

 ところが、その後、このソウジマンが島の浜辺で活躍しているのを私は見なかったし、そんな噂も聞かなかった。後になって、村の人に話を聞いたところ、
 「あー、あれ。あれはダメですよ。物の分別はちゃんとやるんですが、その物がゴミなのかそうでないのかを分別することができないですね。浜辺に置いてある必要なもの、例えば、海水浴や釣で使う道具、ボートを繋ぎとめる杭なんかも、ゴミと一緒にしてしまうんですね。我々はバカ掃除機と呼んでましたよ。」
 元々、ユクレー島の浜辺は、汚す人がいないし、村の人たちがいつもきれいにしているから、ソウジマンの必要もあまり無かったみたいである。数日後には、博士にソウジマンの撤去を村人たちが要請したとのことである。
 掃除機もバカ正直だと、損をする、ことになるのであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2007.4.3