英イングランド西南部のソールズベリー市で3月4日、ロシア人父娘が意識不明の重体で発見された事件は、神経剤による毒殺未遂事件と判明、ロシアによる犯行との見方も浮上している。ロシア大統領選を1週間後に控え、再選を狙うプーチン政権は捜査の行方に神経を尖らせている。
現地などの報道によると、意識不明で発見されたのは、英国在住の元二重スパイのロシア人男性、セルゲイ・マクリパリ氏(66)と娘のマリアさん(33)。同市内の公園にいるところを保護され、病院に運ばれた。ロンドン警視庁が調べた結果、7日、神経剤(神経伝達を阻害する作用を持つ化合物)によるものと分かり、毒殺未遂事件として本格的な捜査を開始した。
英当局は9日、化学物質の除染を行う専門部隊約180人を同市に派遣した。神経剤は、マリアさんがロシアから持参したお土産の中に混入されていたとの報道もあり、英当局はロシア側が2人を殺害するため神経剤を混入させたとの見方を強めているという。これに対し、ロシアのラブロフ外相は「英国側のプロパガンダだ」と批判する談話を発表、けん制している。
この事件で思い浮かぶのは2006年11 月、元ロシア連邦保安庁(旧KGB)幹部、アレクサンドル・リトビネンコ氏(当時44才)がロンドンで毒殺された事件だ。同氏はロンドン市内のホテルで、お茶に放射性物質ポロニウムを入れられ、毒殺された。英国当局は独自捜査でロシア政府関係者の犯行と断定、ロシア政府に容疑者の取り調べを要請したが、プーチン政権が拒否したため、犯人を特定できずに終わっている。犯人と目された人物はその後、ロシアの国会議員を務めた。こうした経緯もあって、英国当局は今度こそ真犯人を上げようと全力投球している模様だ。
一方、ロシア側からすると、プーチン大統領の再選がかかった選挙を18日に控え、できるだけ穏便に済ませたいところだ。英国だけでなく、西側全体がこの事件に注目、ロシアへの警戒感を持つと、ロシア国内の民主派勢力を刺激し、選挙にも影響を与えかねないからだ。
リトビネンコ事件でも、旧KGB出身のプーチン大統領の関与が注目され、ロシア民主派内部では大統領が指示したとの見方も出ていた。今度の事件でも、プーチン政権が非協力的な態度をとれば、痛くない腹を探られることになりそうだ。大統領選で圧勝を狙っているプーチン大統領にとって、厄介な事件が起きたと言える。
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