指揮者マリス・ヤンソンスとバイエルン放送交響 楽団のコンサートを聴き
にサントリーホールの入り口に集まった人たち。
秋の一夜、弟とサントリーホールに来日中の指揮者マリス・ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団のコンサートを聴きに行って来た。
この日の演奏曲目は、ソリストにヴァイオリンの五島みどりを迎えてのベートーベンのヴァイオリン協奏曲とチャイコフスキーの交響曲第5番。
サントリーホール 2階・RA2列・12番
サントリーホールは今回で3回目。前回は最前列に近い席であったが、今回は2階席の2列目。
丁度、ステージの真横で、舞台を見下ろす位置。最初は、「えぇ、こんな場所かよ」とちょっと不満だったが、演奏が始まって、すぐに不満どころか、この上なく聴き応え、見応えとも十分な場所であることがわかった。
とにかく、ステージが目の前なので、指揮者、ソリスト、オーケストラの楽員の様子が逐一良く見て取れるのだ。
指揮者マリス・ヤンソンスの指揮棒の動き、左手の動き、そして顔の表情が手に取るようにわかる。
また、前列からは絃楽器群に隠れて良く見えないオーボエ、クラリネット、フルート、ファゴットと言った楽器演奏者が演奏に入るタイミングや演奏している様子が実に良く見える。
特に、オーケストラの一番後ろのティンパニーには、あんなに多くの種類の撥(ばち)=マレットがあって、それを使い分けているのだと初めて知った。
『トランス』現象
この日のお目当ては、五嶋みどりが弾くベートーヴェンのコンチェルト。
このヴァイオリン協奏曲は、数あるベートーヴェンの作品の中でも特に気に入っている曲の一つで、これまでヘンリック・シェリングやダビット・オイストラフといった名盤のCDをあきるほど聴いているが、コンサートで聴くのは、シェリングが2度目の来日をした時以来だから、実に40数年ぶりである。
五嶋みどりは、日本を代表する世界的な音楽家の一人であるが、生演奏は勿論のことCD等でも聴いたことがない。
この日、初めてその音色を耳にするのである。期待に胸が高鳴る。
第1楽章はティンパニの連打で始まり、そのあとオーケストラによる長い第1・第2主題が演奏される。
バイエルン放送交響楽団のホール全体に響き渡る豊かな響き、深く温かい音色が全身を包みこむ。
第1・第2主題の提示のあと、いよいよ、五嶋みどりのソロ・ヴァイオリンが登場する。
そして、ヤンソンスとバイエルン放送響の熱いエネルギーに触発されたかのように、次第に激しさと熱さを増していく彼女の演奏。
その凄まじいまでの曲に対する集中力には、息をのんで聴き入る。
特に第一楽章と第三楽章の終盤に演奏されたカデンツァ(独奏部分)は圧巻。
ヴァイオリンを弾く彼女の体は、あたかも催眠術にでもかかったかのように、前後、左右に大きく揺れる。それは、まさに【トランス】状態に入った演奏であった。
「入神」の演奏とは、このような演奏を言うのではないだろうかと思った次第である。
熱狂的なカーテンコール
彼女の演奏が終わった瞬間から、サントリーホールは異様な興奮に包まれた。
超満員の観客から、割れんばかりの、ホールを揺るがす、地鳴りのような拍手が鳴りやまないのである。
こんな熱狂した場面に初めて出っくわした。
鳴り止まぬ拍手の嵐にこたえて、彼女は5回もステージに現れた。
そして、その興奮を鎮めるかのようにアンコール曲としてJ.S.バッハ作曲「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 第2楽章」を静かに弾き始めた。
これがまた祈りとやさしさに満ちた素晴らしいバッハで、魂が奏でるヴァイオリンの音に息をのむように聴き入ったのであった。
一期一会
この夜は、耳で聴き、目で見、体で感じることで感動が倍加する生演奏ならではの癒悦の一時を体験できて大いに満足するとともに、このような素晴らしい演奏会に巡り合えた幸運を心から喜び、感謝した次第である。
そして、コンサートは演奏者と聴衆との『一期一会の場』なのだと言うことを改めて実感したのであった。
バイエルン放送交響楽団日本公演プログラム
◆ 日時・場所
11月16日(月)午後7時開演
東京 サントリーホール
◆ 演奏曲目
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲二長調OP・61
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調OP・64
◆ 演奏者
マリス・ヤンソンス指揮、バイエルン放送交響楽団
五嶋みどり ヴァイオリン