折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

『家康影武者』説の魔力~宮本昌孝著『家康、死す』

2010-12-27 | 読書
時代小説作家にとって、家康を影武者に仕立て上げるストーリーは、余程魅力のあるテーマらしい。

先に我が国を代表する伝奇小説の第一人者の一人である荒山 徹が『徳川家康(トクチョンカガン)』(実業之日本社)を発表すると、今度は『剣豪将軍義輝』、『海王』といった時代小説の大傑作を書いた、あの宮本昌孝が『家康、死す(上・下)』(講談社)を上梓した。

 
家康、死す(上・下)(宮本昌孝著、講談社)(左)伝奇小説の分野で金字塔を打ち立てた影武者徳川家康(上・下)(新潮社)

荒山、宮本両氏とも、『家康は、関ヶ原の戦いで殺された』こんな大胆不敵な設定で、伝奇時代小説の分野で、不滅の金字塔を打ち立てた隆慶一郎の『影武者徳川家』(新潮社)が念頭にあったのは、言うまでもないだろう。

宮本氏が隆氏の牙城にどれだけ迫ることができるか、大いなる期待と一抹の不安を抱いて読んだ。

本作品は、家康を暗殺したのは誰なのか、また、何のためなのかという謎解きの要素が強いので、余りストーリーには触れないが、家康の長男の信康が武田方と内通したかどで切腹させられる経緯に、家康と信康との間に抜き差しならぬ確執があったという宮本説には、なるほどそんな解釈も在り得るのかと興味深く読んだし、また、最後に『大どんでん返し』が用意されているなど、読み物としては非常に良くできていると思ったが、あの名手宮本昌孝をもってしても、隆慶一郎を凌駕することはかなわなかったな、というのが読み終えての第一感であった。