風涼しく、気温穏やか、空は晴れて良い散歩日和だ。夕方までの1、2時間ブラブラしようと、村はずれの海岸に出て、浜伝いにシバイサー博士の研究所に向かって歩く。
ユクレー屋が近くにある浜辺まで来た時、ケダマンを見つけた。将来に不安の無い日向の猫のように砂浜に寝っ転がっていた。声をかける。
「やー、何してるんだ?」
「おー、ご覧の通りボケーっとしている。」
「ボケーっとするんだったら、店で酒飲みながらの方がいいんじゃないか?」
「まー、そりゃあそうだが、あそこは今、ちょっと熱過ぎる。」
「何だい、熱過ぎるって?」
「ジラースーが来てるんだよ。マナと二人で仲良く料理をしてるんだ。二人のやり取りがよ、少々熱過ぎて、居心地悪いんだよ。」
「そうか、二人は仲良くやってるのか。いいことじゃないか。」
「そうかぁ?60過ぎのオジーと40前のオバサンだぜ。そのオバサンがちょっと鼻にかかった甘えた声を出したりするんだぜ。気持ち悪いったらありゃしないぜ。」
「まあ、そう妬みなさんな。ところでさ、こんなところでゴロゴロしているくらいなら一緒にシバイサー博士のところへ行かないか?博士とちょっとユンタク(おしゃべり)して、それからユクレー屋に向かえば、ちょうど良い宵時になるんじゃないか?」
「うーん、そうだな。・・・そうするか。」
ということで、二人でシバイサー研究所へ向かった。
博士は在宅であった。ゴリコとガジポも在宅であった。一人と一匹の遊び相手をケダマンに任せて、私は博士としばしユンタク。
「もうすぐ夕暮れという時間に、君らがユクレー屋にいないなんて珍しいことじゃないのか?いつもならもう飲んでいる時間じゃないのか?」
「まあ、そうなんですが、ケダマンによると、ユクレー屋は今熱いらしくて、居心地が悪いんだそうです。」
「熱い?・・・何でだ?」
「ジラースーが来ていて、マナと二人で仲良く料理をしているらしいです。その場面が熱くて、居た堪れないんだそうです。」
「ほほう、そうか、二人は熱いか。」と博士は言って、何か思い出したようだ。
「そうか、二人は熱いか。そりゃあケダマンも落ち着いて酒が飲めないわな。そうかそうか、ヘッ、ヘッ、ヘッ。」と博士は笑いながら席を立った。倉庫の方へ行く。そして、すぐに戻って来た。手に小さな水筒のようなものを持っている。
「何ですか、博士、それ?」
「うん、名前はホット君と言う。」
「ホット君ですか、ポットの洒落ですね?」
「君もまだまだだな。駄洒落道の奥深さを知らんとみえる。確かに、これはポットの形をしているが、ポットの駄洒落だけというわけでは無い。」
博士によると、このホット君を熱々カップルの傍に置いておくと、その熱々波動をホット君が感じて、中の水が暖められ、熱々の度合いが大きいとお湯にまでなるとのこと。
「それだけのことですか、博士?」
「それだけって、電気を使わずにお湯が沸かせるんだぞ、たいした省エネだ。」
「いや、それはそうなんですが、熱々カップルの傍で、居心地が悪くて、落ち着いて酒が飲めないケダマンのような者には何の役にも立たないような気がしますが?」
「熱々カップルのことは無視しなさいということだ。他人のイチャイチャなんぞ気にしなさんなという意味を、これは持っている。ホットクンダ。分るか?」
「???・・・ホットクンダ?」
「そうだ、放っとくんだ。どうだ、カッ、カッ、カッ。」博士は得意げに笑った。
博士の言う「駄洒落道の奥深さ」というのは、そのことかと気付いたのだが、私にはそれが奥深いものとはあまり感じられなかった。「ただのオヤジギャグじゃないの。」と思った。が、それを顔には出さず、「あーそうなんですね、はっ、はっ、はっ。」と愛想笑いをして、さっさとおいとますることにした。早くビールが飲みたくなった。
記:ゑんちゅ小僧 2008.4.25