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ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

発明029 先生、出便です

2008年09月19日 | 博士の発明

 金曜日の昼下がり、散歩に出る。陽射しはまだ暑いが、風は秋風だ。今年は例年に無く秋が早い。澄んだ空気が爽やか。何だかとても幸せな気分になる。
 村の中を一回りしてから浜辺へ出る。海岸沿いを歩いて、シバイサー博士の研究所に向かう。波は穏やかで、潮の匂いも優しい。良い時間だ。研究所まであと数分という所で木陰に入った。マツの木の根元、良い時間を、しばし味わうことにした。
 眠気が襲った。で、しばらくまどろんでいたら突然、「おい!」と声がした。目を開けると、目の前に大きな顔があった。この世のものとは思えぬ顔だったので、びっくりして飛び起きてしまった。博士の顔は、確かにこの世のものでは無いのだが、至近距離で見るとやはり、「わっ!」となってしまう。どこかしら迫力がある。

 「やっ、やー、博士。突然ですね。」
 「あー、突然かもしれないが、そんなに驚くことは無かろう。」
 「えっ、いや、急に起こされたので吃驚しただけです。」
 「ふーん、そうか。で、何してたんだ、こんな所で、こんな時間に?」
 「いえ、これから博士の所へ行こうとしてたんです、その前にちょっと昼寝を。」
 「そうだな、この気候は昼寝に最適だからな。気持ちはわかるぞ。私も、君の寝ている姿を見たら、一緒に寝たいと思ったくらいだ。」
 「ですよね、ホントに良い気候ですよね。ところで、博士はどちらへ?」
 「ユクレー屋だ。行こうとして、ふと海岸を見たら、君が寝ていたのだ。」
 「そうですか、ユクレー屋ですか。何しに・・・」と言いかけて、博士が手に荷物をもっていることに、私はやっと気付いた。
 「博士、それ、何ですか?何か発明品ですか?」
 「おう、その通りだ。よく判ったな。シャーロックホームズか、君は。」

 博士は自慢したがり屋である。その博士がわざわざユクレー屋へ行く。手に荷物を持っている。その荷物が発明品であることはシャーロックホームズじゃなくても、だいたい想像できる。ユクレー屋で、皆を前に発明品を見せて、「どうじゃ!」とふんぞり返って、高笑いしている博士の顔だって、私は容易に目に浮かぶ。
 「どういった発明なんですか?・・・あっ、それとも、ユクレー屋に行って、皆の前で発表したほうがいいですか?」
 「ん?・・・構わんぞ、君なら、先に見せても。」
 博士が持っている荷物は、百科事典1巻ほどの大きさのバッグ。それを開けて、中から少し厚みのある、チャンピオンベルトのようなものを取り出した。
 「何ですかそれ?チャンピオンベルトみたいですね。」
 「ベルトには相違無い。チャンピオンについても、ある意味当たっている。」と、博士は前置きして、その発明品について語った。

 「これは、まあ、早く言えば便秘の薬だ。もう少し正確に言うと、便秘の人に排便を促すような運動をしてくれる機械だ。使い方はベルトと同じ、腰に巻きつける。スイッチを入れると背中とお腹が波打つような運動をする。背中とお腹のマッサージ機のようなものだ。で、便意をもよおすってわけだ。名付けて『安産機』と言う。」
 「博士、排便を促すってことは解りますが、なぜそれが『安産機』なんですか?」
 「子供を産むというのはどんな感覚か?と、まあ、女では無いが元人間のケダマンに訊いたのだ。そしたら、『うんこ出すみたいなもんじゃないか』って言うから、こういうのを作ってみたわけだ。そろそろ産まれそうだという時にこれを使えば、すぐに産まれるので、医者の出番がすぐに来る。子供を出すついでに便も出る。というわけで、またの名を『先生、出便です』と言う。どうだ、なかなか面白いだろう。カッ、カッ、カッ。」と高笑いする博士であったが、その笑いが収まった後、私はきっぱりと言った。
  「マナへのプレゼントでしょうが、博士、それきっと、便秘の人には良いかもしれませんが、出産にはいかがなものかと思います。だいたい、訊く相手が間違ってますよ。男には産む感覚なんて解りませんよ。マナも喜ばないと思います。むしろ、『子を産むことはうんこ出すみたいなもん』なんて言ったら、きっと殴られますよ。」

 私の意見は正しいと思う。博士もしばらく考えて、
 「そうか、うーん、そうなるか、確かに、良く考えるとそうかもな。」となった。
 ということで、せっかくの発明品であったが、博士はユクレー屋に行く予定を変え、研究所へ戻った。『安産機』、またの名『先生、出便です』は皆に披露されることなく、研究所の倉庫へ仕舞われることになりそうだ。「マナに殴られるのは嫌だしな。」と言い残して去っていった博士の後姿は、よくあることだが、淋しげであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.9.19


発明028 クラスター楽団

2008年08月29日 | 博士の発明

 午後、シバイサー博士の研究所を訪ねた。旧盆の日にも行っているので2週間ぶり。前回熟睡中であった博士は、今回もまた熟睡中であった。ために、話を聞くことができず、ゴリコとガジポがいれば、その遊び相手をしてやろうと思ったが、彼らもまた、お昼寝中であった。よって、何の収穫も無いまま帰ることになった。
 ユクレー屋に向かう。海岸沿いを散歩しながら、のんびり行ったのだが、夕方にはまだ間がある時刻に着いてしまった。まだ厳しさの残る陽射しの中、歩いている間も時折聞こえていたが、ユクレー屋の庭でも聞こえた。夏の終わりを告げるジーワが鳴いていた。

 「もう8月も終わりだね、ジーワが鳴いてるね。」(私)
 「ジーワって、今鳴いているセミのこと?」(マナ)
 「あー、そうだ。和名ではクロイワツクツクという。」(ケダ)
 「夏の終わりを告げるセミだよ。」(私)
 「うん、そういえば、夏休みの終わりが来たって感じがする。」(マナ)

 などという会話から始まって、いつものようにビールとなる。それからしばらくして、もうすぐ夕陽が沈もうかという頃に、珍しくシバイサー博士がやってきた。

 「やー、博士、週末のこんな時間に珍しいな。」(ケダ)
 「何か新しい発明はありませんか?って訊きに来る奴が最近姿を見せないんでな、しょうがなく、自ら姿を現したというわけだ。」
 「って、私のことですか?私なら今日も行ったんですよ。寝てる博士を起こさなかっただけです。それにしても、わざわざ来たってことは何か発明したんですね?」(私)
 「その通り。これだ。」と、博士は手に持っていた物体をカウンターの上に置いた。それは見た目、ミサイルのような形で、50センチほどのものだった。
 「何ですか、これ?」(私)
 「ユーナが喜びそうなものを作った。彼女が帰ってしまったのは残念だが、まあ、誰が見ても面白いと感じるものだ。簡単に言うと爆弾だ。」
 「爆弾?って、ドカーンの爆弾?危なくないの?」(マナ)
 「そう、ドカーンの爆弾。しかも、あの悪名高きクラスター爆弾を真似たものだ。ではあるが、ちっとも危なくない。むしろ、愉快な爆弾だ。」
 「危なくは無いんだ。なら、いいね。で、さ、その悪名高きクラスター爆弾っていったい何なの?原爆みたいな怖いものなの?」(マナ)
 「大きな爆弾から小さな子爆弾が大量に飛び散って、無差別殺傷できる爆弾さ。非人道的と言われている。なわけで、確か、今年の5月に禁止条約が締結されたよ。」(私)
 「そんなものが実際に使われていたの?」(マナ)
 「あちこちの戦場でたくさん使われたみたいだよ。その子爆弾には不発弾も多くてね、第二の地雷とも呼ばれてるんだ。それによる悲劇も多いみたいだ。平和国家である日本の自衛隊も大量のクラスター爆弾を所有しているそうだよ。」(私)
 「ひえー、恐いね。そんな恐ろしい爆弾を真似たって、どういうことさ。」と、マナは博士に問い詰めるように言う。が、博士はニタニタ笑いながら、それを無視して、
 「マナ、とりあえずのビールをくれ。」と言って、カウンター椅子に腰掛けた。

 博士はビールをゴクゴクと喉に流し込んで、プハーっと息を吐いて、久しぶりの発明品の話を、もちろん、いつものように大いに得意げな顔になって、始めた。

  見た目が爆弾で、中から爆発的に大量のあるものが出てくるからクラスター爆弾に似ているというわけだが、もちろん、爆発することは無い。空から降ってきて、地面に突き刺さったら扉が開いて、中から小さな玉がたくさん飛び出てくる。小さな玉はそれぞれがパカっと割れて、その中から、おもちゃの兵隊ならぬ、おもちゃの音楽家が出てくる。
 おもちゃの音楽家はそれぞれが楽器を持っており、それを演奏する。出てきた順に、最初は一人で、すぐに三人、十人と人数が増えていって、最後には50人編成くらいのオーケストラとなって、見事な演奏を聴かせてくれる。これを名づけて、「クラスター楽団」という。どうじゃ、カッ、カッ、カッ、愉快だろう。

 ということであった。確かに愉快だ。こういうのが実際の戦場で使われて、命のやり取りをしている兵士の前で演奏会をする。モーツアルトの交響曲なんかを演奏する。そしたらきっと、平和な気分になるに違いない。「戦争やーめた。」になるかもしれない。
 「博士、いいですね。これは最高ですよ。早速、役に立てましょう。」
 「フッ、フッ、フッ、そうか、君もそう思うか。ヘッ、ヘッ、ヘッ。」

 これを使えば世界平和も夢じゃない、博士にしては珍しく役に立つ発明だ。と私は思ったのだが、後日談。ガジ丸に頼んで、ある戦場で試してみたらしい。昔の兵隊ならその音楽に耳を貸したかもしれないが、今の兵隊にはそんな余裕は無いみたいで、おもちゃの音楽隊が出てきて演奏を始めたとたん、ことごとく機関銃の的となったらしい。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.8.29


発明027 一升ビンビン

2008年06月27日 | 博士の発明

 土曜日の午後、シバイサー博士の研究所を訪ねた。ノックをしても返事が無い。博士は寝ているとしても、ゴリコが出てくるはずだ。で、建物の裏手に回る。すると、浜辺の方から、ゴリコの笑い声とガジポの鳴き声が聞こえた。浜辺に向かって歩いて行くと、ゴリコとガジポが浜辺をかけっこしているのが見えた。一人と一匹がすぐに私に気付いて、一人は「こんにちわー」と、一匹は「ワン、ワン、ワン」と声をかけてくれた。
 博士は砂浜に寝そべっていた。サンゴ石を枕にして、顔を海の方に向けている。いつものように酒瓶とコップが傍にあった。のそっと手が動いてコップを口に運んでいるので、寝てはいないようだ。近付いて、「博士。」と声をかける。

 「あー、」と博士は、ごろっと体の向きを陸側に変えて、こっちを見る。
 「博士、知ってますか?マナが妊娠したそうですよ。」
 「ほう、そうか。すると、ジラースーに薬が効いたんだな。」
 「薬って、ジラースーに効いたってことは強壮剤みたいなもんですか?」
 「そうだ。彼のために特別に作ってやった。」
 「あー、それは大きな発明じゃないですか。60過ぎのオジー、・・・の下半身が元気になるんですよね。それはすごい発明だと思いますが。」
 「そうか?そう思うか?」と言って、博士はのっそりと起き上がった。
 「そうか、すごい発明か。そうか。」と繰り返す。顔が緩んでいる。何百年も生きているというのに、博士はちっとも泰然自若しない。褒められることが大好きである。

 「どんな薬なんですか?」と訊いた。
 「中身はまあ、たいしたもんでは無い。昔から強壮に使われていたものをブレンドしただけだ。・・・うん、そうだ。まあ、ちょっと付いてきなさい。」と博士はのったりと立ち上がって、研究所へ向かった。歩きながら続けた。
 「現物を見せてやろう。ジラースーにあげたものの他に、予備としてもう一つ作ってあったのだ。60過ぎにはたくさん必要かもと思ってな。」

 現物は、最近作ったものだけあって、倉庫では無く、研究所の研究室兼実験室兼博士の飲み場所となっている部屋にあった。実験台の上にあった。
 「これがそれだ。」と、博士は少し得意げになって言う。現物は、一升瓶を二つくっつけたような形であった。強壮剤の容器にしては大きすぎる。名前らしきものがラベルに書かれてある。小さな方に『一升瓶瓶』、一升瓶を二つくっつけた形だからということであろう。大きな方には『一生ビンビン』とある。下ネタ系の駄洒落だ。
 「博士、これ、ずいぶん大きいですが、中は全て強壮剤ですか?」
 「もちろん。これを飲んだお陰でたぶん、ジラースーは子作りができたのだ。」
 「ほう、そうですか。もし、それが本当なら、これ、売れるんじゃないですか。世のオジサンたちには欲しがる人が多くいると思いますよ。」
 「いや、それがだな。ただでさえ地上には人間が溢れている。こういうのを飲んで元気になる男が増えたら、さらに人口が増えてしまう。それは、地球全体のことを考えると良いことでは無いと思ってな、販売はしないことにした。」
     

 とのことであった。それにしても、ジラースーがこういうのを欲しがったとは意外である。彼が子供を欲しがっているとも思わなかった。マナのために頑張ろうと思ったのだろうか?と不思議に思って、その後、ジラースーに会い、そのことを訊いた。
 「ん?博士の強壮剤?一升瓶瓶?・・・あー、あれか。確か、結婚後すぐに博士からプレゼントされたな。『夫婦の絆が深まるぞ』なんて言ってたな。」
 「で、飲んだの?その効き目があったってことなの?」
 「いや、せっかくの博士の好意だが、飲まなかったな。子供は天からの授かりものだ。できる時はできるし、できない時はできない。それが俺の考えだ。」
 「そうなんだ。で、その薬はどうしたの?まだあるの?」
 「いや、確か畑の野菜に撒いたよ全部、マナが。」

 とのことであった。マナは、「いいよ、こんなの飲まなくったって。別に、無理しなくていいからさ。」と言ってくれたそうだ。なかなか良い夫婦である。自然体の幸せだ。こんな夫婦だから、天も二人に幸福を授けたに違いない。それに、60歳過ぎているとはいえ、ジラースーの体は強健である。薬は元々必要無かったであろう。

 記:ゑんちゅ小僧 2008.6.27


発明026 くっつくつ

2008年05月30日 | 博士の発明

 先週、ユクレー屋一帯に大雨が降った。元々、ユクレー島には定期的に、日常生活の邪魔にならないよう概ね夜中という時間帯だが、十分な量の雨が柔らかく降っている。シバイサー博士がそのようなプログラムを組んでいるのだ。が、先週、ユクレー屋近辺に降った雨は、スコールのような土砂降りであり、また、夕方という時間帯であった。マナがそうするよう博士に頼んだのであった。ケダマンの体を洗濯するためだそうだ。そして、これからも毎月第四金曜日には同じような雨が降るとのことであった。

 雨から一週間が経った今日、久々にシバイサー博士の研究所を訪ねようと昼間、ユクレー屋の前を通ったら、庭にケダマンがいた。先週、その雨で体を洗ったせいか、何となく小奇麗に見える。さっぱりとした感じ。で、庭に入って声をかけた。
 「良かったじゃないか、月1回は体が洗えるようになって。」と言うと、
 「おー。」とケダマンは応え、少々憮然とした表情になって、
 「俺の洗濯は俺の問題であり、他人にとやかく言われることでは無い。大きなお世話なのだ。だが、それはまあ、いい。洗濯することは面倒だが、悪いことでは無い。やってみれば、思いの外さっぱりして、その後気分良く酒が飲めたしな。だがよ、大雨のせいで、雨漏りがしたからって、何で俺が修理しなきゃいけないんだ。」
 先週の雨はほんの15分ほどであったが、酷い土砂降りだった。それで、ユクレー屋に雨漏りがするということが判明した。その修理を、マナがケダマンに命じたらしい。 
 「まあ、しかし、しょうがないじゃないか。ウフオバーやマナにできる仕事じゃない。彼女達には屋根に上ることだって難しいよ。ケダマンならそれは簡単だろ?」
 「まあ、そりゃあ確かにそうだが、人間もよ、スパイダーマンみたいに壁をひょいひょいと歩けるようになればいいんだ。そういう機械を作りゃあいいんだ。」
 ということで、思いがけず、博士に会う明確な目的ができた。

 博士は研究所にいた。一人だった。ゴリコとガジポは浜辺で遊んでいるらしい。
 「おー、新しい発明は何も無いぞ。」と、博士は私の顔を見るなり言う。
 「あっ、そうですか。いえ、違うんです。今日は、じつは、」と、私はユクレー屋でのケダマンとのやり取りをかい摘んで話し、単刀直入に訊いた。
 「ということで、壁を歩けるような機械はないですか?」
 「壁を歩く?」と博士は言い、「フッ、フッ、フッ、」と笑う。・・・あるのだ。
 「壁を歩きたいんだな、ヘッ、ヘッ、それならいいのがあるぞ。」
 「やはり、あるんですか。それはどういったものですか?」
 「うん、百聞は一見にしかずだ。付いて来なさい。」

 研究所の裏庭に出た。私をそこで待たせて、博士は倉庫に行って、そして、すぐに戻ってきた。手にはテレビの時代劇で見る草鞋(わらじ)のようなものを持っていた。
 「これを履いてみなさい。」と、それを手渡す。私の小さな足には大き過ぎるように見えたが、草鞋みたいなものなので、紐を結ぶと、足をしっかりと包んでくれた。
 「そのまま地面を歩くように壁を歩いてみなさい。」と言うので、研究所の壁に右足を置いた。くっついた。左足も置いた。くっついた。しかし、くっついたまま離れない。
 「博士、これ以上動かせませんが?」
 「足裏の前半分が壁にくっつく。踵を上げると前半分も剥がれる。」と言う。言われた通りにすると簡単に剥がれた。そして、壁をひょいひょいと歩くことができた。
 「博士、これ、いいですよ。完璧ですよ。」
 「ふむ、ふむ、ふむ、そうであろう。」と博士は大きく胸を張る。どうせまた、くだらない駄洒落であろうとは思ったが、いちおう訊いてみた。
 「博士、これ、名前は何て言うんですか?」と。すると案の定、よくぞ訊いてくれた、待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべて、
 「名前か、それは『くっつくつ』と言う。」と、さらに胸を張る。名前も気に入っているみたいである。まあ、悪くは無い。前のバーキヤロウよりはマシだ。
 「博士、これ、ちょっとお借りしていいですか?」
 「おう、構わんぞ。ユクレー屋の屋根修理に役立てたらいいさ。」

 というわけで、壁をスタスタ歩くことのできる博士の発明『くっつくつ』を持って、私はユクレー屋に向かった。別れ際、「マナに使わせてみよう」と私が独り言のように言ったのを聞いて、「マナに?・・・それはちょっと・・・」と、博士が不安げな表情を見せたのが少し気になったが、役に立ちそうなものと確信した私は、先を急いだ。
  ユクレー屋に着いて、マナを外に呼び出して、早速試す。先ずは私が壁をスタスタ歩いて見せた。マナは大喜びだった。で、マナもやってみる。『くっつくつ』はマナの足にもピッタリ収まった。そして、マナは高く足を上げて、ユクレー屋の壁に右足を置いた。くっついた。左足も置いた。くっついた。それと同時にドスンという音がして、マナの悲鳴があがった。両足を壁にくっつけたまま後頭部を地面に打ち付けたのだ。
 私は背が低く、マジムンなので体も軽いが、マナは人間であった。重くて、体を地面と平行に保つことができないのであった。「マナに?・・・それはちょっと・・・」と博士が言っていた理由はこれだったのだ。どうりで、倉庫に仕舞われていたわけだ。『くっつくつ』もやはり、人間には役に立たない発明だったのだ。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.5.30


発明025 バーキヤロウ

2008年05月16日 | 博士の発明

 穏やかな気候の週末、浜辺を散歩していたらシバイサー博士に会った。例の如く、とろーんとした目をしていた。で、酒の話を思い出して、先日、「誰が一番酒に強いか」っていう話題で盛り上がったという話をする。博士はちょっと興味があるようで、
 「誰が一番酒に強いかは判らんが、誰が一番大酒飲みかは判っている。」と、口の辺りを手で摩りながら博士は言った。博士がその名を出す前に、私が答えた。
 「それは私も判っています。大酒飲みは間違いなく博士です。」
 「んだ、その通り。だが、私よりもっと大酒飲みがいる。これは、マジムンでも人間でも無いので『誰が』という範疇には入らないと思うが、まあ、あえて含めてもらえれば、そいつが断トツに一番大酒飲みだな。何しろ、酒を飲むために作ったからな。」
 「作ったということは、それはロボットですか?」
 「んだ。名前をバーキヤロウという。バーキは知ってるな?ウチナーグチでザルのことだ。その名の通り、酒に対してバーキということだ。」
 「はあ、それは判りますが、そんなロボットがいったい何の役に立つんですか?」
 「酒に溺れる人間のために作った。アル中防止ロボットと言っても良い。」
 「ほほう、それは良いですね。大いに役に立ちそうですね。」
 「飲みに行く際、これを携帯していく。20センチほどの高さしかないので、テーブルの上、膝の上、足元などに置いても邪魔にならない。そして、バーキヤロウはその人間の酔い加減をセンサーで感知して、飲みすぎると注意してくれるというわけだ。」
 「博士、でも、たぶん、注意するだけでは飲兵衛は止まらないでしょう?」
 「その通り。そこで、その人間が限界を超えそうになると、バーキヤロウの最終システムが起動する。人が酒を飲もうとすると、横からその酒をスップ(吸取)って奪い取るのだ。酒を奪い取って、その代わりに酒の味がするアルコール成分ゼロの特別な液体をグラスに入れる。人間はいくらグラスを口に運んでも、もうそれ以上アルコールを飲まなくて済むわけだ。また、バーキヤロウのお腹は異次元世界に繋がっていて、どんなに大量の酒でも平気なのだ。だから、飲むのを諦めるまでそれを続けることができる。」

  そこまで聞いて、これは、博士にしては珍しく役に立ちそうなロボットだと思った。需要は多いに違いない。たくさん売れるかもしれない。
 「で、博士、それは実用化されたのですか?使った人間はいるのですか?」
 「実用化っていえば実用化できないこともないが、前に、ジラースーの友達でひどく酒に溺れる男がいてな、彼に1度使わせたことがある。」
 「ほほう、で、その実験結果はどうでした。」
 「いやー、私も酒飲みのくせして、酒飲みの気持ちを甘く見てたよ。」

 その結末についての博士の話を要約すると、ジラースーの友達がバーキヤロウを携帯して飲みに行った。ジラースーも同席していて、話はジラースーからの情報である。
 いくら飲んでも酔いが深くならない男は、しまいには怒って、『バーキャヤロウ』と大声で怒鳴りながら、バーキヤロウを叩き潰したとのことであった。バーキヤロウ、最初の名前はバーキダヨーンだったらしいが、そのエピソードの後にバーキヤロウと改名したということである。どうせ役に立たないんだったら、改名する必要も無かろうと私は思ったのだが、博士は、その名前にだけは満足しているみたいであった。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2008.5.16